翻訳|forest
樹高が少なくとも4~5m以上ある高木が密生し,面積的な広がりをもって地上空間を枝葉で閉鎖したもの。個々の樹木の枝葉が空間を立体的に占有している部分を樹冠crownといい,森林ではこれらが一体となって地上空間を占有して林冠canopyを形成する。森林は樹木の集団(林木)とこれが立っている土地(林地)で構成され,地上,地中を通じて多くの植物,動物,微生物が生活している。
森林は世界の陸地の約3分の1を占めている。人類が地上に現れて以来,森林生産物を食料,燃料,建築材料,製紙などに利用しており,人間生活には不可欠のものである。さらに水の貯留,環境保全,レクリエーションの場としても重要なものである。
森林生態系とは,森林をつくる多年生の木本植物,これと共存する他の植物や動物などのおもに地上に生息する生物群集,微生物や土壌動物などおもに土壌中に生息する土壌生物群集およびこれらをとりかこむ無機的環境とから成る一つの物質系である。
森林を構成する植物は地上部に立体的に枝葉を広げており,林冠を形成する高木階の下に亜高木階,低木階があり,その下に草本階,コケ階がある。ほかに,階層を形成しないがつる植物がある。草本階,コケ階を林床forest floorという。環境条件に恵まれた広葉樹天然林では各階層が発達するが,シラベなどの亜高山針葉樹天然林では,高木階とコケ階のみの単純な構成となる。針葉樹人工林も同様に階層は単純である。また葉における光合成と植物体の呼吸による消費の差を純生産量といい,それから枯死量と被食量を除いた分が集積したものを植物群落の現存量という。
森林生態系は,草原やツンドラなどの他の植物生態系に比して,地上空間の高い範囲を占有し,しかも,毎年の生産物が累積していくため,その現存量は数百t/haに達し,草原やツンドラなどの生態系が数t~数十t/haであるのに比較して著しく高い。地球上の全森林の現存量の総量は,地球上の総植物現存量の90%を占めている。また森林生態系では単位面積当りの葉量も多く,かつ地球上で大面積を占めているため純生産量も多く,陸地植物の純生産量の半ば以上は森林によるものである。したがって森林は,太陽エネルギー貯留の主役を果たしていることになり,人類のエネルギー利用の給源としてきわめて重要といえる。このことは逆に,森林の伐採利用は大気中へ炭酸ガスを多量に還元することになり,気象条件の大きな変動の原因になることを示唆している。近年の熱帯域における森林の減少傾向は,地球の気象に変化を与えるような炭酸ガス増加の原因になっていると憂慮されている。
植物の各生態系では,それぞれ特有のエネルギーや物質の流れがある。すなわち,一般に農業における作物は一年生植物で構成され,毎年生産されたものは収穫として系外に持ち出されるので,土壌中の腐植量も無機質の栄養分も減少し,生産力は低下する。したがって,人為によって有機物や栄養分を補給する必要がある。森林は長期間地上に生存し,毎年落葉することによって,必要な成分は土地に還元され,生産力は維持される。また森林は養分の循環面から閉鎖的であり,系内に養分を保持する機能をもっている。森林を伐採し,焼畑や放牧をすることは,森林生態系の上述のようなすぐれた性質を失うことになり,ひいては,人間生活の基盤が壊されていくことにもなりかねない。
火山噴出,大はんらん,氷河の後退,砂丘などの形成がおこると,まずコケや草が生え,その後,低木,次いで高木が立ち,森林が形成されるに至る。最初に森林を構成するのは,マツ類,ヤナギ類,ハンノキ,カンバなど陽性でやせ地に耐える樹種である。その後,コジイ,コナラ,ミズナラなどが成立し,逐次,陰性樹種に交代して,最終的にはそれぞれの森林帯に応じた安定した林となる。これを極相という。このように新しい土地に植物群落が成立し,安定した極相に至る過程を一次遷移primary successionという。また,遷移の進行とともに土壌腐植が増加するなど土壌の変化がおこり,成熟した土壌に変化する。森林内部やそれをとりまく環境条件も変化しながら安定したものになる。極相に達した森林や遷移過程の森林が伐採や山火事などで破壊されると,遷移が中断したり後退が起こる。森林の破壊の度合が高いほど植生は大きく後退して,遷移の初期の植生と同じような構成となる。これは,土壌条件が悪化し,環境条件も初期の条件へと逆戻りしたためである。これより再出発した群落の遷移を二次遷移secondary successionという。なお,これら遷移の途中段階にあって極相の森林でないものを二次林という。
地球上には各種の森林が分布しているが,その分布の仕方には一定の基準がある。おおまかには気候の変化に対応して帯状に森林の種類が変わり,最後に森林限界に達する。この関連因子としては,温度条件と乾湿度条件がある。温度条件には赤道から極への方向の熱帯から寒帯への変化と,平地から高山に至る高さに応じての温度変化との二つがある。また乾湿度条件は地域によって異なるが,巨視的には海岸の湿潤な気候から大陸内部の乾燥した気候へ向かって変化し,森林の種類や存否に大きく影響する。北半球での森林帯の水平的な分布状況を温度と乾湿度との変化に対応させると図1の通りである。
森林植生は,標高に応じた温度変化に伴い垂直的に変化する。暖温帯域では亜山地帯(照葉樹林帯),山地帯(落葉広葉樹林帯),亜高山帯(常緑針葉樹林帯),高山帯(ハイマツ帯,森林限界以上)に区別されている。北アルプスではおよそ500m,1700m,2500mがそれぞれ亜山地帯,山地帯,亜高山帯の上限にあたり,2500m以上が高山帯となる。なお熱帯では標高が高くなるにつれて平均気温は低下するが,年較差はほとんどない。そして平地から森林限界まで常緑の広葉樹林がみられ,低地熱帯多雨林,低山地熱帯多雨林,下部山地多雨林,上部山地多雨林に区別されている。
