束縛運動(読み)そくばくうんどう(英語表記)constrained motion

改訂新版 世界大百科事典 「束縛運動」の意味・わかりやすい解説

束縛運動 (そくばくうんどう)
constrained motion

斜面に沿って滑り落ちる物体とか,長さの決まった糸でつるされた振子のおもりのように,ある決まった面や線の上だけで行うように制限された運動束縛運動という。上記の例では,物体が面を離れたり,振子の糸がたるむことは可能であるから,正しくいえば面の片側領域に限られた束縛運動であるが,そういう場合も広い意味で束縛運動に含める。束縛は,面の形や糸の長さを保持しようとして,面や糸が及ぼす抗力張力などによって起こると考えられ,これらの力を束縛力constraining forceという。束縛力はちょうど必要なだけ現れる力であって,あらかじめどこではどんな力が生ずるか与えられているわけではない。例えば振子の最下点を質量mのおもりが速さVで通過するとき,糸の長さlを保つにはおもりに半径lの円運動をさせる必要があるから,求心力としてmV2/lが必要である。おもりに働く下向きの重力と糸が及ぼす上向きの張力の合力が,上向きのmV2/lに等しくなるには,張力はmgmV2/lだけ必要である(gは重力加速度)。これはVによって異なるが,運動方向には垂直である。面の抗力も同様で,面の形を保つためだけならそれは面に垂直である。このように,摩擦力と違い,張力や抗力はつねに運動に垂直で仕事をしないという特徴がある。束縛運動を扱うには,斜面に沿って座標軸をとるとか,糸の傾角変数として使うなどして,運動を記述するための変数の数を減らすのが賢明である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「束縛運動」の意味・わかりやすい解説

束縛運動
そくばくうんどう

拘束運動ともいう。着目している物体が、他の物体によって制限を受けて行う運動のこと。氷でできたコースを滑り降りるリュージュ(そり)のように決められた斜面上を物体が滑り降りる場合や、こまのように物体中の1点が固定された運動などがその例である。さらに、箱の中に閉じ込められた気体分子の運動などは、より一般的な束縛運動の例である。このような場合、物理学(力学)では、ニュートン運動方程式束縛条件のもとで解くことが必要になる。一般に束縛条件は、物体の位置座標に関する関係式(等式)で与えられる場合と、そうでない場合とに分類される。前者では、物体の自由度がその条件式の数だけ減ることになる。たとえば、物体が滑らかな斜面を滑り降りる場合がそうで、斜面に垂直方向の運動が凍結されている。すなわち垂直方向に働く力の総和はゼロである。これは重力の垂直成分と斜面からの反作用がつり合っていることを示す。したがって、束縛条件は、斜面に垂直な、斜面からの反作用として表現される。後者の場合は、すなわち、束縛条件が位置座標間の不等式で与えられたりする場合は、簡単に解けないことが多い。その原因は、他の物体の、着目している物体に及ぼす力(束縛力とよばれる)が多くの場合あらかじめ与えられないからである。

[阿部恭久]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「束縛運動」の意味・わかりやすい解説

束縛運動
そくばくうんどう

(1) bound motion 単振動や原子内の電子の運動のように,ある有限の領域内に限られた運動。 (2) constrained motion 拘束運動

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世界大百科事典(旧版)内の束縛運動の言及

【運動】より

…地上の物体が受ける重力はその物体に地球の各部分が及ぼす万有引力の総和にほかならない(厳密には,さらに地球の自転による遠心力が加わる)。
【束縛運動】
 上にあげた例は力(重力,万有引力など)がわかっていて運動(軌道)を調べることのできる例であったが,束縛運動のように軌道があらかじめ与えられていてそれからそれに対応する力が決まってくる場合もある。斜面(またはもっと一般に与えられた曲面)上の運動とか,長さlの糸の端につけたおもりの水平面内での等速円運動などがそれである。…

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