東方朔(読み)とうぼうさく

精選版 日本国語大辞典 「東方朔」の意味・読み・例文・類語

とうぼう‐さく トウバウ‥【東方朔】

[一] 中国、前漢文人。字(あざな)は曼倩(まんせん)。平原厭次(山東省恵民県)の人。諧謔風刺の才にすぐれ武帝寵愛された。西王母の仙桃を盗んで食べた話など数々の逸話で知られる。著に「東方先生集」がある。(前一五四頃‐前九二頃
[二] 謡曲。脇能物。観世・金春・喜多流。金春禅鳳作。漢の武帝が七夕星祭をしていると老人が現われ、最近営中に青鳥が飛び回るのは西王母が参上する瑞兆だと語り、自分は高齢九千歳の東方朔だが神仙国の佳人西王母を伴って参内しましょうと言って消える。やがてふたたび東方朔が現われ、西王母とともに舞をまう。

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デジタル大辞泉 「東方朔」の意味・読み・例文・類語

とうぼう‐さく〔トウバウ‐〕【東方朔】

[前154ころ~前93ころ]中国、前漢の文人。平原厭次(山東省)の人。あざな曼倩まんせい武帝に仕えたが、巧みなユーモアと奇行により道化的存在だった。西王母の桃を盗んで食べ長寿を得たという伝説がある。著「答客難」「非有先生論」など。
謡曲。脇能物観世金春こんぱる喜多流金春禅鳳ぜんぽう作。漢の武帝が七夕の星祭りをしていると、東方朔が西王母とともに現れ、聖寿長久を祝福する。

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改訂新版 世界大百科事典 「東方朔」の意味・わかりやすい解説

東方朔 (とうほうさく)
Dōng fāng Shuò
生没年:前154-前93

中国,前漢時代の文学者。字は曼倩。滑稽と弁舌とで武帝に侍した,御伽衆(おとぎしゆう)的な人物。うだつの上がらぬ彼を嘲笑した人々に答えて〈答客難〉を書く。彼は,自分は山林に世を避けるのではなく朝廷にあって隠遁しているのだと主張する。この〈朝隠(ちよういん)〉の思想は六朝人の関心をあつめ,例えば彼の生き方をたたえる夏侯湛〈東方朔画賛〉には王羲之の書がのこることで有名である。また漢代すでに彼にまつわる神仙伝説が発展し,太白星の精であり,長寿を得たともされるほか,トリックスターとして,孫悟空天宮を鬧(さわ)がすといった物語のもとになる伝説も彼に付随する。《海内十洲記》や《神異経》は彼の著だとされるが偽託である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「東方朔」の意味・わかりやすい解説

東方朔
とうぼうさく
(前154?―前93?)

中国、漢の文人。字(あざな)は曼倩(まんせい)。平原厭次(えんじ)(山東省恵民県)の人。武帝が即位したのち賢良文学の士を募ったとき、朔は自賛の文を奉り、文才を認められて金馬門侍中(きんばもんじちゅう)となり、そののち常侍郎(じょうじろう)から太中大夫(たいちゅうたいふ)給事中となった。朔は博学多識で文章に優れ、ユーモアや機知に富み、諧謔(かいぎゃく)の言語で武帝の側近となったが、武帝からは滑稽(こっけい)の士とみられ、政治のうえでは信任を得られなかった。朔が不遇の自分を慰めてつくった「客の難に答う」「非有先生論」の二文は『文選(もんぜん)』に収められている。西王母の植えた桃の実を盗んで食べ、仙人になって八千年の長寿を得たなど、古来伝説が多い。これによる能『東方朔』もある。

[根岸政子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「東方朔」の意味・わかりやすい解説

東方朔
とうほうさく
Dong-fang Shuo

[生]前元3(前154)?
[没]太始4(前93)?
中国,前漢の文学者。平原郡厭次 (ようじ) 県 (山西省朔県) の人。字,曼倩 (まんせい) 。機知とユーモアで武帝から寵愛され,太中大夫給事中に進んだ。のち酔って殿上で小便をしたことから庶人に降等されたが,また中郎に復した。上林苑の造成や,佞人の寵愛をいさめて賞せられたこともあるが,結局は道化役としてしか認められず,富国強兵の策を上奏したが用いられなかった。それを自嘲した『答客難』『非有先生之論』をはじめ,若干の詩文が残されている。また,漢代からすでに荒唐な文を彼に仮託することが行われ,現在では『神異経』『十洲記』がその著として伝わるが,ともに晋以降の偽作である。伝説では西王母の仙桃を食べて非常な長寿を保ったとされる。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「東方朔」の解説

東方朔
とうほうさく

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
近松門左衛門(1代)
初演
元禄9.11(京・万太夫座)

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世界大百科事典(旧版)内の東方朔の言及

【滑稽】より

…滑稽の原義はそのような人々,またはそのような能力を意味する。幇間(たいこもち),道化,あるいは言葉の原義での〈俳優〉の一種であるが,そのなかには漢の武帝に仕えて〈滑稽の雄〉といわれた東方朔のように教養ゆたかな文士もいた。司馬遷は彼らが諷諫によって君主の愚行を改めさせた点を高く評価し,《史記》の中に〈滑稽列伝〉を立てて表彰する。…

【徳州】より

…民国時代に徳県となり,解放後徳州市となる。陵県は漢の東方朔の生地として墓所があるほか,顔真卿の書いた〈東方先生画賛〉の碑が残っている。【秋山 元秀】。…

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