日本では,標高に応じた森林帯区分のほかに,太平洋側の山地と日本海側の山地とで森林の樹種構成が異なってくる。これは太平洋側が夏雨型,冬少雨型(北部地域は土壌凍結)であり,日本海側は冬雨型(豪雪型)であることによる。多雪地域では種の分布が制限され,とくに常緑針葉樹の分布が少ない。しかし一方で積雪下で寒風から保護されるので,ユキツバキ,ハイイヌガヤ,ハイシキミなどの常緑樹が林内に存在しうる。また太平洋側では山地帯にウラジロモミ(モミ)を有し,亜高山帯はシラベ,オオシラビソ(アオモリトドマツ)から成るのに対して,日本海側ではオオシラビソが多い。白山,月山など日本海側の豪雪地では,オオシラビソなどの針葉樹も成立不可能となり,ミヤマナラの低木林となる。
青森のヒバ林(ヒノキアスナロ林),秋田のスギ林,木曾のヒノキ林は日本の三大美林といわれていた。いずれも天然生林で,藩制時代に領有していた各藩が厳重に保護育成に努力した森林である。現在は国有林となっているが,伐採が進み人工林造成が行われたため,天然林は著しく減少している。(1)青森のヒバ林は下北,津軽の両半島に分布している。下北半島では南部藩がヒバの大径木から順に抜き切りをしていたので,若干若く複層林型を示し,津軽半島では津軽藩がヒバの伐採を制限していたので老齢な一斉林型が多い。両半島のヒバ林に対して昭和の初期からその一部に天然林施業実験林を設け,理想的な施業を行っている。(2)秋田のスギ林は米代川流域に多い。優良な材がとれ,高級建築用材などに利用されている。材積が1200m3/haにも達する高蓄積の美林もある。(3)木曾のヒノキ林は木曾川流域に存在するが,岐阜県益田川流域にも同様のヒノキ天然林が分布している。この天然林にはヒノキのほか,サワラ,アスナロ,ネズコ(クロベ),コウヤマキ(これを木曾の五木という)などがあり,藩制時代にたいせつに保護されていたものである。林齢250~300年,蓄積1000~1500m3/haのすぐれた天然林がある。1600年代に木曾の森林は大量に伐採された模様で,現在の天然林はその後の更新によるものである。(4)屋久杉天然林は樹齢100~300年のもの(これをコスギという)が主であり,常緑広葉樹と混交している。このなかに樹齢1000年以上の屋久杉が点在しているので有名である。老齢の屋久杉は現在なお1万本は存在するものと推定されている。約300年前より島民の窮乏を救うために,老齢の屋久杉からなる原生林の伐採を始め,現在のコスギを主とした天然林はその跡地に更新したものである。現在,原生自然環境保全地域,国立公園特別保護地区,学術参考保護林等1万ha弱が禁伐によって保護されている。
全国的にみてヒノキ天然林は木曾以外の地域では部分的であるが,スギ天然林は四国の魚梁瀬(やなせ)のほか,中部地方の立山,白山,中国地方の脊梁山地などに多く存在している。日本で高蓄積の森林は身延山のスギで,2800m3/haの例がある。
外国の森林で著名なものを次にあげる。(1)セコイアメスギ天然林 アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコ以北のコースト・レーンジズにみられる森林で,世界で最も樹高が高いといわれている。この森林は80万haはあったといわれるが,現在残っているのは12万haである。樹高112mに達するものもあり,世界最高の林といわれ,1ha当りの蓄積は1万m3にもなっている。普通高さ60~80m,直径4~6mにもなる。樹齢は約2000年という。現在約2万haが国立公園として保護されている。(2)セコイアオスギ天然林 サンフランシスコ~ロサンゼルス間の内陸のシエラ・ネバダ山脈中にあるヨセミテ,キングズ・キャニオン国立公園を中心に存在する。単位面積当り世界で最も材積の多い森林であるといわれる。樹高は90mに達するものがあるが,とくに直径は10mにも達する。樹齢は3500年にも達し,老齢な森林であることでも有名である。(3)アメリカトガサワラ天然林 北アメリカ西海岸にみられる大森林で,樹高70m,直径3mのものが多い。生長が早く,蓄積は5000m3/haをこえる。(4)ユーカリ天然林 オーストラリア東部海岸地区にあり,樹高100m以上の通直な幹の広大な林である。ひじょうに生長が早く,生産量が大きい。山火事跡の二次林が多く樹種も多いが,熱帯地域をはじめ各地の人工造林に用いられている。(5)シュワルツワルトの森林 ドイツの南西部,ライン川に沿った南北150km,東西30~60km,標高80~1500mにわたる山地の森林である。トウヒ,モミ,ブナ,マツによって構成され,トウヒが約50%を占める。トウヒは人工造林,その他は天然更新の複合林である。伐期は80~120年だが,この2倍の場合もある。経済林ではあるが,森林の美しさで近年は観光目的で訪れる人が多い。ヨーロッパの代表的な森林であると同時に,今後の森林施業の基準となるものである。
森林の分布を面積でみると,その実面積は南アメリカ,旧ソ連邦,アフリカ,北アメリカ,アジアの順で,森林(面積)率(森林面積/地域面積)も南アメリカ,旧ソ連邦が高い。一般的にいって,熱帯降雨林帯や亜寒帯針葉樹林帯に存在する諸国は森林率が高いが,これらの地域でも,土地利用の歴史によって森林率が低くなっている国々もある。また,温帯の落葉広葉樹林帯を主とする地域は本来は広大な森林が存在していたが,農耕や牧畜の発達によって森林率が低くなっている国が多い。ただし日本は急峻な山地が多いために森林率は66%と高率である。一般に大陸の内陸部は雨量が少ないために森林は少ない。
