接着(読み)セッチャク(英語表記)adhesion

翻訳|adhesion

デジタル大辞泉 「接着」の意味・読み・例文・類語

せっ‐ちゃく【接着】

[名](スル)物と物とがぴったりくっつくこと。また、くっつけること。「ガムテープ接着する」
[類語]癒着密着定着

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精選版 日本国語大辞典 「接着」の意味・読み・例文・類語

せっ‐ちゃく【接着】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 間近に接すること。また、近づいてそこに至ること。
    1. [初出の実例]「殊更に堕落せる行為をなして以て彼等貧者に臆面なく接着(セッチャク)すべしと心密かに期し居たりしに」(出典:最暗黒之東京(1893)〈松原岩五郎〉二)
  3. くっつくこと。また、くっつけること。ぴったりつぎあわせること。
    1. [初出の実例]「接着のニカワがゆるんで足のぐらつく古机があった」(出典:第2ブラリひょうたん(1950)〈高田保〉水くぐり)

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改訂新版 世界大百科事典 「接着」の意味・わかりやすい解説

接着 (せっちゃく)
adhesion

物体どうしが接合して離れないよう互いに力を及ぼし合う現象が広い意味での接着で,この力を接着力という。実用的には,接着力の大きさは1cm2当り数kgfから数百kgfの範囲にある。

 接着の目的で物体間に介在させて用いる物質は接着剤adhesiveであるが,接着剤は第1に,被着体adherendに対して接着する性質をもち,第2に,自身は凝集cohesionして変形および破壊に対して抵抗する。したがって,接着剤を用いて形成した接着の破壊には,接着剤と被着体の界面破壊interfacial failure(あるいは接着破壊)と,接着剤層内で破壊が起こる凝集破壊cohesive failureがある。また,接着が強くて被着体自身が破壊する場合は被着体の凝集破壊(被着体破壊)であるが,材料破壊と呼ばれることがある。接着の破壊に抵抗する力は界面の接着力と接着剤の凝集力がもとになって生じるが,各種の試験法で測定される実際の接着破壊力は,この二つの力に加えて被着体,接着剤からなる全体の形状,それぞれの材料の強さ,それぞれの材料の弾性率と粘性(粘弾性),さらには変形の速さなど多くの因子に依存する。したがって,接着破壊力と接着界面に働く接着力とは互いに異質なもので,直接関係づけることはできない。接着界面に働く接着力を測定することは非常に難しく,特別な応力測定法によらなければならない。

物質自身の凝集力と接着界面の接着力は,それらの物質を構成する分子あるいは原子(単原子分子の場合)あるいはイオン間に働く力に由来する。これらの力は一般に分子間力intermolecular forceと呼ばれる。分子間にこの力が有効に働き合う距離は0.5nmから1nm程度であるので,接着を実現するためには接着界面で相互の表面がこの距離に近づく必要がある。金属どうしを火薬の爆発による圧力で直接に接着する爆発圧接の場合は固体相互の間でこの条件がよく満たされていると考えられるが,接着剤を用いる通常の接着では接着剤が使用時に流動性をもつ液体で用いられる必要がある。普通には,はんだを接着剤とは呼ばないが,はんだ付けはそのよい例である。また,はんだ以外で,使用時に加熱して流動性を与え後に冷えて固化する性質の接着剤はホットメルト型接着剤と呼ばれ,製本などに多く用いられている。

 接着剤の流動化は,そのほか溶液あるいはエマルジョンにすることによって行われる場合も多い。使用後,溶剤は蒸発あるいは被着体に吸収されて接着剤は固化する。また,使用前は低分子液体であるが硬化剤,触媒,あるいは反応開始剤などを混合し,使用後に重合反応によって固化するものもよく用いられる。

 流動性によって分子間力の到達距離にまで接近した相互の分子の間に分子間力が働くことがミクロにみた接着力の実体である。このとき分子A-B間の分子間力が分子A-A間の分子間力および分子B-B間の分子間力に対して等しい程度かそれらより大きい場合はA,B相互の間に接着力が生じることになるが,反対の場合には接着は不可能となる。液体と固体の界面の例では,水銀とガラスの組合せなどがよく知られている。

