恩赦(読み)オンシャ

デジタル大辞泉 「恩赦」の意味・読み・例文・類語

おん‐しゃ【恩赦】

行政権によって公訴権を消滅させ、あるいは刑の言い渡しの効果の全部または一部を消滅させること。大赦特赦減刑、刑の執行の免除、および復権の5種がある。
律令制で、天皇の大権によって刑罰を軽減すること。皇室・国家の慶事、凶災の際などに行われた。江戸時代には幕府や諸大名も行った。
[類語]特赦大赦減刑

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共同通信ニュース用語解説 「恩赦」の解説

恩赦

行政権によって、裁判で確定した刑罰の内容を変更させたり、消滅させたりする制度。明治憲法下では天皇の大権事項とされていたが、現憲法下では国事行為として内閣の助言と承認により天皇が認証する。恩赦法政令恩赦個別恩赦の二つを規定。政令恩赦は罪や刑の種類、基準日などを決め、該当する全員に効力が一律に生じる。有罪判決が無効になる大赦、刑を軽くする減刑、資格制限を回復する復権がある。個別恩赦は可否を個別に中央更生保護審査会が審査。国の慶弔に関係なく行われる常時恩赦と、内閣が一定の基準を設け、期間を区切る特別基準恩赦がある。

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精選版 日本国語大辞典 「恩赦」の意味・読み・例文・類語

おん‐しゃ【恩赦】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 律令制で、慶事凶事にあたって天皇が恩恵をもって罪をゆるし、刑を免ずること。罪の軽重、種類、地域などによって、大赦、非常赦常赦、臨時赦、曲赦などがあった。赦。赦宥(しゃゆう)。免物。免者。〔新儀式(963頃)〕 〔韓愈‐赴江陵途中詩〕
  3. 裁判によって確定した刑罰を行政権の作用によってゆるし、その内容、効果を変更または消滅させることで、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権の五種の総称。内閣が決定し、天皇の認証を得て行なう。この認証は天皇の国事行為の一つ(憲法一七条)。
    1. [初出の実例]「恩赦があるから、〈略〉十年つとめて出てくれば、いい顔だ」(出典:いやな感じ(1960‐63)〈高見順〉二)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「恩赦」の意味・わかりやすい解説

恩赦
おんしゃ

司法手続によることなく、国家の具体的な刑罰権の全部または一部を消滅させること。大日本帝国憲法のもとで恩赦は天皇大権に属していたが、現行憲法は、内閣が決定し、天皇が認証することにした(憲法73条7号、7条6号)。恩赦の種類・内容については、1947年の恩赦法(昭和22年法律第20号)に定められている。同法によれば、恩赦には、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除、および復権の5種がある。

[名和鐵郎]

大赦

政令により特定された犯罪につき刑罰権を一般的に消滅させることであり、対象が特定人に限られることはない。このなかにも、(1)有罪の言渡しを受けた者につきその言渡しの効力を消滅させる場合と、(2)有罪の言渡しを受けない者につき公訴権を消滅させる場合とがある(恩赦法3条)。

[名和鐵郎]

特赦

有罪の言渡しを受けた特定の者に対して、有罪の言渡しの効力を失わせるものである。大赦、特赦のいずれの場合にも、有罪言渡しの効力が失われれば、受刑者は釈放され、執行猶予中の者は猶予期間満了と同じ効果を得ることとなる。

[名和鐵郎]

減刑

刑の言渡しを受けた者に対し、政令により罪または刑の種類を定めて一般的に刑を減軽すること(一般減刑)、および刑の言渡しを受けた特定の者に対し刑を減軽するか、刑の執行を減軽すること(特別減刑)をいう。ただ、刑の執行猶予期間中の者については、刑を減軽するにすぎない場合と、この減軽に加えて執行猶予期間をも短縮することもできる。

[名和鐵郎]