森林資源は人間生活には不可欠のものである。そのうち木材は太古より燃料として用いられているのみならず,生活用具,家屋などにも利用されている。近代になってからはとくに製紙用にも多量に利用されている。木材生産を用途別に用材生産と薪炭生産に二大別し,主要国の生産量を示すと表1の通りである。一般に針葉樹林の多い国や先進国では用材生産が主であり,燃料はもっぱら石油系に依存しているが,発展途上国では自給燃料のための燃材生産が主になっている。発展途上国で,本来森林資源の乏しい場合は,燃料としての過伐のため,ますます森林が減少する事態となっている。中東の国々では,ヤギ放牧などのため森林資源のいっそうの枯渇を招いている。森林の生産力のきわめて高い熱帯降雨林地域においても,焼畑,農地転用,輸出のための過度の伐採などのため,急激に森林資源が減少しつつあり,地球規模で深刻な問題となっている。
森林資源は,上述のような直接利用のために必要であるというだけでなく,存在すること自体が必要である。すなわち,森林は土地保全,水源涵養(かんよう),洪水防止,景観保全などに重要な役割を果たしている。森林資源は本来は生長によって生産されるものであり,老衰した森林は生長は望めないが,適正に伐採利用する場合には,生長量によって,資源量を維持しながら木材利用することができるのみならず,上述の森林のもつ公益機能の効果も期待することができる。しかし森林資源は現状では憂慮すべき状態にあり,木材の合理的利用と人工造林推進による森林再造成ならびに計画的伐採が急務である。
日本の森林資源は表2の通りである。森林の総面積は,近年はほとんど増減はない。しかし,第2次大戦中,および大戦後に森林は大量に伐採された。戦後社会情勢が安定してから,伐採跡地の造林が行われ,さらに,広葉樹天然生林から針葉樹人工林への林種転換が積極的に実行された。一般に天然林とくに広葉樹林では単位面積当りの本数,生長量,蓄積は,同年齢の針葉樹人工林に比較して低く,また,燃料源が木材から石油系に代わったなどの理由により,広葉樹薪炭林は人工林へと転換されたのである。その結果,1981年では1954年と比較して天然林は274万ha減少し,人工林は454万haの増加をみた。人工林率は21%から39%に増加した。とくに54年から約10年間の造林面積は毎年約40万haに及び,有史以来の大造林となった。その後は木材価格の低迷,労働力の不足,造林適地が少なくなったなどにより,人工造林面積は著しく低下している。造林樹種もカラマツ,マツ類は減少し,ヒノキ,スギが主要種となっている。このような資源状態に対し,木材の使用量は大きく,需給の状態は図2のようである。1970年以降は需要量は年間1億m3を上回り,外材による供給は70年では需要に対して54%であったが,逐次外材依存率が高まり,最近では約70%となっている。しかし1950年ころから積極的にすすめられた造林により,国内の森林蓄積が多くなっているので,将来は国産材の消費量の増えることが期待されている。
森林の取扱い(管理や経営の方法)を環境保全の視点から意義づけた呼称が森林保全である。日本では森林法(1897公布)以来一貫して森林の取扱いを環境保全の視点から意義づけている。国土の荒廃を防ぎながら,いかに多くの林産物を森林から継続的に取りだすかがその目的である。
森林保全の内容には少なくとも三つある。(1)木材生産環境を確保するための森林保全,(2)生活・経済・文化環境を守るための森林保全,(3)心身衛生環境を守るための森林保全である。(1)の森林保全の基本的原則は,木材生産と環境保全の両立である。森林は住みよい自然環境を作り,提供する一方,木材を生産することにより社会に有用な価値を与えている。この保全と生産という二つの機能は別々にあるのではなく,分かちがたく結合しているものであり,環境保全の機能を果たさねばならない森林であっても,長期的には木材生産(伐採,植林)が行われるものである。木材生産という〈森林を切る〉行為と環境保全という〈森林を切らないで保護する〉行為というまったく逆の方向をもつ二つの営為を両立させるには,自然の理法にかなった技術を適用することが基本となる。その技術とは,土壌,気候,地形など風土に適した木を植えて育て,伐採することで,生産によって森林の自然循環体系を破壊しない技術をいう。具体的には主産物の乱伐,過伐,副産物の乱収,暴採により,地力が破壊,減退,消耗することのない技術のことで,それが(1)の内容である。(2)の森林保全とは,国土の荒廃を防止し,環境を保全する目的の森林を保持することで,水源地帯の森林を適正に管理して水の貯留に役だて(〈水源涵養林〉の項目を参照),土砂が流出,崩壊しやすい場所では森林を育ててそれを防ぎ,風が強く,飛砂の災害の多い場所では森林によってそれを防ぐ(〈防風林〉の項目を参照)。このような目的で森林を取り扱う営為が(2)の内容である。保安林の適正配備,林地開発の規制,緑地の保存などがこのための森林保全の具体的行為となる。(3)の森林保全とは,森林がつくりだす緑や大気や良好な自然環境を,人間の心身の健全な発達に役だてることを目的として,森林を取り扱う営為が内容となる。産業活動の活発化や都市地域への人口集中により都市では過密現象が生まれ,人間の生活環境は著しく悪化した。さらに森林資源の開発により貴重な原生林が失われ,野生鳥獣や魚類にも種の絶滅という大きな影響が出はじめている。自然が失われることを防ぎ,人間の生存を維持するためには森林を保全しなければならない。(3)の森林保全は以上の内容をもつ。具体的には自然環境保全地域の指定,そこでの営林行為の禁止,制限,森林の整備などを内容とする。
