その実質内容において国家作用の基礎をなす法をさしていう場合もあるが,普通は,国法の諸形式のなかで最高の効力をもち,それに違反する法規範は無効と考えられるようなものを最高法規という。そのような意味での最高法規の思想は,〈古き良き法〉の支配という中世封建社会の法観念のもとで,強固に形成された。そこでは,建前として,いかなる人間の意思をもってしても動かすことのできない古来伝統の規範秩序があると考えられ,立法は,法の創造でなく,既存の法の発見であるとみなされていた。〈国王は何ぴとの下にあるべきでもないが,神と法の下にあるべきだ〉とされていたのである。近世絶対王政による国王権力の集権化が進行してもなお,身分制に基づく国政構造のゆえに,この建前が突きくずされることはなく,たとえば,フランス絶対王政のもとでも,不文の〈王国基本法lois fondamentales du royaume〉が存在するという思想があった。イギリスにおける,コモン・ロー優位の思想については,よく知られているとおりである。
近代市民革命によって身分制秩序が原理的に否定され国家への権力集中が完成されるとともに,権力,すなわち人間の意思によって定立された成文の法規範の優位という思考が一般化する。イギリスでは議会制定法の優位(議会主権)が確立するが,アメリカ革命やフランス革命のなかで,〈議会の立法といえども従わなければならない硬性の憲法〉という観念のかたちをとって,近代的意味での最高法規の思想があらわれる。とりわけアメリカ合衆国憲法(1788)は,合衆国憲法およびそれに基づいてつくられる合衆国の法律・条約を〈国の最高法規〉と明記して(6条2項),州法に対する連邦法の優位を定め,また連邦憲法の最高法規性を司法裁判所の違憲審査権によって裁判所に担保するやり方を発展させた(違憲立法審査制度)。
日本国憲法の場合,連邦法と州法の関係という要素はないが,憲法の最高法規性を宣言する(98条1項)とともに,その最高法規性を担保すべき制度として,裁判所に違憲審査権を与えている(81条)。
第2次大戦後の諸国では,憲法の最高法規性を前提として,裁判所による違憲審査の制度をおくことが一般化しているが,それは,憲法と下位の法規範の適合性についての公権的判断権を裁判所に与えるということを意味するのであり,そのような判断権を立法機関に与える場合には,憲法の最高法規性を前提としながらも違憲審査制が否定されることに,注意を要する。
執筆者:樋口 陽一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
実定法の頂点に位置し、もっとも強い形式的効力をもつ成文法の意味で、一般に憲法をさす。その思想的源流は、イギリスにおける「法の優位」の思想と不可分のものとして、専制的な政治権力を制約する高次の法の観念として成立し、この思想はアメリカ合衆国憲法第6条2項に具体化された。これが日本国憲法第10章に継受された。日本国憲法第98条1項は「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」と定めている。アメリカ合衆国憲法の場合は、それが定める連邦憲法、連邦法律、条約の最高法規性は、主として各州憲法や法律に優先することを意味するので、連邦でない日本の場合とは異なる。ところで日本の憲法について、それが最高法規であることは理の当然で、あえて明文の規定を必要としない、したがって不必要の規定である、とする見解もあるが、日本の民主主義の成熟度は、この規定を不必要とするまで確立しているとはいいがたく、そこにこの規定の存在価値があるといえる。この憲法の最高法規性を保障する制度として違憲立法審査権がある。
[池田政章]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新