デジタル大辞泉 「火星」の意味・読み・例文・類語
か‐せい〔クワ‐〕【火星】
[補説](衛星)フォボス、ダイモス
[類語]太陽系・水星・金星・明星・明けの明星・宵の明星・地球・木星・土星・天王星・海王星
翻訳|Mars
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
基本情報
軌道半長径=1.52369天文単位
離心率=0.0934
軌道傾斜=1°.850
太陽からの距離 最小=2.067×108km,平均=2.279×108km,最大=2.492×108km
公転周期=686.98日
平均軌道速度=24.08km/s
会合周期=779.9日
赤道半径=3397km
体積=0.1506(地球=1)
質量=0.10745(地球=1)
平均密度=3.93g/cm3
自転周期=1.0260日
赤道傾斜角=25°.19
アルベド=0.16
極大光度=-2.8等
赤道重力=0.38(地球=1)
脱出速度=5.02km/s
火星は,そのやや不気味な赤色のゆえに,昔から戦いの神マルスの名を冠せられてきた。中国では,やはりその色から人心を惑わす星という意味で熒惑(けいわく)/(けいこく)と呼んでいる。地球のすぐ外側の軌道上を回っているため,半分以上欠けて見えることはない。いちばん地球に近い金星は,もっとも地球に近づく時期にすっかり欠けた状態になってしまうので,この点,火星はやや遠いが観測しやすい利点をもっている。T.ブラーエの1570年代後半から16年間に及ぶ火星の運動の眼視観測によるデータは,ケプラーの法則の発見につながり,また,G.ガリレイは火星の満ち欠けを観測している。1636年フォンタナF.Fontana(1585-1656)が表面に暗い部分のあることを発見,59年C.ホイヘンスが暗い模様の中でもっとも目だつ大シュルチスを図に書き残している。また,このころ,G.D.カッシニは極冠を発見している。19世紀半ばになるとスケッチなどに基づく火星地形図も整備されるようになり,19世紀末にはG.V.スキャパレリが運河状の模様があると指摘した。これが火星人による人工的なものではないかという議論の端緒となった。一方,物理観測としては,地表の温度が場所により大きく変わるといったことはすぐにわかったが,分光観測によって火星大気や地表の組成に対する手がかりが得られるようになったのは,第2次世界大戦後のことであり,とくに1965年のマリナー4号を初めとする探査機の活躍は,火星に関する知見をすっかり書き換えてしまった。その頂点は,76年のバイキング1,2号による火星生命探査である。その後も火星探査は続き,旧ソ連のマルス探査機群,アメリカのパス・ファインダーなどの活躍につながっている。
火星の太陽との平均距離は1.524天文単位で,約687日で太陽を一周する。軌道の離心率は0.0934と惑星の中ではかなり大きく,扁平な楕円軌道を描く。地球からの距離も5550万~3億7800万kmと大きく変わり,もっとも近づいたときの光度は-2.8等にもなる。火星は,自転周期24時間37分,自転軸の傾きも地球によく似ていて四季をもっている。しかし,火星の1年は地球の約2年に当たるため,各季節の長さはほぼ倍も続くことになる。
火星の質量は地球の約1/9で,1/80である地球の月と地球のちょうど中間くらいの値をもっている。このくらいの質量だと,自重で中心の物質が強く圧縮されて圧力のない場合に比べ著しくつぶれるというような事態には至らない。事実,観測から求められる平均密度は3.93g/cm3で,圧力がかかっていないと考えて計算した値3.85g/cm3とほとんど変わらない。しかも,火星の扁平率などから求められた中心部の核の大きさが,質量でいって全体の3~5%にしかならぬ小さいものであることなど,地球や金星のそれが数十%になることと比べて異なる点である。これを探査機の測定でわかった火星磁場がほとんどないという事実と組み合わせると,火星の核は金属鉄でなく,酸化鉄,硫化鉄といった物質からなっているのではないかと見る学者が多い。