森林が存在する地域に住む民族は,つねに森林と大きなかかわりの下で生活している。森林を構成する樹木のみならず,森林内で生活している動植物などあらゆるものを,食料,燃料,生活用品,住宅材料,化学製品原料などに利用することによって,森林から大きな恩恵をうけている。しかし,一方において,人々は定住して食糧を生産するようになると,その場所を確保するために森林を伐採したり焼き払っていく。人口が増加し生活が豊かになるにしたがって,人間はなんらかの形で森林に圧力を加えていくことになる。人口の過密な地域や森林の生育しにくい地域では,森林がこうむる人間の圧力は強い。人間が森林を存続させていこうという気持をもち,その努力をしなければ森林は荒廃し,その反作用がわれわれに及ぶことになる。平和な安定した社会では森林を存続させる政策も行われるが,乱世においては,森林への配慮の余裕はなく,むしろじゃま物であるとして焼き払われてしまう。
かつての文明の発祥地の一つといわれたメソポタミア地域も,森林を滅亡させてしまい,その文化も滅びた。レバノン地方も,紀元前にフェニキア人が地中海を支配した時代には,レバノンシーダーのりっぱな林があったという。中国の黄河流域の山野にもりっぱな森林があったが,万里の長城の構築のための燃料に森林を切り尽くしたといわれている。戦乱による森林の荒廃の最近の事例をみると,第2次大戦においては,東ドイツなどヨーロッパ東北部諸国の森林は戦争のために著しい荒廃をみている。また朝鮮戦争において朝鮮半島を戦線が往復したことにより,かつての治山事業によってようやく復旧した森林を再び荒廃に導いたし,ベトナム戦争においては薬剤散布によって森林が枯殺された。現在も地球上では,十分な配慮もなく,燃料のため,パルプ資材のため,さらには国の財政のための輸出用材として,あるいは内乱によって,森林を滅ぼしつつある国々が多い。
日本は山地が多く,湿潤な気候条件であるため,全土が豊かな森林でおおわれていたとみてよい。それだけに昔から森林とのかかわりは深い。弥生時代の登呂遺跡からは多くの木材利用のようすを知ることができる。住居はもとより,水田への導水溝には木の板を用いており,木ぐわ,田舟,田下駄なども発掘されている。飛鳥時代,奈良時代には次々と大陸文化が導入され,大量の木材を必要とする寺院などの建築,宮殿を中心とした都市建設が行われた。この木材は近江,伊賀,丹波の山中より切り出されており,すでに大木を利用する集・運材の技術をもっていた。しかも恒久的な建築にはヒノキ,日用の消耗的なものにはスギを用いるなどの使い分けをしている。木材を燃料として利用するようになったのはきわめて古いが,木炭を生産して家庭生活に用いるのも奈良時代に入ってからで,とくに大仏の鋳造のために多量の木炭が生産されている。
森林を存続させ,あるいは育てながら,これを利用する風潮は,社会が安定し,人口も増加した江戸時代に入ってからである。庶民の生活のための燃料や米などの生産のための肥料を確保するための入会山(いりあいやま)の制度が定着し,一方,徳川幕府直轄の山林や各藩が支配する御林の制度ができた。御林は幕府や藩の用材林であり,みずからの使用に供するほか,財源ともなり,特定の材は一般の伐採を厳禁し,薪炭材などの生活用材のみの伐採を許した。とくに,林内で伐採して渓流部に集材し,河川の水流を利用して運材し,さらに海岸を回送する一連の技術とその体系は日本独自のものである。各藩の適正な用材林経営は,今日,木曾のヒノキ林,秋田のスギ林,津軽・下北のヒバ林のほか,各地に針葉樹天然林を残している。また,日本の農業は水田稲作が中心であるため,各藩では禁伐とした水源涵養林を設けた記録が多い。さらに,積極的に森林を造成する技術が発達したのも江戸時代である。木材の商品としての価値が高まるにつれ,積極的に造林が行われ始めた。たとえば,吉野地方および尾鷲地方では元禄(1688-1704)のころから人工造林がすすめられ,ほぼそのころより,北山林業,飫肥(おび)林業,山武林業など各地の林業が起こり,それぞれ独特の林業技術が確立するに至った。とくにスギの挿木造林の進展は多くのスギの地方品種を生み出している。一方,農業用肥料源としての下草,落葉,落枝の採集は,ところによっては林地の荒廃をまねくこととなった。関西,山陽の低山地帯ではげ山が多くなった一因にあげられている。この地方では土砂流出による被害が続発し,荒廃山地の復旧のための治山工法が案出され,幕末には肥料木の植栽も実施されるようになった。また,海岸砂防造林あるいは防潮林造成を行って,後背の水田や住宅を保護することも各地でみられた。江戸時代約260年の間は各地で独自の林業技術が開発されている。
