模写(読み)モシャ

デジタル大辞泉 「模写」の意味・読み・例文・類語

も‐しゃ【模写/×摸写】

[名](スル)似せて写すこと。実物どおりに写しとること。また、そのもの。「壁画を―する」「声帯―」
[類語]複写コピー複製写しリプリントえが彩る象る染まる染める描写写生素描点描線描寸描スケッチまね模倣模擬人まね猿まね右へ倣え模造紛い物偽物真似事模する倣う見倣うなぞらえる擬するイミテーションカーボンコピー

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改訂新版 世界大百科事典 「模写」の意味・わかりやすい解説

模写 (もしゃ)

まねて写すこと,また写したものをいうが,ことに造形芸術において重要な概念である。彫刻の場合,模刻とも呼ぶ。芸術作品の創作には模倣,理想化,表出,象徴といった契機が考えられるが,それらは対象への対応の仕方によって異なっている。そのなかでも対象の姿かたちを忠実に模倣,再現しようとする試みは,古今東西の創作活動,とくに造形芸術において重要な課題として行われている。一方,完成された作品に対しても,模写・模造といった行為が,あらたな創作のための模範・手本・指標あるいは技法習得のためになされる。

東洋とくに中国で模写・模本といえば,書画のそれを意味している。書の場合は〈双鉤塡墨(そうこうてんぼく)〉といって写そうとする文字の上に,それを透視しうる紙をのせ,文字の輪郭を正確に写したのち,その輪郭の中に墨をうめてゆく方法があり,これにより書体はもとより筆勢をも写しとるのである。結果,古今の名筆は忠実に模写され,原本にまさるとも劣らぬ価値を与えられ,後世に伝えられたのである。一方,平板な金属もしくは石面に転写されて刻まれた筆跡それ自身と,それから採られた拓本も同様である。日本では奈良朝以来の写経から和歌,消息におよぶ著名な筆跡が評価され,書の手本〈手鑑(てかがみ)〉として尊重されている。このような規範としての模写・模造は,陶磁器,漆工品,金工品,染織品などにもおよび,模造品の製作はときに〈写し〉と呼ばれ,原品に準じた価値を与えられている。

 絵画にあっては中国六朝時代の謝赫(しやかく)が《古画品録》のなかで〈六法〉すなわち絵画制作における六つの要諦を説きその6番目に〈伝移模写〉という概念をあげている。唐代の張彦遠も《歴代名画記》に〈伝模移写〉として踏襲しているが,ここでは模写・模本の意義を画技習得はもとより,模本そのものの価値を説いている。またそこでは模本の条件として〈筆蹤(ひつじゆう)〉が重視されている。この場合の絵画の模写は著色による写実的描写の作品についてであり,偶然的な形象性をもつ水墨による逸格画(いつかくが)は,模写不可能として評価していないが,後世における〈表意模写〉の可能性をのこしている。中国画の伝統様式を受容して主流となった日本の狩野派にあっては,家芸としての伝統的主題や形式を踏襲するために用いた原本を〈絵手本(えでほん)〉もしくは〈粉本(ふんぽん)〉と呼んでいる。それらは注文に応じて組み合わされ,本画制作の基礎として用いられている。したがって模本には,〈倣玉〉のように倣(ほう),模(も),臨(りん)の文字が原作者,作品について冠されることになる。

 彫刻は,もともと〈削る〉という文字が〈似すがた〉を写す意味をもつように,対象の形姿を忠実に再現することを第一義としたが,このことは肖像彫刻においてもっとも顕著に示されている。したがって彫造の模刻・模造は,絵画以上に原本に忠実で,工芸品の複製に近い。
執筆者:

西洋においても模写の目的は種々あり,その目的に応じて意味も異なる。過去のすぐれた作品の技法やその精神の習得のために行われる模写が一般的で,多くの近代画家が修業時代にこれを試み,またかつてイタリアに留学したフランスのアカデミーの奨学生は巨匠の作品の模写を義務づけられていた。19世紀以降,過去の文化財の保存の目的のために模写・模刻がなされ,たとえばパリの国立フランス・モニュメント美術館(1880創設)には,中世壁画の模写2000点が保存されている。

 一方,優れた先行作品がひとつの基準作品として模写され継承される例は,中世の写本芸術においてはごく一般的に認められる。ルネサンス期以降でも,評判の高い優れた作品が原作者自身によって同寸法,同構図で模写され署名が入れられる場合が多い。この模写が若干以上の変奏を伴い,新しい着想などを示す場合もあり,この場合には,むしろバリアントvarianteと呼ぶ。また,異なった寸法,とくに縮小模写が,作家自身あるいはその指導下に工房で行われる場合もある。この種の模写は,その時代の需要に対応して流布するものであって,どれほど忠実な模写であっても原作の力に及ばないといえる。しかしたとえば,オッタビオ・デ・メディチがアンドレア・デル・サルトに命じてラファエロの《レオ10世の肖像》を描かせ,この模写をマントバ公に贈ったという逸話が示すように,名品の優れた模写は,画家の独創性という観念とは別個に,尊重されていた。また,18世紀,修業時代のワトーが,生計のためにコピースト(模写画家)として,オランダの画家G.ダウなどの作品の模写に励んでいたという挿話は,複製技術の乏しい時代においてコピーストが重用されていたことを示している。

