政治家や政治団体、政党に、政治活動に必要な資金を提供すること。もともと、政治資金は、個人が拠出する会費や党費のような資金によってまかなわれるのが本当であるが、わが国では、個人が政治に金を提供する習慣はあまりなく、政治団体の会員や政党の党員が少ないため、企業・労働組合からの寄付(政治献金)に依存する割合が多い。ことに、政権を掌握し、国家・公共財政資金散布の鍵(かぎ)を握る政党は、有力会社を中心に、企業や財界から公式に一括もしくは個別に巨額の寄付を受けるほか、有力議員などへの寄付も少なくなかった。原理的にいえば、企業の政治献金が会社に利益をもたらさないとすれば、企業に損害を与えたとして、担当役員は特別背任罪を構成するはずであるし、会社に利益をもたらすことについて期待の蓋然(がいぜん)性があると容認されるならば、すでに汚職を肯定することになるのである。
[室伏哲郎]
アメリカでは、政治資金の授受に関し、厳しい規制が課せられている。連邦選挙運動法は、
(1)企業・労働組合の献金は禁止
(2)個人献金は一候補につき一選挙で1000ドル、年間の政治献金額は2万5000ドルまで
(3)政治資金団体からの献金は一候補者に対し一選挙で5000ドルまで
などとしている。また、選挙運動法によって、政治家や政治資金団体は、100ドル以上の寄付は寄付者の名前、職業、地位のいっさいを公開することが義務づけられている。しかも合計100ドル以上の政治献金は、現金ではなく小切手で行わなければならない。
一方、日本では、1970年(昭和45)6月24日、最高裁判所は、「政治献金も福祉事業への寄付などと同様、会社が社会的役割を果たすため、むしろ当然のこと」として「会社の政治献金は合法」の判決を下している。このような政治献金に対する法的なお墨付きは、日本社会古来の贈答文化の影響も大きいといわれる。しかし、与野党の政権交代が頻繁に行われなかった日本の議会制民主主義の下で、厳正な政治献金、政治資金規正の立法措置が先送りされたことがおもな原因と考えられる。このような日本の政治風土ゆえ、現実には政治献金や政治資金をめぐる汚職や疑惑事件は後を絶たない。そのため、1994年(平成6)に政治資金規正法が改正、その後も改正が行われ、従来よりは厳しい規制が以下のように行われることになった。
(1)政治家個人への個人献金は禁止される。ただし、選挙活動に関する寄付に限り年間150万円までの寄付ができる。
(2)政治家の資金管理団体や政治団体への個人献金は、年間総額上限1000万円の範囲で、一つの資金管理団体あるいは政治団体に対し、上限150万円までの寄付が可能。
(3)政党への個人献金は年間総額2000万円を上限として寄付ができる。
(4)企業は資本金、労働組合は組合員数に応じて、小規模で上限年間750万円、大規模で上限年間1億円までの寄付が可能。
(5)政治家個人への企業・団体献金は禁止。
(6)企業・団体からの政治団体への献金は禁止。
(7)企業・団体から政治家の資金管理団体への献金は禁止。
(8)政治団体(資金管理団体を含む)間の献金は年間5000万円以内まで可能。
(9)国会議員に関係する政治団体はすべての支出について領収書が必要。
[室伏哲郎]
政治資金規正法によって、一見政治献金は細かく規制されてはいるが、実はさまざまな抜け道が用意されている。たとえば、政党への政治献金の年間上限額が個人で2000万円、企業・団体で1億円というのは、政権政党や有力政党にとっては豊富な政治献金が期待される。しかも、政治資金規正法改正では、政党から政治家個人および政治家の資金管理団体・政治団体へは、金額に制限なく自由に寄付ができるとしている。この盲点を利用して、政党をトンネルにした特定の政治家、資金管理団体、政治団体などに献金する指定寄付行為も合法となるから、政権党や有力政党のいわゆる実力者は豊富な資金を擁する仕組みになっている。また、1人の政治家についての資金管理団体は一つと限られているものの、傘下の政治団体は複数もつことが可能であるため、個人献金でも一団体への上限を超えて、総枠上限の範囲で大口献金をすることが可能である。このように、政治献金の透明化は、途(みち)なかばにも達しないといえる。現行法より厳正で抜け道のない「政治資金規正法」や「公職選挙法」を再改正・施行し、国民の政治不信を解消、軽減する方策を真剣に考えるべきであろう。
[室伏哲郎]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 財界がその役割を果たすための一つの方策が政治への働きかけである。そのための第1の手段は政治献金であり,有力業界団体や大企業の献金は経団連の調整を経て,国民政治協会(〈国民協会〉の項参照)を通すなどして自民党などに流される。第2の手段は財界人と政治家とのつながりである。…
…政治資金の調達方法には,個人的に調達するものと,経済界や労働組合その他からの寄付によるものとがある。なお,将来の利権に対する期待,あるいは過去の利権獲得に対する謝礼としてなされる政治資金の提供を〈政治献金〉ともいう。政治活動の多様化,選挙費用の巨額化にともなって,政治資金を個人が調達することは困難になり,資金調達能力のある人物への依存度が高まることになる。…
※「政治献金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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