明治時代に入ってヨーロッパの学問,技術が導入される一方,国による林業行政も推進された。明治30年代に入って各地で民有林業が発達し,国有林経営も本格化した。第2次大戦後は戦災復旧に大量の木材を必要とし,もっぱら国産材に頼らざるをえなかったこともあり,過去に蓄積されたりっぱな森林は次々に伐採された。材価の高騰を抑えるために,外材輸入の促進をみたが,国内の林業政策としては生産量の低い天然林を伐り針葉樹人工林の造成を進め,人工林は1000万haを超すに至っている。面積は増えたが枝打ち,間伐などの手入れ,保育が遅れている森林も多く,質のよい森林をつくることが政策の目的としてとりあげられている。現今はラワン材を主とした多量の南洋材を輸入しているが,熱帯林資源の減少などから早晩国内広葉樹材を必要とする時代のくることも考えられる。風致保全,水土保全の機能をさらに増進するためには,森林の樹種を多様化することと,伐期を長くして豊かな活力のある森林を復活させる必要がある。近年の大きな特徴は,森林に対して資源あるいは公益機能として期待するのみならず,精神的,肉体的な保健を図る目的で森林を訪れる人も多くなっていることである。〈森林浴〉という言葉も広く用いられ始めた。樹木から大気中に発散する微量化学成分の効果であるとの説もある。
林業の先進国といわれるドイツは落葉広葉樹林帯に属するが,過去において,農地や牧場のために森林を開拓した結果,17世紀ころには森林が著しく減少した。木材供給が不足するに至り,森林の再生化に努力し,このため早くに林学の発達をみた。森林造成にはトウヒの一斉造林を行ったが,その結果,森林の土壌は酸性化し,湿地化した。この対策としてモミ,ブナ,マツなどの天然生の混入を図り,しかも120年の伐期として,森林の多様化を進めた。このためドイツの森林は人工と自然の複合した美しい森林が多い。ヒトラー時代には伐期を若くして増伐したが,現在は120年伐期に戻し,日本の40~50年伐期の林業とおおいに異なる。
アメリカは,未開発地にヨーロッパ人が移民してから,まだ200年くらいしか経ていない。西海岸の諸州ができたのが1850年であり,まだ原生林がいたるところにあり,開拓者は原生林を次々伐採していた。19世紀末から20世紀の初めにミュアーJohn Muirは天然林の貴重さを強調して,自然公園設立の推進役を果たし,T.ローズベルト大統領は20世紀の初めに,1億3200万エーカーの森林を国有林として,開拓の対象から守った。大量に存在した原生的状態を保護する思想は現在まで受けつがれ,1964年にL.B.ジョンソン大統領は法案を議会に上程し,この制度を確立した。これ以上に原生状態を開拓することを抑え,将来の子孫の人たちに自然財産を申し送ろうという考えである。近年アメリカでは大規模単一栽培による土地荒廃が問題になり,南部の綿作地域は土地が悪化し,ロブロリーマツの人工造林へと改変されている。
農地と林地のバランスの問題は生産物利用のバランスだけでなく,水保全,土地保全的にもきわめて重要である。失われた森林を復活する考えを推進し,森林保全に意欲的な国の一つにイギリスがあり,第2次大戦後アメリカトガサワラの造林を進めている。また,現在,森林造成の大躍進運動を進めているのは中国である。黄河中流域の砂漠化の防止と燃料など木材需要への対処が主たるねらいである。四旁(しぼう)造林(河川沿い,道路沿い,農地界,裏庭)の国民運動を全国的に展開している。
しかしながら,一方においては,今なお森林を荒廃に導いている国々が多い。熱帯の各地では,移動農作のための火入れによって森林を破壊し,あるいはヤギなどの放牧によって,森林を荒地に変えつつある。また,先進諸国への輸出などのため東南アジアのフィリピンやスマトラ,ニューギニア,あるいはアマゾン流域,アフリカの熱帯地域などに存在していた原生林が次々に伐採され,すでにほとんど切り尽くされた地域もある。本来,熱帯多雨林はその蓄積は大きいにもかかわらず,多種類が混交しており,利用価値があるとされる樹種はわずかであるので,これの皆伐はひじょうにむだが多い。熱帯林の今後の管理運用の方策は重要な問題である。
FAO(国連食糧農業機関)は,発展途上国の荒廃した国土を豊かにするため,住民の生活条件を良好にするため,またその燃料確保とパルプ原料などの輸出資源造成のため,再森林化の推進力となっている。このため,熱帯地方の草原化した地帯にマツ類,ユーカリ類,アカシア類など生長の早い樹種の造林を進めている。日本の政府やパルプ業界においても,これらの目的で東南アジア,中南米の熱帯各国で造林を実行し,あるいは援助を行っている。地球規模ではさらに砂漠地の農耕利用の一環としての森林造成の気運がある。近年は,人類による地下貯蔵燃料の大量消費により,大気中に炭酸ガスが増加しつつあり,これによって地球上の気候変動をきたし,ひいては地球水系に大きな影響を及ぼす結果となることが想定されている。その意味からも炭酸ガスの再固定のために,森林造成は必須の手段と考えられている。
→森 →林業
執筆者:堤 利夫+筒井 迪夫+橋本 与良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
林地と林木を総称して森林とよぶ。林木とは、ある広さをもって群生する樹木のことをいい、樹木は独立ではなく、互いに相接して、その樹冠(樹木の枝葉部)は連続している。森林の最上層には高木の樹冠層があって高木層とよばれ、その下は亜高木層、低木層、草本層、地表層に層化されるという多層構造をなしている。森林には植物以外に各種の動物・微生物も多数生息し、これらの生物は相互に関連するほか、土壌や大気などの環境とも密接に結び付き、有機的結合体を構成している。このため、森林は陸上におけるもっとも大規模、かつ典型的な生態系であるといえる。
