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女優。本名松野八重子。明治38年8月1日東京生まれ。義兄の水谷竹紫(ちくし)に養育され、1913年(大正2)8歳のとき、竹紫が経営していた芸術座の『内部』で初舞台を踏む。1916年芸名を水谷八重子とし、20年の民衆座『青い鳥』のチルチル役で注目され、共演した友田恭助と「わかもの座」を結成する。この間雙葉(ふたば)高等女学校に学んだが、校則に触れるため、1921年の国活映画『寒椿(かんつばき)』には覆面令嬢の匿名で出演した。同年研究座に参加、23年には『寒椿』で共演した井上正夫に招かれ、『大尉の娘』の露子を演じ、このコンビの当り役となった。1924年第二次芸術座を結成して『人形の家』のノラなどを演じたが、まもなく経営困難となり、八重子は単独で新派劇に参加、28年(昭和3)松竹に入り、以後新派との合同や芸術座単独公演を続ける。1937年歌舞伎(かぶき)俳優の14世守田勘弥(かんや)と結婚し、一女をもうける。1945年(昭和20)芸術座解散。51年離婚。52年に劇団新派に加入。新派における花柳(はなやぎ)章太郎との美男美女コンビは観客を魅了したが、八重子は歌舞伎や新劇の俳優とも共演し、映画やミュージカルにも出演した。1965年に花柳が没したのちは、文字どおり新派の大黒柱となり、74年当り役のなかから「八重子十種」を選んだ。新派女方芸を吸収消化して継承する一方、創作劇にも的確な解釈を施して堅実な演技を示したが、なんといっても観客にとって最大の魅力は、年齢をすこしも感じさせない清純な美しさであった。1966年芸術院会員、71年文化功労者、昭和54年10月1日死去。ひとり娘の水谷良重(よしえ)(1939― )も新派の女優として活躍、95年(平成7)には2代目水谷八重子を襲名した。
[水落 潔]
『野口達二編『水谷八重子』(1979・立風書房)』
新派女優。本名松野八重子。東京に生まれた。10代の初めから島村抱月・松井須磨子の芸術座に子役で出演,また民衆座の《青い鳥》のチルチルを演じたあと,友田恭助とわかもの座の試演などを行い,映画にも〈覆面令嬢〉なる匿名で出演した。1924年義兄の水谷竹紫(ちくし)が作った第2次芸術座の女優として正式に劇界に入ったが,迎えられて新派に参加,可憐な娘役の演技で,先輩の女形たちと共演した。第2次大戦後に名女形が没していったのちは,創作劇のほかに女形ののこした明治以来の新派演目の女主人公の芸をも継承して,74年には《大尉の娘》の露子,《皇女和の宮》その他の〈八重子十種〉を自選している。大戦後の一時期には,新劇の演出家菅原卓(たかし)の指導で意欲的な企画をえらび,新派と新劇の中間を考えた近代劇の演目によっても注目された。戦後の新派をともに支えた花柳章太郎没後は,舞台の上の相手役に若い俳優を起用,死ぬまで若さと美しさを失わなかった。66年日本芸術院会員,71年文化功労者に推されている。
執筆者:戸板 康二
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…この劇団から新国劇の沢田正二郎が出ている。(2)第2次は,1924年(大正13),第1次の芸術座の舞台に子役で出ていた水谷八重子の義兄水谷竹紫(ちくし)が,妹の劇団名として継承,八重子が新派に加入する以前に,おもに東宝系の劇場に,この名称で出演していた。【戸板 康二】。…
…16年に高田と秋月,17年に藤沢が没し,〈新派〉は伊井,河合,喜多村のいわゆる〈三頭目時代〉となったが,21年に若い花柳(はなやぎ)章太郎が藤村秀夫,小堀誠,武田正憲,柳永二郎,松本要次郎,大矢市次郎,伊志井寛らと研究劇団として〈新劇座〉を結成,有島武郎《ドモ又の死》や秋田雨雀《国境の夜》の上演をしたり,また井上が《酒中日記》《平将門》を上演するなど一部で意欲的な活動はあったものの,全般には映画や新国劇の人気に押されがちで低調だった。なお,24年にもともと新劇から出発した水谷八重子を中心にした第2次芸術座ができて,27年に本郷座で藤森成吉《何が彼女をさうさせたか》を上演,以降松竹と提携して,いわゆる〈新派〉の一角に加わってきた。 低調だった〈新派〉が活気を得たのは,31年11月明治座上演の瀬戸英一《二筋道》であった。…
※「水谷八重子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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