家庭医学館 「慢性腎炎症候群」の解説 まんせいじんえんしょうこうぐん【慢性腎炎症候群 Chronic Nephritic Syndrome】 ◎たんぱく尿や血尿(けつにょう)が続く [どんな病気か] 慢性腎炎症候群は、たんぱく尿や血尿が持続的にあり、病気の進行とともにむくみや高血圧(腎性高血圧)など、腎臓のはたらきの低下がみられる病気です。 最近まで、慢性腎炎というと、はっきりした原因になる病気がなく、たんぱく尿、血尿、あるいはその両方が長期に(少なくとも1年以上)続く病気をさしていました。その多くは、腎臓のはたらきは正常で、病気が進行するふうでもなく、潜在型と呼ばれてきましたが、最近行なわれた病気の定義の変更によって、これは無症候性たんぱく尿・血尿症候群(「無症候性たんぱく尿/血尿症候群」)としてあつかわれることになりました。 慢性腎炎症候群は、あくまでも経過とともに腎臓のはたらきが悪くなる病気をいいます。その意味で、これまでの慢性腎炎の潜在型、つまり、無症候性たんぱく尿・血尿症候群は、慢性腎炎症候群から除かれることになりますが、この病気でも、15~20年後になって徐々に血圧の上昇や腎機能の低下が現われ、慢性腎炎症候群になっていくケースもあるのです。 [原因] 慢性腎炎症候群といっても、その原因である糸球体(しきゅうたい)の病気は、もとになる別の病気がなくて腎臓が障害される原発性(げんぱつせい)の糸球体疾患と、ある病気が原因で慢性的に腎臓が障害を受ける続発性(ぞくはつせい)の糸球体疾患に大きく分けることができます(コラム「慢性腎炎症候群/無症候性たんぱく尿/血尿症候群の原因となる病気」)。 原発性糸球体疾患による慢性腎炎症候群は、本症候群の圧倒的多数を占めます。このなかで、比較的よくみられる病気は、巣状糸球体硬化症(そうじょうしきゅうたいこうかしょう)(「巣状糸球体硬化症」)、IgA腎症(じんしょう)(「IgA腎症」)、膜性腎症(まくせいじんしょう)(「膜性腎症」)、膜性増殖性糸球体腎炎(まくせいぞうしょくせいしきゅうたいじんえん)などです。 ここで気をつけなくてはならないことは、これらの原発性糸球体疾患は、慢性腎炎症候群だけでなく、急性腎炎症候群、急速進行性腎炎症候群、無症候性たんぱく尿・血尿症候群、ネフローゼ症候群など、すべての腎炎症候群の原因になりうるということです。 全身の病気にともなう続発性の慢性腎炎症候群でよくみられるのは、糖尿病性腎症、全身性エリテマトーデスにともなうループス腎炎です。 遺伝する特殊な腎炎であるアルポート症候群は、生まれつき聴力障害と慢性腎炎症候群がみられる病気ですが、最近、からだを支える組織の主成分であるⅣ型コラーゲン(たんぱく質の一種)をつくる遺伝子に異常があるためにおこることがわかりました。 [検査と診断] 慢性腎炎症候群の病気の経過には、2種類あり、1つは、急性腎炎症候群または急速進行性腎炎症候群が完全に治らずに慢性になってこの症候群になったものです。 もう1つは、健康診断などで偶然に尿の異常が発見されたものです。たいていは、そのとき腎臓の機能の低下も見つかります。 しかし、尿の異常が発見されても、腎臓の機能は正常で、高血圧もなく、臨床的に無症候性たんぱく尿・血尿症候群と診断されたものが、15~20年後に腎機能が低下してきて、慢性腎炎症候群と診断される場合があります。 たんぱく尿や血尿が持続してあり、腎臓の機能の低下を示す検査結果(糸球体濾過率(しきゅうたいろかりつ)の減少、血液中のクレアチニンと尿素窒素(にょうそちっそ)の濃度の上昇)があれば、慢性腎炎症候群と診断できます。 ◎生活指導を守ることがたいせつ [治療] 現在、慢性腎炎症候群を完全に治す方法はありません。できることは、日常の生活において、必要に応じて安静にし、食事療法や薬物療法を加えて、腎臓の機能が低下しないようできるだけの手をうつことです。 日常生活の指導は、Aからの5段階に区分されます(表「成人の生活指導区分表」)。表「慢性腎炎症候群の生活指導」は慢性腎炎症候群の具体的な生活指導についての表ですが、たんぱく尿の程度、高血圧の有無、腎機能障害の程度によって生活指導はちがってきます。 腎臓の機能が正常なら、日常生活について支障はありませんが、腎機能の障害の程度が強くなるにしたがって、生活上の制限が必要になります。 食事療法の基本は、たんぱく質と塩分の制限です。カロリーは十分にとる必要があります。腎機能が正常な場合は、原則としてたんぱく質をとるのを制限する必要はありません。塩分は1日7g程度に制限します。 病状の経過を観察するため、最低でも月に1回の通院が必要です。血圧測定、尿・血液検査が基本ですが、必要に応じて腎臓の機能を評価するため、24時間の尿をためることがあります。とにかく慢性腎炎症候群は、自覚症状がなくても、定期的に外来で腎臓の専門医の診察を受け、そこで適切な指示を受けて実行することが大事です。 [予後] 慢性腎炎症候群は、徐々に腎臓の機能が低下する病気ですが、進行の速さは腎生検(じんせいけん)によってわかる糸球体の組織の病型で異なります。 本症候群の多数を占める一次性糸球体疾患でみると、微小変化群および膜性腎症では進行はゆっくりですが、巣状糸球体硬化症では進行が速く、だいたい10年後には血液透析(けつえきとうせき)が必要な状態になるといわれています。 出典 小学館家庭医学館について 情報