海岸において,大潮の最大満潮時には海面下になるが,最低干潮時には干出するような場所をいう。潮間帯内は潮汐の行動によって,上部から大潮最大満潮線,大潮平均満潮線,小潮平均満潮線,平均潮位,小潮平均干潮線,大潮平均干潮線,大潮最低干潮線の七つの潮位が区別される。小潮平均満潮線以上を潮上帯supralittoral zoneとよび,小潮の平均満潮線と平均干潮線の間を中潮帯mediolittoral zone,小潮平均干潮線以下を潮下帯infralittoral zoneとよんでいる。潮間帯には岩礁性と砂泥性のものがあり,砂泥性で広いものは干潟,砂浜といわれている。岩礁の潮間帯にはしばしば潮だまりが見られる。
潮間帯岩礁にすむ固着性の生物は,明りょうな帯状分布を示している。本州太平洋岸では,最も高い潮上帯にカメノテ,イワフジツボの分布帯があり,さらにアマノリ類,サラサフジツボなどBalanus属のフジツボ,イガイ,ヒトエグサと順次続き,カキ,カンザシゴカイ,イワヒゲ,ヒジキなどが潮間帯の下部に分布帯をつくる。これら帯状の分布構造はかなりはっきりと区分けされ,遠くから見ると水平な縞模様に見える。移動性の動物も,ある程度の厳密さで一定の潮位幅にすんでいる。例えば,潮上帯にはタマキビがすみ,中潮帯にはカサガイ類のヨメガカサがすむ。帯状分布の上限は,それぞれの種が乾燥と高温・低温にどのくらい耐えることができるかという程度の差に応じて決まっている。一方,分布帯の下限は,他の生物とのすみ場所をめぐる競争を通じて決定されることが多く,その結果として帯状分布がつくられるのである。フナムシのように移動力の大きい動物は,干潮時に潮間帯全域に分散して餌を食べる。
潮間帯の生物は,他の場所にすむ海の生物とは異なった特殊な生理的性質をもっている。例えば,潮上帯に生育する海藻は,長い間空中に露出していても組織や細胞が傷つきにくい。タマキビ,フジツボなどの動物は,殻に閉じこもって長時間の乾燥と高温・低温に耐えることができる。また,海の動物のほとんどがえら呼吸を行うけれども,潮間帯にすむ生物の中には,湿った空気からも呼吸をすることのできるカニ類や,空気呼吸をする肺が発達した有肺類(軟体動物のうちイソアワモチ,カラマツガイなど)がいる。
潮間帯にすむほとんどの動物は,海水中の動植物プランクトンや有機物のくず(デトリタスdetritus)を,海水中からこし取って食べるろ過食者である。そのため,海水をかぶっていない時間は餌を食べることができない。けれども,潮間帯を上下する海水の先端付近および表面には,デトリタスやプランクトンが風や波で吹き寄せられたり,岩に波がぶつかることによってできる無数の泡が作用して,海水中に溶け込んでいた有機物を粒状化し,生物が餌として利用できる形にしていることもあって,短時間の摂餌で十分な量の餌をとることを可能にしている。ろ過食者の次に多いのが,岩盤上に生育しているケイ藻など微小な藻類をかじり取る草食者(グレーザーgrazer)であり,これは移動性の巻貝が中心である。
執筆者:向井 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大潮の最満潮線と最干潮線間の海と陸の接点に位置する海洋生態系の一部。潮の干満により干出冠水を繰り返す場所で、温度、湿度、塩分、光量などの環境条件の変化が急激で大きく、それに耐性を有する生物からなる独自の生物群集が成立する。潮間帯はその底質により岩礁、転石、砂浜、泥浜などに区分され、岸壁、護岸、橋脚などの人工物と自然の潮間帯に分けることもできる。それぞれがさらに河川水の影響の大小により生物にとって異なる環境になる。潮間帯生物群集はこれらの差異により泥底干潟から荒磯(あらいそ)までさまざまな様相を呈するが、いずれの場合にも高潮線から低潮線にかけてほぼ潮位と平行する生物の成帯構造がみられる。この分布帯の幅は波浪条件によって著しく変化し、かならずしも潮差そのものによって決まらない。そのために生物群集自身を目安に区分することが多い。たとえば、岩礁海岸では大形褐藻やサンゴなどの生育上限からフジツボ帯の上限までを真潮間帯、その上部のタマキビ帯上限までを潮間帯上縁部、大形褐藻類の上限から大潮最干潮線までを亜潮間帯上縁部という。それぞれの上限は波浪が強いほど高くまた幅も広い。岩礁では固着性生物が優占し、フジツボやイガイなどの濾過(ろか)食者、タマキビ、アマガイ、カサガイなどのグレイザー、レイシガイ類の捕食者が多い。各生物の分布上限は干出に伴う乾燥や温度などの非生物的要因により、下限は被食や種間競争などの生物的要因によって決まると考えられている。
[西平守孝]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 陸地と海面とが交わる線を海岸線あるいは汀線というが,毎日の潮汐の上下(干満)につれてその位置は時間的に変化し,前進・後退する。平均的な高潮位と低潮位に対応する汀線を,それぞれ高潮(汀)線,低潮(汀)線といい,両者によって挟まれる地帯を潮間帯という。高潮線より内陸側も波浪,とくに暴風時の波浪によって影響を受けるので,低潮線と波浪の作用の及ぶ陸の限界の間を海浜sea shoreまたは単に浜shoreとよぶ。…
※「潮間帯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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