デジタル大辞泉 「新人」の意味・読み・例文・類語
しん‐じん【新人】
2 現在の人類と知能・身体がほぼ共通する人類。クロマニョン人など更新世後期の化石現生人類および現在の我々をふくむ人類の総称。ホモ‐サピエンス‐サピエンス。→猿人 →原人 →旧人2 →化石人類
3 キリスト教で、過去の罪悪を悔い改めて新しい信仰生活に入った人。
[類語](1)新顔・新入り・フレッシュマン・ニューフェース・新参・新米・新手・帰り新参・駆け出し・ルーキー/(2)
人類の進化段階を人為的に四つに分けた場合の最後の区分に属する人類。およそ20万年前に旧人から進化し,6万年前以降に世界中に拡散したヒト属の一種で,私たち現生人類,ホモ・サピエンスHomo sapiens〈賢いヒト〉のこと。現代人modern humansあるいは解剖学的現代人anatomically modern humansともいわれる。なお,新人の中で古代的形態を残している初期の頑丈な化石(Laetoli 18,Skhul 5など)を初期現代型サピエンスearly modern Homo sapiensあるいは古型現代人archaic modernsと呼ぶことがある。新人は,旧人と比べると,骨格は頑丈さが衰えたが,文化的な発達により環境適応力が強まり,急速に世界中に拡散したと考えられる。オーリニャック型のような精密な剥片石器を作り,芸術活動や音声言語に必要な抽象能力を発達させた。それらが今日の文明を築くもとになった。リンネC.von Linneはホモ・サピエンス・サピエンスHomo sapiens sapiensという亜種の名称まで付けたが,現在では,一般的にはホモ・サピエンスという種名で呼ばれている。
新人化石が発見される主な遺跡は,タンザニアではラエトリLaetoli,エチオピアではヘルトHertoとオモOmo,イスラエルではカフゼーQafzehとスフールSkhul,フランスではクロマニョンCro-Magnon,中国では山頂洞Upper Caveと柳江Liujang,マレーシアではニアー洞窟Niah Cave,オーストラリアではカウ・スワンプKow Swampとマンゴ湖Lake Mungo,アメリカではケネウィックKennewickなどがある。日本でも沖縄県の港川や山下町第1洞穴,静岡県の浜北などがある。
新人の身体的特徴は,年代が古い化石ではやや頑丈になるが,基本的に私たちと同じである。つまり,それ以前の原人や旧人と比べると,頭が丸く,額が立ち,眼窩上隆起が極めて弱くなるか消滅する。頸の筋肉が退化するので,後頭隆起は形成されない。頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい)は1300~1600mlで,旧人とほとんど変わらない。咀嚼器官としての顔面全体が縮小し,歯列が後退する。その結果,咽頭のスペースが狭くなり,喉頭は頸の中程まで下降し,言葉をしゃべるための声道の構造が完成した。下顎骨の底部前方は,開口時に喉頭を圧迫しないように広がり,とくに顎先(オトガイ)は前方に隆起し,現代人では突出することもある。身体は,原人や旧人と比べると,細く華奢になっている。とくに骨盤では,腸骨翼が狭くなり,原人や旧人のように外側に傾くのではなく,直立に近くなる。このような変化は,力強さは減少したが,歩き方が洗練されたためと解釈されている。
新人の認知能力の発達に関しては,新人の起源と拡散の問題に関連して,1990年代から大きく見方が変わってきた。以前は,ヨーロッパで,いわゆるクロマニョン人の化石とともにラスコーやアルタミラの洞窟壁画に象徴されるような旧石器時代の芸術作品が発見されていたので,新人の知性の爆発的発展は,数万年前以降に主としてヨーロッパで起こったというヨーロッパ中心的な解釈がなされていた。その当時すでに,エチオピアやタンザニアで頭蓋腔容積が大きく,年代も古い(10万年前以前)新人化石(Omo 2,Laetoli 18など)が発見されていたが,やや原始的な特徴があったために,正当に評価されていなかった。
