意欲障害(読み)いよくしょうがい

改訂新版 世界大百科事典 「意欲障害」の意味・わかりやすい解説

意欲障害 (いよくしょうがい)

欲動意志をあわせて意欲という。欲動は自発的に発生する,何かをしようとする衝動であり,緊張した,不快な感情をともなうが,それが解放されると快の感情が生じる。欲動が無意識的,本能的なものであるのに対し,意志は動機から発生した意識的な目標設定であって,行動や態度として表現される。したがって意志作用には欲動,選択可能性,決断,行為の結果についての態度決定が含まれている。意欲の病的障害を総称して意欲障害といい,一般に次のものがあげられる。

 〈衝動行為impulsive action〉 一定の強い欲動が意志の統制を受けずに突然出現するもの。放火癖,盗癖などがある。〈意欲増進hyperbulia〉 欲動の亢進によって意志発動が促進された状態である。これが異常に亢進して次々と行為をするものを行為心迫といい,躁病にみられる。〈意欲減退hypobulia〉 欲動が低下し意志行為の自発的発動がない状態で,なんらなすところなく無為な生活を送る。情意鈍麻のある統合失調症や脳器質的疾患(前頭葉障害や脳の広範な障害など)にあらわれる。〈制止inhibition〉 意志行為が不活発となり,実行に移しにくく,決断もできなくなる。うつ病の一症状である。〈途絶blocking〉 一定の意志傾向とそれに相反する傾向が対立し,そのために行動が停止してしまうこと。統合失調症の一症状である。〈昏迷stupor〉 意識は清明であるにもかかわらず一切の自発的行動が消失し,外部からの刺激にもまったく反応しない状態。統合失調症,うつ病,ヒステリーにみられる。〈興奮excitement〉 病的な気分をともなって激しい運動が増加する状態であり,不安,爽快気分に基づくが,動機不明の場合もある。〈緊張病症状群catatonic syndrome〉 統合失調症の緊張型に出現する症状。動機が不明な,関連性のない行動であり,奇異な感じを受け,表情,態度にかたさが感じられる。興奮,昏迷,衝動行為などのほかに,カタレプシー,しかめ顔,常同症,拒絶症,自動的に検者と同じ動作をくりかえす反響症状などが出現する。

 欲動の異常としては次のものがあげられる。自己保存欲の異常には自殺,自傷があり,食欲の異常には拒食,神経性無食欲症,多食症,異食症,食糞がある。また収集癖もあげられる。性欲の異常ないし性倒錯には,量的異常として性欲亢進性欲減退とがあり,質的な異常では対象の異常として動物嗜愛,児童嗜愛,獣姦自己愛,死体嗜愛,服装倒錯があり,満足手段の異常としてフェティシズム,露出癖,窃視症,サディズム,マゾヒズムがある。
意志
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の意欲障害の言及

【拒絶症】より

緊張病症状群の一つの症状であり,意欲障害に基づくもの。患者はあらゆることを拒否し,反対の行動を示す。…

※「意欲障害」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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