刑の執行の免除

刑の言渡しを受けた特定の者に対しこれを行う。ただし、刑の執行猶予期間中の者に対してはこれを行うことはできない。刑を言い渡さない刑の免除とは異なる。なお、恩赦の一種として行われるほかに、刑法上刑の時効が完成したときその執行が免除される(刑法31条)。

[名和鐵郎]

復権

一般復権と特別復権がある。一般復権とは、有罪の言渡しを受け法令により一定の資格を喪失したり、これを停止された者に対し、政令で要件を定めて一般的に資格を回復することをいう。特別復権とは、特定の者に対して個別的に復権を認める場合である。なお、恩赦の一種としての復権のほかに、現行刑法にも法律上の復権がある。

 恩赦は、法の画一的な適用に伴う弊害除去誤判の救済、刑事政策的な必要性などに関し一定の機能を果たしうるが、行政府により司法判断を修正するものであるから、政治的に濫用される危険性があることに留意しなければならない。

[名和鐵郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「恩赦」の意味・わかりやすい解説

恩赦 (おんしゃ)

国家が自ら刑罰権やその効果を否定し消滅せしめる行為。英語でpardonという。主権者の〈慈悲〉を源泉として国家的慶弔を事由に行われ,長く合理的規整の外に置かれていた。国家元首による恩赦が乱用されたため,カントらの啓蒙思想家に制度そのものが批判され,フランス革命期には憲法制定議会によって廃止されたこともあった。しかし,刑事司法の画一的形式性の緩和,誤判の救済などの見地において有意義なので,現在でも各国でひろく認められている。近代日本において第2次大戦前は天皇大権の下にあった恩赦は,戦後は憲法の規定(73条,7条)の下に内閣が決定する。その内容は恩赦法(1947公布)に定められ,大赦,特赦,減刑,刑の執行免除,復権からなる。これは方式の点から,政令恩赦(大赦,一般減刑,一般復権)と,個別恩赦(特赦,刑の執行免除,特別減刑,特別復権)とに区分される。両者の最も重大な相違は,手続上個別恩赦には中央更生保護審査会(更生保護)という審議機関があるのに対し,政令恩赦にはそのような審議機関がなく,決定が時の内閣の専断にゆだねられる点にある。

 戦前の恩赦を歴史的にみると,1868-69年(明治1-2)にかけて集中的に大赦,特赦,減刑が行われている。明治天皇の元服,即位,改元を事由とするこれらの恩赦は,江戸幕府から明治政府への権力の交代における正統性の明示にほかならない。この後は,1889年憲法発布と1945年大戦終局という明治国家の起点と終点とを含み,天皇の代替り(明治天皇大喪,大正天皇大喪)を加えて,大赦,特赦が4回行われている。また帝国拡張にともない,1897年英照皇太后大喪に際し台湾大赦,1910年日韓併合に際し朝鮮大赦,1920年李垠・方子成婚に際し朝鮮減刑というように,植民地に特定した恩赦が行われた。現行憲法の下では,1946年憲法公布,52年講和条約発効,56年国連加盟と国際社会への復帰を指標に,占領目的の法律関係の処理を実質的内容として,大赦,特赦が施行された。したがって以後は,59年皇太子成婚,68年明治百年記念,72年沖縄返還のいずれの恩赦も復権にとどまり,大赦,特赦は特に事由なしとして行われていない。その他の恩赦の一般的事例は,現在では選挙犯罪における復権等に最もよく見られるといえよう。