その後,アフリカの古い新人化石が,クロマニョン人などを含めた現代型新人の直前の祖先であることが認知された。さらに,南アフリカのブロンボス洞窟などで,7万5000年前の刻み目の入ったレッド・オーカー(赤鉄鉱の顔料)の塊や小さな貝殻のネックレスが発見されると,当時のアフリカの新人に現代人特有のお洒落や表象能力がすでに備わっていたことがわかった。また,新人に特有の技術である魚を捕るための〈返し〉のついた骨製のモリもアフリカで同じ時代に発見されている。その結果,このような進んだ文化をもったアフリカ人が,ヨーロッパに行って,さらに洞窟壁画などの芸術や洗練された技術を発展させたにすぎないことが広く認知された。つまり,現代人の心は,少なくとも7万年前に,あるいは10万年以上前に,アフリカで誕生していたのである。
ヒトの文化的活動にとって重要な音声言語が,人類進化の過程でいつ獲得されたかについては,意見が分かれる。発声器官としての声道に関しては,ヒトでは喉頭が頸の中程にあるために咽頭が長く,声帯で作られた声を調整できるが,チンパンジーでは喉頭が口腔の後ろにあるために咽頭が短く,声を調整できない。人類では,歯列の後退と頸部の直立により,口腔の後ろの咽頭スペースが狭くなり,喉頭が下降したと考えられるが,それがいつ起こったかに関しては,化石の証拠からは解釈が難しい。猿人の時代に喉頭が下降したとは考えられないが,原人か旧人か,あるいは新人になってからかは,議論百出である。言語を組み立てる論理としての大脳の発達に関しては,チンパンジーでも簡単なサイン言語を使えるので,原人なら充分と考えられる。しかし,言語と同様に象徴的思考活動である芸術活動が本格的に出現するのは新人になってからなので,言語に必要な大脳の質的な完成は新人になって初めて起こったと主張する研究者も多い。
執筆者:馬場 悠男
ホモ・サピエンスやホモ・ネアンデルタレンシスなどの古人骨由来のDNAの分析が進んだことで,現在ではDNA情報をもとにした人類の起源と拡散に関するシナリオが構築されている[小島1]。現代人がもつ遺伝的な多様性はアフリカ人が一番大きいことから,新人はアフリカで誕生したと推察されている。また塩基置換速度の推定値をもとにした計算によって,その時期は20万~15万年前と考えられており,さらに新人は7万~6万年前に出アフリカを成し遂げたと考えられている。現在,最も詳細に拡散の状況を描くことができるのは,ミトコンドリアDNAの系統データである。現代人のミトコンドリアDNAには,ハプログループと呼ばれる世界拡散の過程で突然変異によって生み出された様々な系統が存在し,その分布と相互の関係は,新人の移動ルートを推定する材料となっている。
新人が世界拡散を成し遂げた時期は,最終氷期に相当し,海水面は現在よりも大きく低下していた。出アフリカ説のルートには定説はないが,DNA研究からは現在のエチオピア・ソマリア周辺から紅海を越えてアラビア半島に渡った経路が想定されている。海水面の低下がそれを助けたことは間違いない。
アフリカ以外では南アジアの遺伝的多様性が大きいことから,この地域が旧大陸における拡散のセンターになったと考えられている。考古学的な証拠からオーストラリア大陸には4万7000年以上前に新人が到達したことが明らかとなっており,同じ時期に東南アジアから東アジアへの展開も成し遂げられたと考えられている。なお,ヨーロッパ人の遺伝的な多様性は他の地域に比べると小さく,この地域への進出は,さらに遅れたと想像されている。
およそ2万年前には,新人は当時陸続きだったベーリング海峡(ベーリンジア)を通過して新大陸に到達したことが,アメリカ先住民のミトコンドリアDNA研究から判明している。その後の展開は急速で,考古学的な証拠からは数千年で南米大陸の先端にまで達したと考えられている。こうして一万年ほど前までには新人は,ほぼ地球上の大部分の地域に居住することとなった。
最後に残されたのは,南太平洋の島々であったが,この地域への入植は6000年ほど前に,中国大陸の南部もしくは台湾からの農耕民が移住することで成し遂げられた。3000年ほど前にメラネシアから船出した集団が,約千年間をかけてポリネシアの島々に展開することになったことが,メラネシアやポリネシアの集団の考古学や言語学,そしてDNA研究から明らかとなっている。
→人類 →人類学
執筆者:篠田 謙一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人類進化を便宜的に4段階に分けた場合の最終段階の人類。新人類ともいう。これに属する人類の学名はホモ・サピエンス・サピエンスであり、前段階の旧人とは種を同じくするが、亜種を異にする。約3万年前、後期更新世(洪積世)、最後の氷期の第二亜氷期に出現し、今日に至っている。新人段階の人類としては今日地球上にあまねく分布する現生人類とそれに類似する化石現生人類のすべてが入る。
