改訂新版 世界大百科事典 「液糖」の意味・わかりやすい解説
液糖 (えきとう)
liquid sugar
成分は砂糖とかわらないが,糖液のままで結晶させたもの。液状糖ともいい,内容物によって次のような種類がある。(1)全砂糖液糖,(2)転化糖液糖,(3)両者の混合液糖,(4)濃厚砂糖溶液にブドウ糖を加えたもの,(5)異性化糖と砂糖溶液の混合したもの,(6)異性化糖など。固形糖に比較すると,製造の際に糖液精製後の結晶化,分離,乾燥,包装などの工程が省力できる。さらに使用する場合も解袋,溶解,再ろ過などの手数が省ける。また輸送はタンクローリーを用いるので,ローリーさえ施設してあれば容易であるなどの長所がある。アメリカでは1925年ころから生産され流通していたが,日本においては砂糖を液状で扱う慣習がなかったので,生産はずっと遅れて始まった。これについては税制上の問題もあったようである。異性化糖の生産量が高まるにつれて,液状糖で利用する形態が急増した。異性化糖は現在,固形化ができないのですべて液状で運搬されている。しかし液状糖には短所もある。品質管理では糖分,灰分,pHはもちろんのこと濃度測定が必要になる。また微生物による汚染が最も注意を要する点であろう。酵母などは糖濃度72~75%くらいでも生育するものもあり,とくに加熱工程をもたない清涼飲料の場合には,酵母の混入が厳密にチェックされねばならない。保存期間は固形糖に比較すると極端に短く,夏季で4~5日,冬季で2週間くらいといわれる。以上のような長短所を考慮して,加工業者によって選択されている。液糖の(4),(5),(6)については日本農林規格(JAS)があり,その品質が規制されている。これらの液糖は家庭用の甘味料に使われることはまだ少なく,大口利用は製パン,清涼飲料などの工業的用途である。結晶,固形の砂糖を工場内で再溶解する手間が省かれることが液状糖を使用する重要な理由の一つになっている。
執筆者:貝沼 圭二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報