慇懃（読み）インギン

デジタル大辞泉

いん‐ぎん【^×慇^×懃】

［名・形動］
１ 真心がこもっていて、礼儀正しいこと。また、そのさま。ねんごろ。「慇懃なあいさつ」
２ 非常に親しく交わること。「慇懃を重ねる」
[類語]恭しい・丁寧・ご丁寧・ばか丁寧・慎ましい・遠慮深い・消極的・慎ましやか・丁重・しとやか・手重い・手厚い・親切・親身・懇ねんごろ・折り目正しい

出典　小学館

精選版 日本国語大辞典

いん‐ぎん【慇懃・殷勤】

1. 〘 名詞 〙 ( 形動 )
2. ① 心をこめて念入りにするさま。何度も、または、ことこまかにすること。
   1. [初出の実例]「殷勤不_レ愧相嘲哢、漫説当家有_二積薪_一」(出典：菅家文草（900頃）一・観王度囲碁献呈人)
   2. 「外交の実際、方今の目的を弁ずること実々着々慇懃叮嚀なり」(出典：開化本論（1879）〈吉岡徳明〉下)
   3. [その他の文献]〔後漢書‐循吏伝〕
3. ② 親しく交わること。親交。よしみ。
   1. [初出の実例]「こは現金なる御いんぎん、かやうに申すも拙僧本意にあらねども」(出典：歌謡・松の葉（1703）四・寛濶一休)
   2. [その他の文献]〔司馬遷‐報任安書〕
4. ③ きわめて丁寧なこと。礼儀正しいこと。
   1. [初出の実例]「併任_二先師之素意_一、更無_二異議_一者也。其上匪_二啻私契約之慇懃_一」(出典：山城醍醐寺文書‐（年月日未詳）（鎌倉）仏名院所司目安案)
   2. 「隣に行きてゐんぎんに畏まりて、しかしかのことといふ」(出典：御伽草子・福富長者物語（室町末）)
5. ④ 男女の情交。「慇懃を通じる（=男女がひそかに情交を結ぶ）」

慇懃の語誌

( 1 )「万葉」に「ねもころに」を表記したとされる「慇懃」の漢字表記があるので、この漢語は早くから日本に入って来ていたと思われる。平安時代の和文資料に見えないのは、「ねんごろ」というほぼ同じ意味の和語が存在したためか。
( 2 )中世に至り、「鄭重である」「礼儀正しい」といった意味を担うようになったが、漢籍にはない用い方である。

おん‐ごん【慇懃】

1. 〘 名詞 〙 ( 「おん」「ごん」はそれぞれ「慇」「懃」の呉音 ) 心をこめてすること。ねんごろ。いんぎん。
   1. [初出の実例]「三の船頭林廿郎、梢工陳従来向し慇懃なり」(出典：参天台五台山記（1072‐73）一)

出典　精選版 日本国語大辞典

普及版 字通

【慇懃】いんぎん

ねんごろ。唐・楊巨源〔折楊柳〕詩　惟(た)だ春風の最も相ひ惜しむり　慇懃にに手中に向つて吹く

字通「慇」の項目を見る。

出典　平凡社「普及版 字通」