精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるため、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた者(民法7条)。1999年(平成11)の改正前民法の禁治産者に相当し、同民法改正(2000年4月1日施行)による成年後見制度の導入とともに、「成年被後見人」という用語に改められた。
成年被後見人には、保護者として成年後見人が付される(同法8条)。そして、成年後見が開始されると、成年後見人は、成年被後見人のした法律行為を取り消すことができる(同法9条)。ただし、日用品の購入その他の日常生活に必要な範囲の契約についてはこの限りでない。また、成年被後見人自らの意思に基づいて行うべき婚姻(同法738条)、離婚(同法764条による同法738条の準用)、認知(同法780条)、養子縁組(同法799条による同法738条の準用)、離縁(同法812条による同法738条の準用)、遺言(同法962条)などの身分行為は、後見開始の審判がなされていても、意思能力があれば単独で行うことができる。なお、成年後見人には、成年被後見人の財産に関する法律行為についての代理権が付与される(同法859条1項)。
成年被後見人の要件は、認知症や知的障害などの精神上の障害によって、ときに正常に復することはあっても、おおむね正常な判断能力を欠く状態にあることであり、原則として鑑定が必要である。
後見開始の審判は、本人、配偶者、4親等内の親族、ほかの類型の後見人・監督人(未成年後見人・未成年後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人)、または検察官の請求により、家庭裁判所によって行われる。
成年被後見人については、その判断能力が不十分であることを理由に、これまで広範な資格の制限が行われていた。すなわち、成年被後見人には選挙権・被選挙権が認められず、また、公務員・弁護士・医師・会社の取締役などになれなかった。しかし、ノーマライゼーション(高齢者や障害者を隔離するのではなく、ともに暮らす社会が望ましいとする福祉の考え方)の観点から、判断能力が不十分であることを理由に資格を制限していた法律の見直しが行われ、2013年(平成25)5月には、「成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立し、同年7月以降に公示・告示される選挙から、選挙権・被選挙権の制限がなくなった。
そして、2016年4月には「成年後見制度の利用の促進に関する法律(通称、成年後見制度利用促進法)」(平成28年法律第29号)が成立し、(1)成年後見制度の理念(ノーマライゼーション・自己決定権の尊重、身上の保護の重視)の尊重、(2)地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進、および、(3)成年後見制度の利用に関する体制の整備が、その基本理念として掲げられた(同法3条)。その具体化の一つとして、同法は、「成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正」その他の「必要な法制上の措置」については、同法施行後「3年以内を目途として講ずるものとする」と規定していた(同法9条)。また、同法第11条2号も、「成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行うこと」を明記していた。
そこで、成年被後見人等の欠格条項の見直しが行われ、2019年(令和1)6月に「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和1年法律第37号)が成立した。この法律は、成年被後見人等を資格・職種・業務等から一律に排除する規定等(欠格条項)を設けている各制度について、心身の故障等の状況を個別的・実質的に審査し、制度ごとに必要な能力の有無を判断する規定(個別審査規定)へと適正化するとともに、所要の手続規定を整備する(180法律程度)ものである。具体的には、国家公務員等に関しては国家公務員法等の欠格条項を削除し、また、弁護士法や医師法の欠格条項については、これを削除し、あわせて個別審査規定を整備した。このほか、医療法・信用金庫法等における法人役員の欠格事由から成年被後見人等を削除し、あわせて個別審査規定を整備した。
また、取引の安全の保護に関しては、成年後見人への取消権・代理権の付与を伴う後見の開始決定が、戸籍に記載されずに、登記所への登記によって公示されることとなった(後見登記に関する法律)。
なお、民事訴訟法上、成年被後見人は、原則として法定代理人によらなければ訴訟行為をすることができない(同法31条)。
[野澤正充 2022年4月19日]
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