森林はさまざまな基準によって、およそ次のように類別される。(1)成立起源や人手の加わり方による=天然林・人工林。(2)森林の外見による=高木林・低木林。(3)森林の取扱い方による=高林(高木が生育し、産業的には用材採取向きの森林)・低林(燃料などとして利用される萌芽(ほうが)によって更新した森林)・中林(高林と低林とが組み合わされた森林)。(4)林木の年齢構成による=同齢林・異齢林。(5)樹種構成による=常緑林・落葉林、針葉樹林・広葉樹林、単純林(8~9割以上が同一樹種)・混交林(2種以上が混じる)。(6)樹冠層の構成による=一段林または単層林(樹冠層が単一)・多段林または多層林(樹冠層が明らかに2層以上に区別できる)・連続層林(樹冠層組成が複雑で区別不能)。(7)人間の利用の有無による=未利用林(原生林を含む天然林)・既利用林(天然生林や人工植栽林)。
[只木良也]
森林は、降水量と気温との関連からみると、地球陸上のもっとも湿潤な地域にその成立を許されている植物群落といえる。森林生育可能な地域で、森林を目印として分類される植物帯のことを森林帯というが、今西錦司(きんじ)・吉良竜夫(きらたつお)(1919―2011)の区分(1953)に準じて世界の森林タイプを分けると次のようになる。
(1)熱帯多雨林 熱帯で気温・降水量とも十分な所に生育する常緑広葉樹林。複雑な構造と多様な樹種、巨大な現存量と生産力をもつ。また、板根・支持根・幹生花といった特異な形態の樹木、豊富な着生・寄生植物、つる植物などが生育するのが特徴である。西アフリカのコンゴ川流域、南アメリカのアマゾン川流域のほか、スマトラ島、マレー半島、ボルネオ島、ニューギニア低地などの東南アジアからオセアニアにかけてが主要分布域である。
(2)亜熱帯多雨林 亜熱帯で年中降水のある地域の常緑広葉樹林。構造は熱帯多雨林よりもやや単純となり、巨大な高木も少なくなる。ブラジル南部、アルゼンチン北部、オーストラリア東部、中国南東部がおもな分布域であるが、面積的にはさほど広くない。
(3)雨緑林 熱帯・亜熱帯の雨期と乾期のある地域で、乾期に落葉し、雨期にだけ葉をつけて生育する広葉樹林。東南アジアではモンスーン林ともいう。チークなどの樹種が有名で、森林の構造は多雨林に比べて単純となる。インド東部からインドシナ半島にかけてと、フィリピン西部、小スンダ列島などに分布がみられる。
(4)照葉樹林 東アジアの暖温帯に特有の常緑広葉樹林。葉は、冬に対応するため、小形で厚く、表面にクチクラ質の膜をもつ。したがって日光に当たると輝いてみえ、照葉樹の名があてられている。シイ類、カシ類、タブノキ、クスノキなどの林であり、その林の中は1年を通じて地表まで緑色で、湿度は高い。ヒマラヤ山地帯から中国南部を経て、台湾、南西日本に主として分布する。
(5)硬葉樹林 冬の寒さよりも夏の乾燥に対応した暖温帯の常緑広葉樹林。冬雨夏乾の地中海沿岸、南アフリカのケープ地方、オーストラリア南西部、カリフォルニア中南部、チリ中部などがおもな分布域で、耐乾性を強めるために葉は小形革質で、樹皮は厚い。オリーブやコルクガシなどは地中海地方、ユーカリはオーストラリアの代表種である。
(6)暖温帯落葉樹林 気候帯では暖温帯であるが、寒さや乾燥のために冬季落葉する広葉樹を主とする森林。ナラ類、クリ類、シデ類の広葉樹のほかに、モミ、ツガ、マツ類などの針葉樹もこの森林帯の代表種である。東アジア、アメリカ大陸など準湿潤の暖温帯に広く分布する。
(7)落葉広葉樹林 冷温帯にあって、冬季落葉するブナやナラ類などの落葉広葉樹林で、夏緑林ともよぶ。アジア、ヨーロッパ、北アメリカなどに広く分布する。
(8)常緑針葉樹林 亜寒帯を覆うモミ属、トウヒ属などの森林。北方針葉樹林、タイガなどともよばれる。北アメリカ大陸、ユーラシア大陸の北部にあって、北極を取り巻く形で分布する。なお、南半球ではこの種の森林はない。森林の構造は単純で、高木層とコケ層の2層からなることも珍しくない。
(9)落葉針葉樹林 亜寒帯の一部に現れるカラマツ類の森林。とくに、東部シベリアの極寒の地のカラマツ林は著名で、降水量は少ないが、永久凍土の表面が溶ける短い夏季に、その水を使って生育することが知られている。
[只木良也]
十分に降水量があり、南北に長く、地形的に複雑な日本には多様な森林がみられる。琉球(りゅうきゅう)・奄美(あまみ)・小笠原(おがさわら)諸島は亜熱帯に位置し、アコウ、ガジュマルなどにシイ・カシ類が混じる亜熱帯多雨林が成立するが、第二次世界大戦、および戦後の開発によって、典型的なこの種の森林はほとんどなくなった。九州以北、関東地方あたりまでの暖温帯では、シイ・カシ類、タブノキ、クスノキ、イスノキなどの照葉樹林が代表的であるが、日本文化が早くから開けた地域であったため、人間の影響が著しく、各種各様の開発を受けており、残された森林もアカマツやコナラなどの二次林に転じている。本州中部から東北地方、北海道西部にかけての冷温帯は夏緑林が占め、ブナ林によって代表される。ブナ林は日本海側で優勢で、太平洋側ではやや発達が悪く、ウラジロモミやツガなどの針葉樹も出現する。ブナ林帯に出現する樹種にはミズナラ、ニレ類、シナノキ、カエデ類などがあり、湿潤度の低い所ではミズナラが優勢であることも多い。照葉樹林は寒さに弱く、冷温帯夏緑林は暑さに弱いため、その中間帯を埋めるものとして、近畿から東北地方南部にかけての内陸部には、コナラ、シデ類、クリ、イヌブナ、モミなどの暖温帯落葉樹林が生育している。亜寒帯・亜高山帯を代表するのは常緑針葉樹林で、北海道ではトドマツ、エゾマツ、本州ではシラビソ、オオシラビソ、トウヒ、コメツガなどが優占する。なお、北海道には針葉樹と広葉樹の混交する林が、冷温帯と亜寒帯の推移帯として広く分布する。寒帯は、日本では垂直的にのみ存在し、高山帯とよばれ、ハイマツの低木林がみられる。
[只木良也]