 19世紀以降しばしば認められるのは,過去の作品の主題や構図を自然のモティーフと同様に考え,それらを自由に模写し個性的に変奏した作品である。このような,巨匠の作品を現実のモティーフと同じように写すべき対象とする考え方は,すでに16~17世紀よりあるが,とくに19世紀後半には,より大胆な作例が見いだされる。ドラクロアやミレー,ドレ,浮世絵などを模写したゴッホなどがそれである。これは模写というより〈解釈interpretation〉というべきだろう。さらにピカソが,ベラスケスやクールベなどの作品を基に試みたさまざまな変奏や展開は,ゴッホの場合以上に大幅な個性的解釈を示している。しかし,これらはパロディないしは〈モティーフの盗用〉と呼ぶべきでなく,やはり,過去の作品そのものに主題とモティーフを見いだして自己の世界を創造した模写の典型例といえよう。
工房 →レプリカ
執筆者:

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普及版 字通 「模写」の読み・字形・画数・意味

【模写】もしや

写す。唐・元〔唐故工部員外郎杜君(甫)墓係銘並びに序〕時に山東の李白、亦た奇を以てを取る、時人之れを李・杜と謂ふ。予(われ)其の壯浪(さうらう)縱恣(しようし)、拘束を擺去(はいきよ)し、物象を寫する~をるに、に亦た子美に差す。

字通「模」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「模写」の意味・わかりやすい解説

模写
もしゃ
copy

ある美術作品を忠実に再現すること,またはされたもの。模作ともいう。彫刻の場合は普通模刻という。ただし,芸術家自身が自分の作品を写し取った場合は異作あるいはレプリカという言葉を用いる。模写ないし模刻の歴史は古く,ギリシア時代の多くの彫刻が,そのオリジナルは失われたにもかかわらず,われわれに伝えられているのは,ローマ時代の模刻のおかげである。中世の美術は自由な個性の発露よりも定式化された図像表現の伝統を守り,これを継承することに重点をおいたため,芸術家の仕事には模写的な要素が常にあった。ルネサンス時代に入ると,マサッチオを模写した若きミケランジェロのように芸術的な修業のため模写することが多くなる。また原作か模作かといった鑑定上の問題が出てくるのもルネサンスからで,ルーブル美術館とロンドンのナショナル・ギャラリーにあるレオナルド・ダ・ビンチの『岩窟の聖母』はその顕著な例。近代ではドラクロアやセザンヌが油彩ないしデッサンで自分の勉強をしているが,特にレンブラント,ドラクロア,ミレーなどを再三模写したゴッホの作品は独自の芸術的価値をもっている。精巧な複製や写真技術の発達した現代では,教育的な目的以外ではかつてのようには模写は行われないが,ベラスケスやクラナハらの作品をしばしば模写したピカソのような例もある。ただしこれは厳密な意味での模写ではなく,ピカソ自身による自由な創作といった性格が強い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「模写」の意味・わかりやすい解説

模写
もしゃ

複製法の一種で、絵画や書などをオリジナル(原作、原本)に倣って写すこと。西欧語のコピーにあたる。

 模写の目的には、原本保存のための模品の作成、原作の技法や手法の研究などがあり、今日では古文化財保護にとって不可欠なものとなっている。文化財の模写には、原本を汚損・変色などのままに写す「現状模写」と、制作時の形状・色彩などを研究して再現する「復原模写」とがある。模写は、中国において古くから六法の一つ「伝模移写」として尊重されてきた。その方法として、原本を傍らに置いて見ながら写す「臨模(りんも)」と、原本上に薄い紙を置いて写す「搨模(とうも)(透(すき)写し)」があり、書では双鉤填墨(そうこうてんぼく)(籠字(かごじ))を用いた搨本が原本の厳密な模写として盛んに行われた。日本画の模写では、透写しのほか、目の残像を利用して写し取る「あげ写し」の方法も行われている。

[永井信一]

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世界大百科事典(旧版)内の模写の言及

【偽作】より

…この時代にはみごとなコピーはそれ自体価値あるものと考えられていたようで,バザーリ自身もその技量を誇っている。17世紀以降もコピー,パスティーシュは模写,模作として,勉学のため,あるいは技量の誇りと楽しみのために多く作られている。中国でも模写,模作が盛んに行われた(これが室町時代の日本に輸入されるとしばしば真作として通用することになる)。…

※「模写」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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