翻訳|Japan Sea
日本列島とアジア大陸の間に位置する北太平洋の縁海の一つ。面積100万8000平方キロメートル、平均水深1350メートル、最大水深3796メートル、容積136万1000立方キロメートルで、このうち200メートル以浅の大陸棚は28万平方キロメートル、3000メートル以深の深海盆は30万平方キロメートルである。海底地形は、北緯44度以北では比較的浅く、中央部(北緯44~40度)では深海盆が多くを占めている。南西部の海底地形は複雑に起伏し、四つの堆(たい)が南北に延び、その一つの北端には大和堆(やまとたい)(最浅部236メートル)がみられる。
日本海の地理的形状が明らかになったのは、1787年のラ・ペルーズの探検と1808~1809年(文化5~6)の間宮林蔵(まみやりんぞう)の樺太(からふと)(サハリン)調査以降であり、1815年にロシアの航海者クルゼンシュテルンによる海図に初めて日本海の名称が用いられた。日本海の海洋学的調査は1886~1889年に行われたロシアの提督マカロフによるビチャージ号に端を発し、1913~1917年(大正2~6)の和田雄治の海流瓶による調査に続き、その後1920年代から1940年代にかけて測量船大和(海軍)、蒼鷹(そうよう)丸(水産試験場)、春風丸(神戸海洋気象台)などによる調査が行われた。現在は水産試験場や舞鶴(まいづる)海洋気象台などにより、毎月および季節ごとの定期的な海洋観測が続けられている。また、1993(平成5)~2002年に日本、韓国、ロシアの共同研究としての総合的な日本海の研究「東アジア縁辺海の水と物質循環の研究Circulation Research of the East Asian Marginal Seas(CREAMS)」が、最新の観測手法(人工衛星、中層フロートなど)を使って行われた。
なお、朝鮮では古くから日本海のことを「東海」といったと主張し、日本海の呼称を東海に変更しようとする働きかけが韓国等により行われている。これに対して、日本政府は「日本海」の呼称は地理的にも、歴史的にも国際的に定着していると主張しており、日本の主張の正当性を韓国に働きかけている。
[長坂昂一・石川孝一]
日本海の海流は、対馬(つしま)海峡から流入し津軽、宗谷(そうや)両海峡に抜ける対馬海流(対馬暖流)と、ロシアの沿海地方沖を南下するリマン海流(寒流)の二つが主要なものである。海面水温は、夏季には対馬海峡から本州沿岸沿いで25~26℃、沿海地方沖で20℃前後、冬季には対馬海峡付近で12~13℃、沿海地方北部沿岸では0℃以下となり、11月中ごろから4月にかけては一部で結氷現象がみられる。また水温躍層の下の海面下約500メートル以深は、日本海の北部で、冬季に海面で冷却され沈降してきた日本海固有水とよばれる均質な水(水温1℃以下、塩分濃度34.0~34.1psu。psuは実用塩分単位)が占めている。また1990年代になって、高精度な観測が可能となり、日本海固有水は鉛直的にいくつかの水塊に分類されている。
日本海は、冬季の日本の気候を温暖にする役割を果たしている。北西の季節風が日本海上空を吹く間に海面から多大の熱と水蒸気を補給され、本州の日本海側に降雪をもたらしている。季節風に伴い、冬季には時化(しけ)の日が9割以上を占め、春から初夏にかけては北部の寒流域を中心に海霧の発生をみることが多い。また海流と卓越風の影響で、大陸側から種々の漂流物が本州沿岸に寄せられている。
サケ、マス、タラなどの寒流系、マイワシ、サバなどの暖流系の魚種が混在する海域が多く、両者の南限および北限は北太平洋に比較してそれぞれ南北に広がっている。
[長坂昂一・石川孝一]
『堀越増興・永田豊・佐藤任弘著『日本の自然7 日本列島をめぐる海』(1987・岩波書店)』▽『星野通平・久保田正編著『日本の自然3 日本の海』(1987・平凡社)』▽『西村三郎著『日本海の成立――生物地理学からのアプローチ』改訂版(1990・築地書館)』▽『藤岡換太郎著『深海底の科学――日本列島を潜ってみれば』(1997・日本放送出版協会)』▽『富山学研究グループ編『環日本海、その新たな潮流』(1999・北日本新聞社)』▽『日本海学推進会議編『日本海学の新世紀』(2001・富山県日本海政策課、角川書店発売)』▽『倉沢栄一著『日本の海大百科』(2001・TBSブリタニカ)』▽『青柳正規、ロナルド・トビ編『日本海学の新世紀2 還流する文化と美』(2002・飛鳥企画、角川書店発売)』▽『小泉格編『日本海学の新世紀3 循環する海と森』(2003・飛鳥企画、角川書店発売)』