世界の森林は、歴史的にも、また現状においても燃料、住居、家具、紙などの主要資源となっている。国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)の『世界森林資源評価』(2010)によると、2010年時点の世界の森林面積は40億3300万ヘクタール、全陸地面積の31%を占めている。森林の大陸別分布形態は、ヨーロッパが世界の森林面積の25%を占め、南米21%、北中米18%、アフリカ17%、アジア15%、オセアニア5%となっている。気候帯の樹種分布では、針葉樹林はおもに亜寒帯と温帯に分布する。ロシア・シベリアのカラマツ、エゾマツ、トドマツ、北米の米(べい)ツガ、米マツ、北欧のマツ、モミ、トウヒ、日本のスギ、ヒノキ、アカマツなどが代表的な樹種である。広葉樹林は、温帯、熱帯に広く分布し、全世界の森林群落の7割近くを占めている。広葉樹は、樹種数が数千種にも及ぶとされ、樹林構成も高木、中木、低木などの重層構造をとる。このうち産業用の資源として活用される樹木は、おもに高層の大径木である。日本が合板用として東南アジアから輸入するラワン(通称名)は、熱帯雨林を代表するフタバキ科の樹種であり、1ヘクタールに数本しか存在しない高木の大径木である。森林減少が国際的に問題となっているアフリカのガボン、赤道ギニア、カメルーンなどには、高級仏具や家具などに使われるシタン、コクタンなどの樹木が存在するが、これら樹木も熱帯林を構成する高木樹種である。針葉樹林と広葉樹林との分布的な差異は、両樹木の発生史に深くかかわっている。針葉樹は、恐竜時代の白亜紀に広葉樹に先行して繁茂し、広葉樹の拡散とともに後退し、高緯度の亜寒帯や温帯の高山地帯などを分布域としたものである。これに対し、広葉樹林は、温帯から熱帯にかけて広く分布し、東南アジアやブラジル・アマゾンの熱帯雨林などは大陸スケールの群落を形成している。これら熱帯雨林は、地球温暖化物質の二酸化炭素の吸収機能をもち、また地球の「肺」といわれるまでの酸素供給機能を有している。熱帯雨林の喪失は、人類の生命維持装置を劣化させるものである。
[山岸清隆]
世界の森林利用は、木材利用の面では、燃料用の薪炭利用と製材、合板、パルプなどの産業用利用とに区分される。FAOの2012年版の統計データベース(FAOSTAT)によると、2010年時点の世界の木材生産量は34億1000万立方メートル、内訳は薪炭用材の生産が18億7000万立方メートル、55%、産業用材の生産が15億4000万立方メートル、45%となっている。薪炭利用が産業用利用を上回る利用形態は1970年代のオイルショック(石油価格高騰)からであり、石油価格の高騰に直面した開発途上諸国が木材エネルギーへの依存を強めたためである。薪炭用の木材利用率が5割を超える地域は、アフリカ(89%)、アジア(74%)、中南米(58%)などである。他方、産業用の木材利用率の高い地域は、ヨーロッパと北米の2地域であり、ヨーロッパの利用率は77%、北米の利用率は91%にも及んでいる。なお、日本の木材の利用形態は、2010年(平成22)時点では産業用としての木材利用が94%、薪炭用としての木材利用が6%となっており、北米の利用状況に近似している。
[山岸清隆]
日本の森林率は、世界のトップレベルに位置する。国連食糧農業機関(FAO)の「The Globl Forest Resources Assesment」(2012)によると、日本の国土面積は3645万ヘクタール(2005)、そのうち森林面積が2498万ヘクタール(2010)、69%を占めている。この日本の森林率は、北欧のフィンランド(73%)とともに抜きんでて高く、先進諸国のなかでは最上位にランクされる。日本への木材輸出トップのアメリカの森林率は33%、シベリアに広大な森林を擁するロシアでも49%にしかすぎない。とくに、疎林(樹冠被覆面積/林地面積=10%以上)を除く閉鎖林で比較すると、日本の森林率はフィンランドを抜いて世界のトップにランクされる。また、日本は、人工林の造成においても世界に冠たる位置を占めている。世界各国は森林の造成を自然の更新にまかせ天然林施業の段階にあるが、日本は樹木植栽による人工林施業の段階になっている。2010年(平成22)時点の人工林率(人工林面積/森林面積)は、日本が41%と群を抜いて高く、アメリカ8%、ロシア2%となっている。世界に抜きんでた日本の人工林率は、1950年代から全国各地で展開された拡大造林(薪炭林等のスギ、ヒノキ林への転換)によって築かれたものである。
[山岸清隆]
日本の森林利用は、燃料用の薪炭利用が2%ときわめて少なく、産業用の利用が98%を占めている。『森林・林業白書』(2012年版)の資料によると、2010年(平成22)時点におけるこの産業用材の用途は、製材用が58%、パルプ用が26%、合板用等が16%となっている。森林の利用において産業用の利用比率が日本に似通っている北米、ヨーロッパなどは、製材用に比してパルプ用の比率が相対的に高く、日本との差異がみられる。この差異は、建築様式(非木質系、木質系)の差異だけでなく、2000年にも及ぶ日本の「木の文化」と深くかかわっている。青森県で発掘された縄文遺跡の三内丸山(さんないまるやま)遺跡からは、巨大な木造構造物や木造建造物群が発掘されている。また、奈良時代には、東大寺にみられるように世界最大の木造建築物が構築されている。さらに、室町時代からは、木造建築物による城下町の開設が各地で行われ、日本の特有の「木の文化」が形成され発展されてきた。この木造建築の伝統・文化が21世紀の今日においても継承され、製材用の木材用途を高めているのである。また、樹木の面においても、日本にはスギ、ヒノキなどの製材用の有用樹種が存在している。これらの材種は、モンスーン地帯特有の高温多質の気候・風土に適合した住宅用材であり、防腐・防蟻(ぼうぎ)(シロアリ等)などにも耐性のある材種である。なお、森林利用には、上記のような林業的利用以外に、県民の森・市町村の森などのレクリエーション利用、自然観察・森林生態系学習などの教育的利用、高齢者や認知症患者などの機能回復を図る理学療法的利用などがある。とくに、森林の理学療法的利用は、高齢化社会に即応した森林の利用方式として注視されるものである。