 分子間力には,その起こる原因によっていくつかの種類がある。第1に,分子の中に電気的双極子がある場合,この双極子と他分子の双極子の間に働く力,第2に,ある分子のもつ双極子が他の分子に近づいたとき,相手の分子の中に双極子を誘起させて出現した双極子との間に働く力,第3に,双極子をもたない分子どうしでも,それらが近づいたときに量子力学的効果によって起こる双極子間の力がある。それらの力の大きさは,結合の切断に必要な仕事で表すと,1molの分子数当りに換算して数kcalの大きさに対応する。第4に,特別な分子間力というべき水素結合がある。これは,O,N,F,Clなどの電気的に陰性の強い原子どうしが,間にH原子を介して力を及ぼし合うもので,結合エネルギーは1mol当り数kcalとなっている。

 これらに対して,原子をまとめて分子をつくる力,すなわち化学結合のエネルギーは大きな値をもち,有機物の炭化水素分子の炭素間結合をつくる共有結合の強さは1mol当り約80kcal,金属の凝集力の原因である金属イオン間の結合すなわち金属結合の強さは1mol当り30~100kcalである。NaClなどイオンで構成される結晶性固体ではイオン間の結合は強く,NaClの場合1mol当り180kcalである。

 原子間結合がすでに完成されてできている分子の間で行われる実際の接着では,化学結合の効果を界面の結合力として利用することは難しい場合が多い。はんだ付けは,はんだが被着体金属と金属結合をしているので,界面の接着性に関する限り理想的なものである。合成高分子接着剤を用いる一般の場合でも,被着体との間に化学結合を形成することができれば,接着は強いものになる。被着体が化学反応性をもち,それに合った反応性をもつ接着剤を用いて,反応を促進させようとする加熱と密着性を高めるためのプレス成形ができるような場合が,それである。たとえば,タイヤにおける合成繊維とゴムは,そのようにして接着されている。

 化学結合力より弱い分子間力で凝集している固体表面に,流動状態にある接着剤の分子が接近した場合に,両者の間に強い結合が生じる条件があるときは,すでに述べた理由から,界面を通じて相互の分子がよく混じり合う状況が起こる。固体が金属の場合でも,はんだの例では同様な事態が起こっているのである。このような場合には,界面の結合の起りやすさは2物質間相互の混りやすさ,すなわち,相互の間の溶解度に関係し,溶解度パラメーターsolubility parameter,略してspという量が接着性のだいたいの目安になる。分子Aからなる物質が分子間力で凝集しているとき,単位体積(1ml)中に含まれるすべての分子間結合A-Aを切り離すのに必要なエネルギー,すなわち凝集エネルギー密度cohesive energy densityの平方根をspと定義する。spの値が互いに等しいときに二つの物質は混合しやすいこと,接着においてはよい接着が得られる傾向があることが実験で認められている。

 同種の分子からできている物体相互の接着は特別に単純な場合に属するが,上述の観点から,それが良好な接着性を示すことは容易に理解される。金属やプラスチックの溶接はそのよい例と考えられる。また,溶剤に溶けやすいプラスチックが表面を溶剤でぬらすだけでよい接着が可能なことはプラスチックモデルなどでよく経験することであるが,その理由も容易に理解される。

 界面の結合の起りやすさをマクロに考察すると,ぬれやすさwettabilityの問題となる。分子AとBの間の分子間力が分子A-AおよびB-Bの分子間力に近い値をもつ場合は,片方の液体は相手の固体の表面によく付着し,その表面上に広がる性質をもつ。反対に,たとえば液体分子どうしの分子間力が大きく,液体分子・固体分子間の分子間力がそれに比べて小さいと,液体の凝集力が接着力にまさり,それが固体の上におかれてもよく付着せず広がらない。前述の水銀をガラスの上においた場合がこれで,このようなときはよい接着は期待できない。

