新小説(読み)シンショウセツ

デジタル大辞泉 「新小説」の意味・読み・例文・類語

しんしょうせつ〔シンセウセツ〕【新小説】

文芸雑誌。明治22年(1889)1月、饗庭篁村あえばこうそんらにより創刊、いったん中絶、明治29年(1896)7月、幸田露伴編集再刊。昭和2年(1927)1月「黒潮」と改題、同年3月春陽堂発行。夏目漱石の「草枕」や田山花袋の「蒲団ふとん」など、多く名作を発表した。

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精選版 日本国語大辞典 「新小説」の意味・読み・例文・類語

しんしょうせつシンセウセツ【新小説】

  1. 文芸雑誌。春陽堂発行。明治二二年(一八八九)一月創刊で饗庭篁村(あえばこうそん)須藤南翠らが編集し、同二三年六月まで発行されたのを第一期とし、同二九年七月より幸田露伴、石橋忍月、後藤宙外らを主筆として継続した第二期は大正一五年(一九二六)一一月まで刊行。有力な文芸雑誌として文学史に残る作品を多数掲載するが、昭和期に入り次第に文学の圏外に去り、昭和二年(一九二七)一月より「黒潮」と改題するも同年三月に終刊。

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百科事典マイペディア 「新小説」の意味・わかりやすい解説

新小説【しんしょうせつ】

文芸雑誌。第1次1889年1月―1890年6月,第2次1896年7月―1926年11月。春陽堂発行。第1次は新文学の勃興期に沿った企画で,須藤南翠森田思軒饗庭篁村石橋忍月依田学海山田美妙ら14名の文学同好会による編集・発行の時代。《都の花》に対抗して新しい小説の方向を示そうとするものだった。第2次は,日清戦争後の国運の上昇気運に乗じて発刊。編集は幸田露伴から後藤宙外らに引き継がれる。新人の作品を積極的に掲載。広津柳浪河内屋》,小栗風葉亀甲鶴》,泉鏡花高野聖》,田山花袋《蒲団》などが発表され,明治30年代を代表する文芸雑誌となった。1927年1月,誌名を《黒潮》と改めるが,3冊出して廃刊

新小説【しんしょうせつ】

朝鮮の近代初期に現れた過渡的な小説形態。20世紀初期に新たな文物や思想を題材にして書かれたが日本の政治小説の翻案もあり,形式は古い時代の物語を借りている。作品に李仁稙〔1862-1916〕《血の涙》《鬼の声》などがある。
→関連項目李海朝李人稙

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「新小説」の意味・わかりやすい解説

新小説
しんしょうせつ
sin-sosǒl

朝鮮文学において,20世紀初頭,西欧近代思想の刺激を受けて現れた新しい小説形式をいう。それ以前の小説を旧小説あるいは古典小説と呼び,新小説のあとには本格的な近代小説が登場する。あえて対比すれば,新小説は日本の明治初期の政治小説に相当する。光武 10 (1906) 年からの 10年間に重要作品が集中した。特徴は,言語,手法,人物の性格創造などにおける新しさ,新しい環境における人間の生活とその思想,感情の表現などに求められる。代表的作家は,李海朝,李人稙,崔 瓚植,安国善ら。李海朝の作品『鬢上雪』 (08) は蓄妾制度が一家破滅をもたらす物語であり,『駆魔剣』 (08) は迷信への批判をテーマとし,『自由鐘』 (10) は婦人解放,民族主体精神の鼓吹,近代的教育の必要性を説いている。李人稙には,自由結婚をテーマとした『血の涙』 (06) ,両班 (ヤンバン) 階級腐敗庶民の反抗精神を描いた『鬼の声』 (06~07) などがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「新小説」の意味・わかりやすい解説