[山岸清隆]
日本の森林計画は、私有林も含めて国土全体の森林の資源管理を行う制度であり、国際的には日本をおいて他にみることのできない制度である。この森林計画が制度として法制化されるのは、1951年(昭和26)の森林法の改正によってである。発足の経緯は、農地改革と深くかかわっている。1940年代後半に行われた農地改革は、土地改革の性格をもっていたものの、土地の解放が耕地に限定され、山林などは改革の対象外とされた。この代償措置として、政府は国有林などを対象とした未墾地買収や牧野解放などを認めてきた。農地改革の最終年の1951年に、政府は森林法の改正を行うが、そこではこれらの事業の終了を法的に明示する一方、当時の緊急問題であった150万ヘクタールにも及ぶ戦時荒廃林地の復旧ならびに復興用木材の確保を図ることを目的に、森林計画制度を創設した。したがって、森林計画制度は、国土の全森林を対象とする計画制度とされ、国の計画が地方計画に優先する仕組みとなっている。まず、農林水産大臣は、「森林資源に関する基本計画」「林産物需給の長期見通し」「保安林の整備状況」を踏まえ、15年を1期に5年を単位とした実施計画を盛り込んだ全国森林計画(伐採計画、造林計画、林道開設計画、保安施設整備事業計画)を策定する。この全国森林計画に基づいて、都道府県知事は域内の民有林を対象に、森林管理局長は管内の国有林を対象に10年を1期に5年を単位とした実施計画を盛り込んだ地域森林計画を策定する。こうした森林計画制度は、樹木の育成・管理に半世紀以上もの年月を要する林業においては必要な制度である。しかし、計画の立案が地域の林業動向をベースに積み上げて策定される方式でないため、計画と実行とに乖離(かいり)が生じやすいという問題を抱えている。なお、森林の資源管理という点で類似したものに、保安林制度がある。水源涵養(かんよう)保安林、土砂流出防備保安林、保健保安林などは、保安林制度の主要な保安林である。制度内容は、国が山林所有者の「同意」を得て対象森林を保安林に指定し、山林の転用や伐採などを制限するものである。保安林指定に伴う私権制限に対しては、税制面での優遇措置などが設けられている。2010年(平成22)時点の保安林指定(17種類)面積は1202万ヘクタール、全森林面積の48%となっている。内訳は、国有林は保安林指定面積が690万ヘクタール、国有林全体の90%にも及んでいるのに対して、民有林は保安林指定面積が513万ヘクタール、民有林全体の29%にとどまっている。
[山岸清隆]
『石塚和雄編『群落の分布と環境』(1977・朝倉書店)』▽『大政正隆監修、帝国森林会編『森林学』(1978・共立出版)』▽『石弘之著『蝕まれる森林』(1985・朝日新聞社)』▽『山岸清隆著『森林環境の経済学』(2001・新日本出版社)』▽『只木良也著『新版 森と人間の文化史』(2010・NHKブックス)』▽『M・ドヴェーズ著、猪俣礼二訳『森林の歴史』(白水社・文庫クセジュ)』
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…樹木の生い茂った所。生態学的には高木が主相となった植物の群落のうち,森と比べてより小規模のもの,樹間が疎なもの,主相となる木が低いものなどを指すことが多いが,その差が厳密に定義されているようなものではない。高木を主相とした植物群落を森林と総称することの方がより一般的である。ただし,森林を表現する用語としては,植物学的にも“林”の字が用いられるのがふつうで,熱帯降雨林,落葉広葉樹林,常緑林のような呼び名から,雑木林,シラカバ林などの普通名詞まで,森という字を使わないで表現している。…
…樹木の生い茂った所。杜とも書かれる。一般に林より規模が大きく,より高い木が多いものをいう。日本人が森という場合は,例えば〈鎮守の森〉のように,木が高く内部がうっそうと茂っていて,一種の神秘性を感じさせるようなものを中心に表現している。かつては〈森〉よりも〈山〉〈林〉の用語が多用され,近世各藩の管理する森林は〈御林(おはやし)〉〈御山(おやま)〉であり,村民が利用する森林は〈村持山(むらもちやま)〉〈郷林(ごうばやし)〉であった。…
…日本人が森という場合は,例えば〈鎮守の森〉のように,木が高く内部がうっそうと茂っていて,一種の神秘性を感じさせるようなものを中心に表現している。かつては〈森〉よりも〈山〉〈林〉の用語が多用され,近世各藩の管理する森林は〈御林(おはやし)〉〈御山(おやま)〉であり,村民が利用する森林は〈村持山(むらもちやま)〉〈郷林(ごうばやし)〉であった。また水源涵養(かんよう)林は〈水林(みずばやし)〉とか〈田山(たやま)〉と呼ばれ,海岸の防風・防砂林は〈風除林(かぜよけばやし)〉とか〈砂留山(すなどめやま)〉と呼ばれていた。…
※「森林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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