永山基準(読み)ナガヤマキジュン

デジタル大辞泉 「永山基準」の意味・読み・例文・類語

ながやま‐きじゅん【永山基準】

刑罰として死刑を適用する際の判断基準拳銃で4人を連続して殺害した永山則夫元死刑囚に対する判決で、最高裁が昭和58年(1983)に示したもので、(1)犯行の罪質、(2)動機、(3)態様(特に殺害方法の執拗さや残虐さ)、(4)結果の重大性(特に殺害された被害者の数)、(5)遺族の被害感情、(6)社会的影響、(7)犯人年齢、(8)前科、(9)犯行後の情状等を総合的に考察し、やむを得ないと認められる場合には死刑の選択も許される、としている。

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共同通信ニュース用語解説 「永山基準」の解説

永山基準

連続4人射殺事件で犯行時19歳だった故永山則夫元死刑囚の最初の上告審判決(1983年)で、最高裁が示した死刑適用基準。/(1)/犯罪の性質/(2)/動機/(3)/殺害方法の残虐性/(4)/結果の重大性、特に殺害された被害者の数/(5)/遺族の被害感情/(6)/社会的影響/(7)/被告の年齢/(8)/前科/(9)/犯行後の情状―を総合的に考慮し、責任が極めて重大でやむを得ない場合は死刑選択が許されるとした。死刑の適否が争われる裁判の多くで、この枠組みに沿った判断が示されている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「永山基準」の意味・わかりやすい解説

永山基準
ながやまきじゅん

刑罰として死刑を適用する際の判断基準。いわゆる「永山事件」上告審判決において示された死刑選択の基準である。「永山事件」とは、1968年(昭和43)の犯行時19歳の少年であった被告人の永山則夫(のりお)が、米軍基地内で拳銃を窃取し、この拳銃を使用して、東京・京都・函館・名古屋で殺人強盗殺人および同未遂を犯したという事案であった。第1審判決(東京地方裁判所判決、昭和54年7月10日)では死刑が、控訴審判決(東京高等裁判所判決、昭和56年8月21日)では無期懲役が言い渡された。そこで、この上告審判決(最高裁判所第二小法廷判決、昭和58年7月8日)において、最高裁判所が「永山基準」とよばれることになる死刑選択の基準を示すことになった。

 本判決では、「その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければならない」としており、(1)犯行の罪質、(2)動機、(3)態様、とくに殺害の手段方法の執拗(しつよう)性・残虐性、(4)結果の重大性、とくに殺害された被害者の数、(5)遺族の被害感情、(6)社会的影響、(7)犯人の年齢、(8)前科、(9)犯行後の情状等を総合的に考慮して判断すべきだとした。本判決において、最高裁判所は、こうした基準を適用したうえで、控訴審判決を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻した(差戻控訴審判決(東京高等裁判所判決、昭和62年3月18日)では第1審判決が維持されることになり、差戻上告審判決(最高裁判所第三小法廷判決、平成2年4月17日)で死刑が確定した)。その後の死刑判決では、本判決が死刑選択の基準を示したものとしてたびたび引用されることになる。

 なお、本判決では、上記9項目の判断要素を基本にして、被告人に不利な事情と有利な事情とを書き分け、両者について等価的に列挙して検討を加えている。そして、総合的に評価した結果として、被告人を死刑に処するのは重きに失するとした控訴審の判断に十分な理由があるとは認められないものと結論づけている。こうした判断枠組みでは、被告人に有利な事情にも十分重きが置かれており、死刑という科刑は限定的に許容されることにもなるとされる。

 ただし、永山基準の問題点として、裁判員制度の下で裁判員が合理的に判断できる明確な基準として機能し得ているのか、単に考慮すべき量刑事情の例示列挙にすぎないのではないのか、といった点があげられている。

[小西暁和 2015年9月15日]

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知恵蔵 「永山基準」の解説

永山基準

日本の刑事裁判において刑罰として死刑を適用する際の判断基準。1983年、連続4人射殺事件の被告だった永山則夫の第1次上告審判決で、最高裁が2審の無期懲役判決を棄却した際に示されたため、永山基準と呼ばれる。殺害された被害者の数が複数であることなどをその内容とし、この基準が以降の死刑判決の適用に広く影響を与えている。
基準の内容として、(1)犯罪の性質、(2)動機、計画性など、(3)犯行態様、執拗(しつよう)さ・残虐性など、(4)結果の重大さ、特に殺害被害者数、(5)遺族の被害感情、(6)社会的影響、(7)犯人の年齢、犯行時に未成年など、(8)前科、(9)犯行後の情状の9項目を挙げ、これらを考慮し、刑事責任が極めて重大で、犯罪予防などの観点からやむを得ない場合には、死刑の選択も許されるとした。具体的な数値が示されているわけではなく、必ずしも他の判決に波及し制限する判例ということではないが、極刑以外に選択の余地がないときにだけ「やむを得ず」死刑が適用されるという姿勢であり、以降ほとんどの死刑判決はこれに照らして判断がなされてきた。光市母子殺害事件の最高裁による差し戻し判決では、「特に酌量すべき事情がない限り死刑の選択をするほかない」とされ、犯行時の年齢を重視しないなど、基準の解釈に新たな変化がもたらされたとする識者の見解もある。
2010年11月東京地裁で無期懲役の判決が下された耳かき店員ら殺害事件では、殺人罪などに問われた被告に、検察側から永山基準を論拠にした死刑求刑が行われた。裁判員裁判では初の死刑求刑となり、検察側、弁護側ともに永山基準をもとにした刑の重さを争点として公判が進み、裁判員らの判断に注目が集まった。

(金谷俊秀  ライター / 2010年)

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