拘禁反応(読み)コウキンハンノウ(英語表記)prison reaction

デジタル大辞泉 「拘禁反応」の意味・読み・例文・類語

こうきん‐はんのう〔‐ハンオウ〕【拘禁反応】

刑務所強制収容所などで自由を拘束された状態が続いた場合にみられる精神障害の一。神経症鬱状態幻覚妄想などの症状が現れる。

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精選版 日本国語大辞典 「拘禁反応」の意味・読み・例文・類語

こうきん‐はんのう‥ハンオウ【拘禁反応】

  1. 〘 名詞 〙 拘禁という特異な環境下で起こる精神障害。主としてヒステリー性反応と妄想性反応とがある。

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最新 心理学事典 「拘禁反応」の解説

こうきんはんのう
拘禁反応
prison reaction

拘禁下におかれた人間が,拘禁状況と密接に関連した精神-行動症状を呈するとき,それを拘禁反応とよぶ。軍隊や収容所などでの拘禁も含まれるが,司法精神医学の領域では留置場拘置所,刑務所における拘禁が主である。精神-行動症状としては,神経症の水準にとどまるものから,クレッチマーKretschmer,E.のいう原始反応人格反応に相当する水準のもの,心因性の反応精神病というべき水準に至るものまで,病像も重症度もさまざまである。神経症の水準にとどまる場合を,拘禁神経症institutional neurosisとよぶことがある。その症状としては,さまざまな身体愁訴や自律神経症状・不眠・不安・焦燥などが挙げられる。とりわけ長期に収容された高齢者では,病気への恐怖や孤立無援感が認められやすい。彼らは外部とのつながりを欠き,社会的役割を喪失しがちだからである。ここに,刑務所化prizonizationが生じる素地がある。刑務所化とは,刑務所固有の下位文化や刑務所内での役割に自らを過剰に同一化させた結果,未来への希望を閉ざしてしまう過程にほかならない。

 原始反応primitive reactionとは,体験刺激と反応行為との間に全人格がはまり込んで働くことがない場合をいい,爆発反応短絡反応が含まれる。爆発反応では,体験刺激によりもたらされる強い感情が抑制されず,単純にそのまま発散される結果,運動暴発の形を取りやすく,記憶欠損を伴う。また,働きかけにも反応せず無言無動を呈したり,失禁などまでが見られる場合もあり,このような症状は拘禁昏迷prison stuporまたはレッケRaecke,J.にちなみレッケの昏迷という。的外れ応答や仮性認知症を主症状とするガンザーGanser,S.J.M.にちなむガンザー症候群Ganser syndromeへと移行する場合もある。これに対して短絡反応では,体験刺激に対して,全人格からは分離された断片的人格を通過する行為がもたらされる。その結果,爆発反応に比較するとやや複雑な行為の形を取り,記憶欠損を伴うことも伴わないこともある。

 一方,人格反応personality reactionとは,体験刺激と反応行為との間に人格が関与し加工がなされることにより,いっそう複雑な形を取る場合をいう。人格反応には,強力性反応,無力性反応,自閉性反応が含まれ,それぞれ好訴妄想,敏感関係妄想,妄想様構想などの病像を示す。さらに,拘禁精神病prison psychosisの水準にまで重症化すると,統合失調症に類似した精神病像が認められるようになる。逆に,被拘禁者が元来もっていた精神病の病像が,演技的あるいは易変的な見かけを取り,拘禁精神病と誤診されることもある。これを拘禁着色prison coloringとよぶ。

 拘禁精神病に関する議論の多くは,19世紀末から20世紀初頭にかけて展開され,今日でも続いている。その主要な議論は,疾病への願望が形になって現われた心因性の疾患なのか,それとも真の精神病なのかを区別し得るかということである。前者であれば疾患であるにもかかわらず詐病であるかのように扱われる。たしかに刑が確定する前の精神鑑定の段階では疾病と詐病との鑑別は重要であるが,確定後に生じた拘禁精神病を含む拘禁反応に対しては,安易に詐病と決めつけるよりも,人格-環境-病像のつながりに着目した精神療法や薬物療法が必要になる。 →司法精神医学
〔高岡 健〕

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改訂新版 世界大百科事典 「拘禁反応」の意味・わかりやすい解説

拘禁反応 (こうきんはんのう)
Haftreaktion[ドイツ]

日常とは異なった拘禁という人為的に作られた状況で生活をするようになったために生じた精神-身体的反応。このうち,重い精神病様の症状を示すものを拘禁精神病という。拘禁状況としては刑務所,拘置所などが代表的なものであるが,病院の集中治療室なども一種の拘禁状況との見方もある。病因としては,拘禁に伴う自由や権利の剝奪(はくだつ),未決囚では判決への心配,死刑囚では執行への恐れなど状況的な因子とその人の性格傾向とが関連し,否認,願望充足,身体化などの自我防衛機制が働いている。症状は多種多様であるが,無目的的な運動暴発,衝動自殺,詐病,道化症状,赦免妄想,死刑囚の躁(そう)状態,独居房での急性幻覚妄想などがある。また,これらの前ぶれ的症状あるいは背景にある症状として身体的愁訴や神経症的な訴え,抑うつ状態などに注意することがたいせつである。経過および予後としては,拘禁解除が症状消失に効果があるが,再発あるいは慢性化する場合もある。
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