肺に出入りする空気の通り道を気道といいますが、鼻や口から声帯までを上気道、その奥の気管支を下気道といいます。かぜは上気道の炎症性の病気なので
「原因は何か」に示すかぜウイルスが鼻や口から侵入して上気道の粘膜の細胞に吸着・侵入(これを感染という)すると、
かぜの原因の9割以上はウイルス感染ですが、一部に
かぜを起こすウイルス(かぜウイルス)を詳しく数えれば100種類以上もありますが、代表的なものは約10種類です。すなわち、
・季節にあまり関係なく主に鼻かぜを起こすライノウイルスやコロナウイルス
・夏を中心に腹痛、下痢などおなかの症状を伴いやすいエンテロウイルスやエコーウイルス、コクサッキーウイルス
・春や秋のかぜに多いアデノウイルスとパラインフルエンザウイルス
・冬に多くて子どもに重症の肺炎を起こすことのあるRSウイルス
・インフルエンザウイルス(インフルエンザウイルス肺炎)
などが代表です。
かぜの多くは季節との関連が強い(図1)のですが、かぜの誘因には乾燥や寒冷、温度変化などのほかに、疲労や睡眠不足などもあります。もちろん、かぜのほとんどは感染症ですから、周囲にかぜが流行していることが最大の誘因であり、原因であるといえるでしょう。
ウイルスの種類によって症状は少しずつ異なります(図2)。通常、体のだるい感じや寒気、のどや鼻の乾燥感などが1~2日続いたあと、のどの痛みや鼻水、鼻づまり、頭痛、発熱などが現れます。そのまま治ることも多いのですが、引き続いて
しかし、これらの症状は侵入したウイルスに熱を加えて退治したり、粘液に溶かし込んで弱らせながら痰として体外に排出したりする正常な防御反応ですから、体力を損うような症状でなければむやみに解熱したり咳を
ただ、ウイルスを退治するために体内で生産される物質(炎症性サイトカインなどという)は頭痛やだるさ、鼻水、のどの痛み、高熱、食欲不振などの副反応を引き起こします。小さな子どもでは、腹痛や下痢、嘔吐などの全身症状が出ます。こうした体力を弱らせる症状は抑える必要があり、その治療(解熱薬、鎮痛薬、整腸薬、点滴など)を対症療法といって、かぜの大切な治療法のひとつです。
ところで、ヒトは年に何回くらいかぜをひくのでしょうか。子どもは年に平均4回以上、大人は2回以上とか、5歳以下は年8回以上、その母親は5回以上、父親も4回以上とする統計などがありますが、軽いかぜのことは忘れやすいので、それ以上かもしれません。
かぜの症状は誰でもわかりますが、どのウイルスが原因なのか、細菌によるかぜなのかの判別は医師にも難しいので、単なるかぜでも診察は綿密に行われます。最初に病歴や、どんな症状がいつから起こり、どのように変化したか、市販薬をのんだ場合はどのように変化したか、まわりに似た症状の人はいないか、などが聞かれます。
診察では、のどや
ウイルスや細菌の種類によって症状や体に現れている変化(所見)が違うのでこのように診察するのですが、正確には鼻の奥やのどを綿棒でこすり、そのなかにどのようなウイルスがいるのか、あるいはそれぞれのウイルスに特有な部品(
場合によっては血液をとって白血球の数を調べたり(ウイルスによる場合は通常減り、細菌による場合は増える)、炎症反応(CRPなど)を調べたりします。どのウイルスに対する免疫(抗体)が増えているのかを調べることもありますが、抗体は治るころになってようやく増えるので、具合がよくなってから血液検査をすることが多いのです。また、肺炎になっていないかどうかを確認するために胸部X線検査を行います。
かぜと似た他の病気が隠れていることがあり、それらの有無について調べることを鑑別診断といいます。区別すべき最大の病気は、上気道では
かぜの治療は大きく2つに分けられます(図3)。「症状の現れ方」で述べた、体力を弱らせてしまうような症状を抑える対症療法がそのひとつです。
解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬、うがい薬、整腸薬、点滴などですが、解熱成分、鎮痛成分、抗炎症成分などをひとつの錠剤や散剤にまとめた総合感冒薬がその代表です。総合感冒薬には多くの種類があり、とくに鼻みずを抑えるもの、頭痛を抑えるものなど、少しずつ違うので、薬局の薬剤師に相談してください。
もうひとつは原因療法です。かぜの原因であるウイルスや細菌(ウイルス感染に続いて発症することが多い)を直接退治する根本的な治療です。細菌に効く抗菌薬はたくさんありますが、インフルエンザウイルス以外のかぜウイルスに効く薬はまだありません。重症になりやすいRSウイルスや心臓の合併症が出やすいコクサッキーウイルスなどは、とくに治療薬がほしいものです。
漢方薬はどうでしょうか? 市販の感冒薬にも漢方成分を配合した薬があります。実は近年、漢方薬の成分が、「症状の現れ方」で述べた炎症性サイトカイン(たくさんの種類がある)をさまざまに調節して、かぜやインフルエンザの諸症状を鎮めることがわかってきました。経験的につくられてきた漢方薬のはたらく仕組みが、実は合理的であることが科学的に解明され始めたのです。解明がさらに進めば、漢方薬がもっと使われるようになると思われます。
かぜは通常、すぐに受診する必要はありません。安静や市販の感冒薬で治ることが多いからです。自宅で保温と保湿を十分にし、栄養と睡眠をしっかりとれば、数日で治ります。
しかし、一部の人では気管支炎や肺炎に進んだり、心不全にまで進んだりします。どのような人がそうした合併症を起こしやすいのでしょうか? 実は、次のインフルエンザの項でワクチンを打つべき人としてあげられている人たちがそうなのです。
すなわち、おおむね65歳以上の高齢者、老人ホームなどの施設で集団生活をしている人、慢性の肺の病気や心臓病の人、糖尿病や腎臓病などで治療を受けている人、アスピリンによる治療を受けている小児、妊娠14週め以降がインフルエンザの流行期に該当する妊婦などです。こうした人々はそれ以外の人に比べてかぜやインフルエンザが重症化しやすく、肺炎などに進みやすいので、早めに医師の診察を受けてください。
渡辺 彰
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…流行性感冒,略して流感ともいわれ,インフルエンザウイルスによって起こる感染症の一つ。突然の発熱,頭痛,悪寒,だるさ,咳,筋肉痛などがあり,上気道,鼻腔,結膜などに炎症が起こる。…
…感冒ともいう。一般には,くしゃみ,鼻汁,鼻閉,咳,のどの痛み,しわがれ声などの呼吸器症状に加えて,発熱,全身倦怠,頭痛,下痢,関節や筋肉の痛みなどの〈風邪様症状〉を伴う比較的軽症の疾患群をさすが,医学的には必ずしも明確に定義されているわけではなく,研究者によって,その定義や範囲は微妙に異なっている。…
※「感冒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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