景事(読み)ケイゴト

デジタル大辞泉 「景事」の意味・読み・例文・類語

けい‐ごと【景事】

人形浄瑠璃で、歌謡的な節に合わせて人形舞踊的な所作をする部分道行みちゆきの叙景的な部分や物尽くしなど。節事ふしごとけいじ
上方歌舞伎で、舞踊または舞踊劇現代では人形浄瑠璃にのみ残っている言い方。所作事

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精選版 日本国語大辞典 「景事」の意味・読み・例文・類語

けい‐ごと【景事】

〘名〙
人形劇義太夫節などで、一曲のうち曲節中心の叙景的な部分。道行物づくしなど所作事的な要素を多分に持つ。
洒落本・魂胆惣勘定(1754)下「義太夫ならばけいごと一つもかたり給へ」
上方歌舞伎で、舞踊または舞踊劇をいう。現在は人形浄瑠璃だけに残る語。所作事。〔浪花聞書(1819頃)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「景事」の意味・わかりやすい解説

景事 (けいごと)

人形浄瑠璃,歌舞伎の場面の一種。劇的・叙事的な段物浄瑠璃に対して,抒情的・叙景的な景容本位の場面である。《狐火》《四季の寿》など。視覚聴覚を楽しませる感覚的性格が強い。舞台を美麗にしつらえ,登場人物(人形)の衣装も華やかで美しい。そして,歌うような旋律的な音楽を伴う。歴史的には,古浄瑠璃の物づくしに始まり,義太夫節にも継承され,さらに京坂の歌舞伎でも採り入れられた。写実的な演技でなく,音楽にのった振りないしは舞踊風なしぐさで,景容の美を重んずる。義太夫節も掛合で演奏し,段物浄瑠璃と違った独特の音遣い,きれいな三味線音色をきかせる。広義には,道行をも含むが,普通は区別している。また,普通の段物浄瑠璃中にも,一部分が景事とおなじ音楽性を示す場合がよくある。この部分も景事と呼ぶ。なお,幕末期以後,義太夫節では〈けいじ〉と呼ぶことが多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「景事」の意味・わかりやすい解説

景事
けいごと

「けいじ」ともいう。「景色事」の略。人形浄瑠璃のなかで,音楽,舞踊を主とする部分,およびそこで演じられる演奏,演技の種類をいう。音楽 (浄瑠璃) 面に限る場合は,節 (ふし) 事ともいう。5段組織の時代浄瑠璃には,通常4段目の初めに,景事の代表である道行の場がおかれ,世話浄瑠璃では心中道行などが設けられる。ほかにも音楽的,舞踊的表現によって観客を陶酔させ,劇的緊張をやわらげるために,「…尽し」「…物狂い」などと呼ばれる景事場面が設けられることが多く,『義経千本桜』の「道行初音旅」,『心中天の網島』の「名残の橋尽し」,『芦屋道満大内鑑』の「小袖物狂い」などが有名。なお上方では,歌舞伎の所作事も景事と呼んだ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「景事」の意味・わかりやすい解説

景事
けいごと

人形浄瑠璃(じょうるり)、歌舞伎(かぶき)用語。「けいじ」ともよぶ。京阪で使われる。浄瑠璃の場合、節事(ふしごと)ともいい、曲節と人形の舞踊的な動きを主にした道行(みちゆき)とか何々づくしのこと。叙景的な部分が中心なので、この名ができたという。歌舞伎でも、江戸時代の京坂の脚本では、観客の気分を変えるための舞踊風の一幕を景事とよび、転じて舞踊または舞踊劇の異称にもなった。現代では、文楽(ぶんらく)の舞踊風の演目にだけ、この名称が用いられる。『仮名手本忠臣蔵』八段目の道行、『団子売(だんごうり)』などが例。

[松井俊諭]

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世界大百科事典(旧版)内の景事の言及

【景事】より

…広義には,道行をも含むが,普通は区別している。また,普通の段物浄瑠璃中にも,一部分が景事とおなじ音楽性を示す場合がよくある。この部分も景事とよぶ。…

【義太夫節】より

…以上の各場は作曲,演奏の上でやはり区別される。(2)段物と道行・景事 劇的性格のつよいふつうの曲を段物という。通常太夫,三味線各1人ずつで演奏し,ときに三味線がさらに加わるツレ弾きや,箏,胡弓などが部分的に加わることもある。…

【所作事】より

…歌舞伎舞踊のこと。〈所作〉また〈振事(ふりごと)〉〈景事(けいごと)〉とも。歌舞伎の文献では1687年(貞享4)の《野良立役舞台大鏡》にみえるのが古く,所作事ははじめやつし事として,職業の意味での所作から,職業とくに職人の動きを舞踊に写したものであった。…

【道行物】より

…道行を題材とした所作事。〈道行事〉とも〈景事(けいごと)〉ともいう。一段あるいは一場を通じての道行で,独立性を有し,ある仮定の地に達する間を扱う舞踊劇を指す。…

※「景事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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