 表面張力surface tensionは分子間力をマクロな姿として反映するので,ぬれの問題を表面張力の観点で考察することは接着性を判断するうえで有益な場合が多い。表面にある分子は外側に分子がほとんど存在しないので,分子間力による外側との引合いができず,内側に引かれた状態にある。たとえば,水滴の表面積はこの力のために小さくなろうとする。これをマクロにみると,水滴が見えないゴム風船の中に閉じ込められたような状態になる。この風船のゴム膜の張力が表面張力に相当する。

 固体の表面におかれた液滴には,液体の表面張力νL,固体の表面張力νS,そして固体と液体の間の界面張力interfacial tension νSLの三つの力が働いてつり合う。液滴は小さいのでその重さは無視されている。三つの力の水平方向の成分のつり合いの条件を

 νS=νSL+νLcosθ

と書き表すことができる。θは固体面,液滴,空気の接触線において固体面と液面のなす角である。この式から

 cosθ=\(\frac{νS-νSL}{νL}\)

の関係が得られる。このθのことを接触角contact angleあるいはぬれ角と呼ぶ。完全なぬれはθ=0に相当する。したがって,νSL=0,νS=νLのときθ=0となり,液体は固体表面にどこまでも広がることができる。このように液体が固体表面をよくぬらすことが接着の最適条件の一つである。

 表面張力の大きさは,分子間力で凝集している物質では,凝集力あるいは凝集エネルギーに比例し,界面張力は双方の凝集エネルギーの差から生じるので,完全なぬれの条件は互いの凝集エネルギーの値が等しく,界面の接着力が凝集力に等しいときに満たされることを予想させる。このことは,spが接着性の目安となることと類似の関係にある。詳しい研究によると,凝集力の起源になる各種分子間力のそれぞれの間(ファン・デル・ワールス力どうし,水素結合力どうし等)で相互の物質において等しい値をとる必要があることが明らかにされている。

 次に,接着剤が固体になって凝集力が大きなものに変わればそれで強い接着が完成する。しかし,注意すべきことは,一般に液体は固化するとき収縮し(水は例外),接着剤の場合はそれが原因で被着体を変形させたり,反対に接着剤層内に応力を発生させて接着強さを損なうことが起こる。これを防ぐには,固化時の収縮の少ない接着剤を考え出すか,固化してもあまり固くならない接着剤を考え出す必要がある。あるいは,固化に時間を十分かけるか,固化後に温度をいったんゆっくり上げてゆっくり下げるなどによって,発生する応力の緩和を図るなどの操作をすることが有効である。

接着剤の固化によらず,粘稠な性質をもっている物質を接着剤の代りに用いて接着を行うこともできるが,このような接着をとくに粘着tackあるいは感圧接着pressure sensitive adhesionと呼ぶことが多い。この場合の接着剤すなわち粘着剤は粘性の大きい液体と考えられ,剝離(はくり)に抵抗する力は粘着剤層が変形流動するときの液体内部の摩擦力すなわち粘弾性的抵抗であると考えられる。したがって,この力は変形の速さとともに変化するのが普通である。

 これまでに述べてきた接着機構とは別に,2物体の界面が幾何学的に入り組むことによって界面が固定される効果により接着が行われる可能性がある。これを投錨(とうびよう)効果anchoring effectと呼んでいる。しかし,この際も相互の界面に分子間力に基づく接着力が働けば互いの凹凸部への流動性はよくなり,さらに強い接着が期待される。
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化学辞典 第2版 「接着」の解説

接着
セッチャク
adhesion

二つの物質(同種または異種)間の接触表面の接合.接着の過程には,流動,ぬれ,浸透拡散,吸着,固化(蒸発,冷却,重縮合)が含まれる.接着が有効に達成するためには,接着剤分子と被着体分子が十分近接することが必要で,そのために接着剤は流動しやすく,ぬれやすく被着体のミクロな凹凸に入りうることが条件になる.固化では体積収縮が起こるので,発生する内部応力を緩和させることが必要で,そのため,可塑剤などを添加する.界面の接合の機構については,吸着説,投錨説,静電気説,拡散説などがあるが,いずれにせよ分子間力が強固にはたらいていることは間違いない.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

普及版 字通 「接着」の読み・字形・画数・意味

【接着】せつちやく

はりつく。

字通「接」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

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