日本橋(泉鏡花の小説)(読み)にほんばし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「日本橋(泉鏡花の小説)」の意味・わかりやすい解説

日本橋(泉鏡花の小説)
にほんばし

泉鏡花の長編小説。1914年(大正3)千章館から書き下ろし出版。大正期の鏡花の花街小説の代表作で、翌年3月には真山青果(まやませいか)脚色新派が東京・本郷座の舞台にかけ、喜多村緑郎(きたむらろくろう)(お孝(こう))、伊井容峰(ようほう)(葛木(かつらぎ))らで初演。原作は春の1日の午後から夕暮れに至る2、3時間の経過のなかに、幾重にも回想風の叙述が織り込まれる構成だが、戯曲はこれを解きほぐし、医学士葛木晋三をめぐる日本橋の芸者滝の家清葉(きよは)と稲葉屋お孝の恋の立て引きを中心に、お孝が清葉への面当てに情人としている異形の大男伝吉(罷熊(ひぐま))、可憐(かれん)なお酌(しゃく)お千世(ちせ)を配して見せ場も多く、花柳(はなやぎ)章太郎がお千世を演じて出世役となった。17年には鏡花自らが春陽堂刊『戯曲選集』の第四編として脚色、以後この脚本により演出も洗練され、新派古典として繰り返し上演されている。

[土岐迪子]

『『筑摩現代文学大系2 泉鏡花他集』(1977・筑摩書房)』

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