アジア大陸,日本列島およびサハリン(樺太)に囲まれた縁海。面積1008×106km2,平均水深1361m。1815年ロシアの航海者クルーゼンシテルンの作った海図で,初めて日本海の名がつけられた。朝鮮では東海という。朝鮮半島と九州の間にある対馬海峡,本州と北海道の間の津軽海峡,北海道とサハリンの間の宗谷海峡およびサハリンとアジア大陸の間の間宮海峡とで,それぞれ東シナ海,太平洋およびオホーツク海に通じているが,これらの海峡はいずれも水深が200m以内で浅い。海底の地形は,中央部に水深わずか数百mの大和堆があり,その北側に水深3000m以上の比較的平坦な日本海盆が広がり,東と南側は水深2500~2700mの大和海盆,西側はさらに浅い対馬海盆となっている。日本海がいつ,どのようにしてできたかはまだ解明されていないが,海底の構造は大洋と同じ海洋性であり,海洋底拡大説と同じ機構でできたとする証拠が得られつつある。
対馬海峡からは,黒潮の分枝が中国大陸の沿岸水の影響を受けた東シナ海や黄海の水を一部混入し,対馬海流(暖流)となって日本海表層に流入している。この暖流は沿岸水と混合しながら日本列島に沿って北上し,津軽海峡と一部は宗谷海峡から流れ出ている。日本海の中央部では,北緯38°~40°までをこの対馬海流系の水が占め,それ以北と朝鮮半島北部側は,融氷やシベリア沿岸水の影響を受けた寒流系の水が占めている。シベリア東部から沿海州に沿って南西に流れる寒流は,古くからリマン海流と呼ばれている。晩春から秋にかけては季節温度躍層が発達して,25m以浅は河川水の影響を受けた高温・低塩分の海水で覆われる。表面水温の季節変動は大きく,北部の大陸沿岸付近は夏季17℃前後であるのに対して,冬季はシベリア高気圧の吹き出す寒風に冷却されて0℃以下にもなり,海氷が形成される。また,対馬海流は冬の北西季節風を暖めるために,日本の気候を温和に保つ要因となる一方,多量の水蒸気を気団に放出するため,日本海側の豪雪の原因ともなっている。
日本海の数百m以深は現在,日本海固有水と呼ばれる水温0~2℃,塩分34.0~34.1‰の比較的均質な水で占められている。この深層水は,冬季に北部大陸側の表層水が冷却と海氷形成によって密度を増し,沈降して形成されるもので,溶存酸素濃度が著しく高い。しかし,堆積物の地質学的研究によると,氷期には海水準の低下によって海峡のいくつかが陸橋となり,その結果河川水の流入によって塩分が薄くなった時期や,成層化して海底付近が無酸素状態になった時期など,過去の海洋環境は大きく変わったことが推定されている。また,海峡で隔てられた深・底層の生物相についても,外洋では表層にしか生息しないプランクトンが,より深くまでみられるなど異なった特徴をもっている。寒流域の表層は,栄養塩に富み生物生産性が高く,また大和堆など好漁場となる浅瀬も多いことから,寒流系と暖流系の魚族ともに豊富で漁業は盛んである。
執筆者:野崎 義行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
日本列島,アジア大陸およびサハリン(樺太)に囲まれた海。面積は約100万km2。古くは越の海・北海と称され,大和政権による北方経営は日本海沿いに進められた。高句麗・渤海(ぼっかい)の使節も北陸を中心とした日本海沿岸に到着。中世には博多・敦賀・津軽などを結ぶ海上航路が発達し,近世には西廻海運が確立し北前船などが盛んに航行した。日本海の名称は,マテオ・リッチ「坤輿(こんよ)万国全図」(1602刊)にすでにみえ,日本では明治期以降一般化した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新