新小説(文芸雑誌)
しんしょうせつ

文芸雑誌。1889年(明治22)1月~90年6月(第1期)、96年7月~1926年(大正15)11月(第2期)、27年(昭和2)1月から『黒潮(くろしお)』と改題したが同3月廃刊。その後1946年(昭和21)1月~50年6月復刊(第3期)。春陽堂刊。普通第2期をさす。『文芸倶楽部(くらぶ)』に対抗して明治文壇の二大雑誌とみられた。創刊当初は幸田露伴(ろはん)が主宰し、新人の育成と大作主義が特色。後藤宙外(ちゅうがい)、小栗風葉(おぐりふうよう)らが世に出た。宙外主宰の1900年(明治33)から約10年間が全盛期で、泉鏡花(きょうか)、夏目漱石(そうせき)、島崎藤村(とうそん)らの佳作を出した。大正期にも老舗(しにせ)らしい手堅さで、森鴎外(おうがい)、志賀直哉(なおや)、芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)ほかの名作を世に送った。戯曲、評論にも注目すべき作品がある。

[岡 保生]


新小説(朝鮮文学)
しんしょうせつ

1906年から10年ほどの間、朝鮮の開化期に現れた啓蒙(けいもう)的文学の一種。自主独立、民主主義、新教育、科学知識、迷信打破、婦権拡張といった近代思想や新文明の普及がテーマとなっているものが多い。文学史的には、李光洙(りこうしゅ/イグァンス)、崔南善(さいなんぜん/チェナムソン)による本格的近代文学を準備したものといえる。日本の政治小説や中国の晩清(しん)小説の影響も受けている。代表的な作家、作品として、李人稙(りじんちょく/イインジク)『血の涙』(1906)、『雉岳山(ちがくさん)』『鬼の声』『銀世界』、李海朝『自由の鐘』『鬢上雪(ひんじょうせつ)』、崔瓚植(さんはく)『秋月色』、安国善『禽獣(きんじゅう)会議録』、具然学『雪中梅』などがあげられる。このうち終わりの2編は日本の政治小説、田島象二『人類攻撃禽獣国会』、末広鉄腸『雪中梅』の翻案に近い。

[大村益夫]

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世界大百科事典(旧版)内の新小説の言及

【朝鮮文学】より

…近代文学の出発点をどこに置くかについて異論はあるが,19世紀末・20世紀初頭とするのが通例である。20世紀初頭の開化期にあっては〈唱歌〉〈新体詩〉〈新小説〉が一世を風靡した。新小説とは,自主独立・近代的教育の必要性を説いた李人稙の《血の涙》(1906),因習打破・婦権拡張を説いた李海朝の《自由鐘》(1910)などをはじめ,社会的問題をテーマにして1916年ころまで書かれた一群の小説をさし,思想面でも文体面でも未熟ではあったが,4・4調や4・3調等で新しい社会事象をうたった唱歌,旧来の定形詩の枠を打ち破った新体詩と並んで,朝鮮に近代文学の萌芽をもたらしたものといえる。…

【李人稙】より

…彼は個人的に李完用に近く,小説中にも日本への過大な期待が溢れている。しかしながら20世紀初頭朝鮮に本格的近代文学の発生を準備した〈新小説〉の代表的作家としての彼の功績は大きい。自主独立・民主主義・新教育・婦人解放・自由恋愛等の近代思想を盛り込んであらわれた〈新小説〉の,最初にして最大の作家が李人稙といえよう。…

【イラストレーション】より

… 1885年に硯友社がおこり,続いて活版印刷による雑誌類が広まるにつれ,挿絵画家としては井上探景(安治),歌川国松らの浮世絵師のほかに,菊池容斎の《前賢故実》の影響をうけた渡辺省亭,三島蕉窓,武内桂舟,尾形月耕らが出た。《文芸俱楽部》《新小説》《都の花》などの挿絵,口絵で活躍し,尾崎紅葉の《金色夜叉》を手がけた武内桂舟(1861‐1943),小杉天外の《魔風恋風》を描いた梶田半古(1870‐1917)が特に人気を集めた。95年から96年にかけて創刊された博文館の《文芸俱楽部》,春陽堂の《新小説》は文壇への登竜門の役割を果たしたが,幕末合巻ものの極彩色錦絵がこれらの巻頭口絵に復活し,両誌は画家にとってもひのき舞台となった。…

【春陽堂】より

…初め草双紙や絵草紙などの販売をしていたが,82年ころから草双紙などの出版を開始した。89年《新小説》を創刊したが,翌90年には廃刊となった。しかし,文芸書出版は続け,96年には第2期《新小説》を創刊した。…

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