国際連合憲章中にある条項で、第53条、第77条1項b、第107条に規定がある。旧敵国とは、第二次世界大戦中連合国の敵国であった日本、ドイツ、イタリアなどの国をさす。条項の主旨は、「旧敵国からの侵略に備える地域的取極に基づいてとられる強制行動は、安全保障理事会の許可を必要とせず、安全保障理事会への報告だけで足りる(第53条1項後段)」ということである。この条項は、第二次大戦中における枢軸国(日本、ドイツ、イタリア、およびこの3国の側にたった交戦国)の侵略政策の再現に備えて設けられたもので、国連の枠外で紛争解決のための強制行動が随意にとられることは平和の維持を危うくするため、強制行動を安全保障理事会の統制下に置いている憲章のなかで、第51条の集団的自衛権とともに例外をなす。戦後ソ連が東欧諸国と結んだ相互援助条約などはこの条項を根拠としていた。しかし、この条項は過渡的性格のもので、国連発足後半世紀を経た今日、もはや実質的意義を失ったとみるべきであろう。
1995年の第50回国連総会では憲章特別委員会勧告による旧敵国条項の改正・削除が賛成155、反対0、棄権3で採択、日本政府にとって懸案であった同条項の削除が正式に約束された。ただし憲章改正は安全保障理事会5か国を含む加盟国3分の2以上に批准されたうえでの発効となっており、さらに安保理改革問題との関連もあるため、改正にはまだかなりの時間を要するとみられている。
[香西 茂]
(最上敏樹 国際基督教大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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