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知恵蔵 「恩赦」の解説

恩赦

罪を犯した人の刑罰を、特別に軽くしたり、消滅させたりする制度。有罪判決などが無効になる「大赦」や「特赦」、刑期が短くなったり、刑が軽くなったりする「減刑」、「刑の執行の免除」、有罪判決によって失われた資格を回復する「復権」の5種類があり、日本国憲法では、内閣が決定し、天皇が認証するなどと定められている。恩赦の方法については、政令で対象犯罪などを決めて一律に行う「政令恩赦」と、個別の審査によって実施するかどうかを決める「個別恩赦」がある。個別恩赦は、日常的に行われる「常時恩赦」と期間を限って行われる「特別基準恩赦」の2種類がある。
恩赦の起源は奈良時代にさかのぼると言われており、国の慶弔時に行われてきた。明治憲法下では天皇の権限で行われていたが、戦後、現在のような形式になった。日本国憲法下では、サンフランシスコ講和条約の発効や沖縄の本土復帰といった政治的な行事や、天皇の逝去などの際に、数千人から1000万人超の規模で行われてきた。犯罪をした人の更生意欲を高め、社会復帰を促すことなどが目的とされるが、「司法が判断する刑罰に、行政が介入すべきではない」「行事に合わせて行うのは不平等」などの批判もある。
直近では2019年10月22日、天皇陛下が即位を内外に宣言する「即位礼正殿の儀」に合わせて、約55万人を対象に、天皇、皇后陛下が結婚した1993年以来、26年ぶりに恩赦が実施された。今回の対象人数は、現在の上皇さまが天皇に即位した際(約250万人)と比べて4分の1に満たない規模となった。政令恩赦と特別基準恩赦が行われ、政令恩赦は、罰金刑を受けて罰金を納付してから、3年以上が経過した人を対象に「復権」のみが実施された。過去の恩赦では、「大赦」や「特赦」が含まれることがあったが、政府は今回、「犯罪被害者やその遺族の心情などに配慮し、対象範囲を限定的にした」と説明している。特別基準恩赦は、病気などで長期間、刑の執行が停止されており、今後も刑の執行が困難な人に対する「刑の執行の免除」と、罰金刑を受けたことが社会生活上の障害となっている人を対象にした「復権」に限り、2020年1月21日まで出願を受け付けるとした。

(南 文枝 ライター/2019年)

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百科事典マイペディア 「恩赦」の意味・わかりやすい解説

恩赦【おんしゃ】

元首その他国の最高権威者が国家刑罰権の全部または一部を消滅させること。その目的は画一的な法の適用に伴う欠点を除き,犯人に対し公正妥当な措置を行うこと,事情の変更により処罰する必要がなくなった場合にそれを避け,あるいは国家の慶弔に際し喜びを分かち,または冥福(めいふく)を祈ることとされるが,その乱用は許されない。日本国憲法では内閣がこれを決定し,天皇が認証する(憲法73条7号)。大赦特赦減刑,刑の執行免除,復権があり,細部は恩赦法(1947年)に規定。
→関連項目死刑日親犯罪者予防更生法

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普及版 字通 「恩赦」の読み・字形・画数・意味

【恩赦】おんしや

天子の恩命により刑を減免する。大赦。唐・白居易〔~禁囚を奏する状〕詩 後兩(ふたた)び恩赦にひ 今春(くだ)る

字通「恩」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「恩赦」の意味・わかりやすい解説

恩赦
おんしゃ
pardon

行政権の作用により,公訴権を消滅させ,または裁判所による刑の言い渡しの効果の全部または一部を消滅させること。刑事政策的見地からなされるものと,政治的観点からなされるものとがある。日本では,内閣が決定し (憲法 73条7号) ,天皇が認証する (7条6号) 。恩赦法の定めによれば,恩赦には大赦特赦,減刑,刑の執行の免除,復権の5種類がある。恩赦は,これを行う方法で分けると,政令により罪の種類などを定めて一律に行われる政令恩赦と,中央更生保護審査会の申し出に基づいて行われる特定個人に関する個別恩赦とがある (前者の例として,たとえば,皇太子成婚恩赦,沖縄復帰恩赦など) 。

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世界大百科事典(旧版)内の恩赦の言及

【赦】より

…日本古代の赦は,すでに大化前代に見られるが,その事例の多く存するのは,律令法が受容された奈良朝以降である。日本の律令に現れた恩赦には,赦,降,勅放の3種がある。赦は恩赦,大赦ともいい,特定個人を対象とせず,広く天下一般に布告するもので,犯罪者の罪を全免する。…

※「恩赦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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