表面の約1/3は反射率の低い暗い部分だが,レーダー観測による地形の高低図と比べても,その関連ははっきりしない。大きな暗い部分である大シュルチスなどは,傾斜部に当たり,表面が風でまき上げられ落ちてくる砂に覆われにくく,岩が露出しているのではないかといった解釈も行われている。運河ではないかと思われた部分についても,探査機による観測,撮影などからその存在が否定されてしまった。一方,南北の極に現れる白色の極冠については,データが急激に蓄積されつつある。北極冠の大きさは冬に最大で,火星緯度60°~65°まで広がる。夏には小さくなるが完全に消え去ることはない。一方,南極冠の規模はそれほどでなく夏には消失することもある。これは極冠ができたときの水の量によるものと考えられている。夏でも消えない部分は,温度の測定やら水蒸気の量についてのデータから水の氷からできている部分と理解されている。他方,季節によって増減する部分は,大気の主成分である二酸化炭素が凍ってできたドライアイスからなっている。このことは着陸したバイキング探査船の気圧測定で,極冠の消長が気圧の変化を引き起こすことが発見されて確認されている。マリナー4号による初めての火星表面のテレビ観測によって知られたように,火星の表面は隕石の落下の結果できた多くのクレーターで覆われている。しかし,オリンパス山やタルシスの連峰のように火山性と考えられる地形もある。また,あたかも水が流れてできたような地形もバイキングの周回船などで撮影されている。火星上でもう一つ目だつ地形としては,アメリカのグランド・キャニオンの2倍以上もあるような大峡谷が数多く見られることである。例えば,コプラテス峡谷と呼ばれるものは,幅が400~500km,深さが6kmで,2000km以上にもわたって続いている大断層である。このような地形が多く見られることは火星表面に張力が働いているためと考えられ,その原因として,火星でも地球上で見られるような地殻の活動の開始とか,火星全体の膨張期の存在などが唱えられている。レーダーによる観測資料を総合すると,火星の表面は広い範囲で長い緩やかな傾斜をもっており,高低差は十数km程度である。このような凹凸の少ない表面は,大気や水による侵食作用が過去を含めて少なかったことを物語っている。
火星表面に降り立ったバイキング1号の着陸船のテレビカメラに初めて映ったその地形は,とき色の空の下に広がる岩だらけの赤い砂漠であった。空の色は砂あらしなどで空中に浮遊する細かい砂塵によるものである。一方,地表の色は大量に含まれる酸化鉄,つまり赤さびの結果である。酸化鉄は大気中のオゾンなどによって酸化されたり,表面に落ちてきた隕石に含まれていたものがまき散らされたりして蓄積したのであろう。バイキング1,2号の表面化学組成分析によると,鉄に富む粘土鉱物が表面の砂の中に80%近くも含まれていることがわかっている。残り20%はマグネシウムの硫酸塩,石灰岩などであった。火星表面の温度の観測は古くから行われ,赤道域で夜間-100℃,昼は数℃まで上昇することがわかっていた。一方,火星上でこれまで観測された最低温度は,バイキング1号が周回中に極で測った-139℃という値である。ドライアイスの凍る-125℃よりまだ低いので,大気上層のドライアイスの雲の温度で測っているのではないかとの解釈もある。しかし,もう一つの考え方は,あまりの温度の低さから大気中の二酸化炭素の80%くらいが凍ってしまい,大気の大部分が2番目に多い窒素などの非凍結性のガスで占められるという状況になっていて,その場合二酸化炭素の凍結温度がここまで低下するというものである。
火星に大気があることは雲が見えることから推定されていたが,その量や組成についての確実な値が得られたのは探査機活躍の結果である。まず量については,火星の後側に回り込んだマリナー4号の出す電波の屈折の度合から,地表気圧でいって5~7hPaと地球の約1/200という薄い大気であることが判明した。この値は,それまで分光観測などから推定されていた値より一桁以上低かった。大気の組成は,バイキング着陸船に積まれたガスクロマトグラフ質量分析器で繰り返し測定され決定された。それによれば,二酸化炭素CO295.3%,窒素N22.7%,質量数40のアルゴン40Ar1.6%,酸素O20.3%,一酸化炭素CO0.08%などであった。