… ところで,過失については,まず,過失があるかないかは,だれを基準として判断するのかという問題がある。損害をひきおこした当該加害者の個人的能力を基準とする過失を具体的過失というが,不法行為で要求されるのは,その加害者が属する職業,地位,立場など考慮すれば一般標準人ないし合理人であれば,どのように行為したであろうかということを問うこと,つまり合理人としての注意義務を怠るという問題であり(〈善良ナル管理者ノ注意〉(民法400条)ともいう),抽象的過失と呼ばれるものである。他人が標準的な注意を払っているものと信頼することができてはじめて,人は安心して日常生活を営むことができる。…
…その後,ビザンティン期に入るに及んで,ようやく,不法行為者の意思を責任成立の要素として考える法理が台頭し,それに伴って過失culpaの概念が形成されるようになった。しかし,その当時の過失は,今日の過失のように注意義務違反としてではなく,因果関係または帰責可能性を意味するものであった。したがって,注意義務違反としての過失概念が形成されるのは,その後のビザンティン法学の出現によってである。…
※「注意義務」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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