化石現生人類として最初に発見された人骨は、1868年にフランスのクロマニョン出土のものがあげられるが、以来この類の人骨が多数発見されたため、これらはクロマニョン人とよばれている。クロマニョン人はヨーロッパから西アジア、北アフリカ一帯から発見されている。これに対しイタリアのグリマルディおよびフランスのシャンスラードで発見された人骨は、それぞれネグロイドおよびエスキモーに似ているとして一時期問題になったが、今日ではヨーロッパの化石現生人類の変異内にあるものとみられている。化石現生人類は世界各地から出土しており、著名なものとしては南アフリカのボスコプ、フロリスバッド、タンザニアのオルドワイ、中国の周口店(山頂洞人)、柳江、ジャワのワジャクなどがあげられ、日本の港川(みなとがわ)、浜北(はまきた)などの出土人骨もこれに属する。なお縄文時代の人骨とされる三ヶ日(みっかび)人なども新人のなかに入る。新人段階で、オーストラリアやアメリカ大陸にも人類は足跡を残すようになった。そのように広く分布するようになったため、地球各地のさまざまな気候に適応し、今日みるような変異をみせるようになったと思われる。
新人すなわち現代人の特徴といえるが、大きな脳頭蓋(のうとうがい)に対し、そしゃく器の退縮が著しい。とくに下顎骨(かがくこつ)底部前端の退縮が遅れ、頤(おとがい)を形成するようになった。そのほか眉(まゆ)の上にそそり立つ秀でた額、発達した乳様突起も新人の特徴として重要である。なお新人の口、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)における変化は発声器官として完成し、優れた音声言語をつくりだしたと考えられている。新人段階での進化的変化がごく小幅であるのに対し、彼らが担った文化は、後期旧石器、中石器、新石器、青銅器、鉄器時代と著しく発展しており、新人の文化的適応の幅の広さを示している。
[香原志勢]
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(馬場悠男 国立科学博物館人類研究部長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
現生人類とも。ホモ・サピエンスのうち,旧人を除いた現代型の人類をさす。人類進化の最終段階にあたる。額が高く,眼窩(がんか)上隆起が弱く,顔が垂直に近く,下顎骨の前下部に頤(おとがい)が形成されているのが特徴。ヨーロッパのクロマニョン人,中国の周口店山頂洞人や柳江(りゅうこう)人,日本の三ケ日(みっかび)人や港川(みなとがわ)人など。ホモ・サピエンス・サピエンス,あるいは現代型ホモ・サピエンスともいう。約10万年前から3万5000年前にかけて旧人から進化し,石刃を用いた精巧な石器をはじめ,骨角器・装身具・洞窟壁画などを残した。人類はこの段階ではじめてアメリカ大陸やオーストラリア大陸に進出した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…狩猟の対象とした動物も,ウシ,ウマ,シカ,トナカイ,サイなどの大型のものからネズミのような小動物まで多岐にわたった。 約3万5000年前以降の後期旧石器時代は,現代人とまったく同じ新人(ホモ・サピエンス・サピエンス)の時代である。人類の生活技術はこの時代に入って加速度的に発展した。…
…新人の出現に関して古くからさまざまな考え方が出されているが,その一つにプレ・サピエンス説がある。この学説は,新人がネアンデルタール人とは別の系統から派生したとするもので,P.M.ブール(1913)以来,多くの人類学者によってさまざまな系統樹が提案されてきたが,これを集大成したのがフランスのバロアH.V.Vallois(1954)である。…
※「新人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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