…自分自身の肉体を性対象とするオートエロティズム(ナルシシズム),自分と同性を対象とする同性愛,性的に未熟な幼児を対象とする幼児性愛(ペドフィリアpedophilia),老人を対象とする老人性愛(ジェロントフィリアgerontophilia),死体を対象とする屍体性愛(ネクロフィリアnecrophilia),動物(獣,鳥など)を対象とする動物性愛(ゾーフィリアzoophilia,これにもとづく行為が獣姦=ソドミーsodomy),フェティッシュと呼ばれる物品や肉体の一部を性愛の対象とするフェティシズム,親子・同胞と交わる近親相姦など。一方,性目標の異常としては,露出症,窃視症(voyeurism,いわゆる〈のぞき〉),サディズム,マゾヒズム,異性装症ないし服装倒錯(トランスベスティズムtransvestism)などがあげられてきた。異性との性器交接を正常の性交と考えると,これらの行為はいずれも,それによって得られる以上の性的興奮,快感,満足を,これらの性対象や性行為から獲得しようと試みるものとされてきた。…
…したがってここでは,〈変装〉という言葉自体がもつニュアンスと時代的な限定性から離れて,一般的かつ原理的に,しばしば歴史的にも重大な意味を担っている,一種の文化現象あるいは社会現象としての変装という行為について,以下考察を加えることとしたい。 なお,〈変装〉という言葉の周辺にある用語上の問題について少し補足すれば,英語のtransvestismという言葉も,オックスフォード英語辞典本巻(1928完結)には未登録の新しい言葉であり,今日文化人類学などでは,一般的に〈変装〉〈異性装〉を意味する言葉としてごくふつうに用いられるものの,多くの一般英語話者の間では,一種の異常性欲としての〈異性装症〉〈服装倒錯〉を指すニュアンスが強いという特殊性をもっている。また,日本語の〈仮装〉という言葉は,典型的な用法としては〈カーニバルの仮装〉〈仮装舞踏会〉といったように,〈変装〉のそれと文脈上の使い分けがなされ,また,〈変装〉がどちらかというと〈変わる〉という行為の局面に重点が置かれるのに対して,〈仮装〉の方は変わったその状態に着目して,それが〈本来の姿ではない〉という虚構性を示唆する,という両者の区別が指摘されたりもするが,ある国語辞典の〈仮装〉の項の説明に〈変装〉という言換えがなされていることにも明らかなように,両者の区別は分明ではない。…
※「服装倒錯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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