さらにいろいろな同位体比も測定し,15N/14N~459,40Ar/36Ar~3000,129Xe/132Xe~2.5ということがわかった。これらの比は,地球ではそれぞれ270,300,1でありたいへん異なっているので,この二つの惑星の進化の差などを研究する際に重要なデータになると思われる。水蒸気に関しては,バイキング周回船からの火星全体にわたる観測が行われ,緯度によって大きく違うことがわかった。赤道域では水の厚さに換算して0.1μmと極端に乾燥しているが,夏の極では80μmとかなり多くなっているのである。ただし,水は現在の大気中には少ないものの,低温のため凍土などの形で地下に大量に存在するのではないかと考えられている。事実,バイキングの土の化学分析の結果は,表面にある砂でさえ約1%の水を含むことを示した。オゾンO3もマリナー7号の紫外線分光器で検出されたほかに,この分子が太陽の紫外線で壊された際生ずる酸素分子からの発光という形でとらえられている。地球の場合には,オゾンが太陽近紫外線を吸収して,地上30~70kmのところで温度の上昇が起こる。しかし,火星では上記のオゾン量がきわめて少ない(~10⁻6)のでこの温度反転は起こらず,大気温度の高度変化は,赤道域においては地上から上に昇るにつれ単調に減少し,100kmくらい上へいったところで増大し始める(火星熱圏)という簡単なものであることが探査機によって確かめられた。
火星には大規模な砂あらしが起こることが昔から観測されている。つねにヘラスとかノアキスといった盆地から発生し,初め10~30日くらいで火星全面へと広がり,50~100日かけておさまる。マリナー7号が火星に到着したときには猛烈な砂あらしが起こっていて,そのとき火星上に見えた地形はオリンパス山とタルシスの連峰だけであった。この砂は太陽光を吸収して暖まるので,30kmくらい上空の大気温度が地上温度とほとんど変わらないくらい上昇していた。これでもわかるように,砂は火星の気象学にとって重要な役目を果たしている。例えば,砂あらしの発生原因としては,まず舞い上がった砂が太陽熱を受け入れ周囲の大気を暖め,それに伴う上昇気流で再び砂を舞い上げるという正のフィードバック効果が指摘されている。これは地球上では水(の潜熱)が受けもっている役割である。火星の雲には,このほか水の氷やドライアイスによるものと思われる白雲,青雲などが観測されている。
二酸化炭素は,太陽の紫外線に当たると分解し一酸化炭素と酸素原子になる。火星ができてから約46億年の間これが続けばすべて分解されるはずなのに,現在もまだ,大気の主成分として残っているのはなぜだろうか。マリナー4号が火星の電離層を観測したら,ほとんどないに等しい貧弱なものであったこともこれに関係する。例えば,地球では電離層の主成分が酸素原子イオンであることはわかっている。火星にも酸素原子はあるから,その電離層は地球と同じくらい発達していてもよいはずである。この矛盾を巡って電離層紛争と呼ばれる議論がまき起こった。初めのころは,二酸化炭素特有の光化学反応が起こり,酸素原子がその場ですぐ一酸化炭素と再結合して二酸化炭素に戻ってしまうからだといわれたが,実験室でのチェックが進むにつれ,そのような反応は存在しえないことが確認された。結局,火星上層の大気は強くかき混ぜられていて,一酸化炭素などはきわめて早く下のほうに運ばれ,代りに上がってきた二酸化炭素でどんどん薄められてしまうためだとわかった。大気の下のほうには水蒸気や塩化水素HClなどの水素化合物が存在するが,これを触媒としてCOとO(または再結合した後のO2)は容易にCO2に戻るのである。酸素の一部はオゾンになる。そして,このような中で生じたClO2,HO2,HFなどの種々の化合物が大気の微量成分として観測されている。また,火星にはほとんど磁場がないから,太陽風は表面のかなり近くまで吹き込んでいる。これらのようすもマルス7号などの探査機によって確認されている。
火星には生命が存在するのではないかという話は古くからあった。地表には水の流れた跡のような地形があり,また計算によると,長い間に火星の回転軸の方向が変わり,極での太陽熱の吸収量が増したとき極冠がとけて,温和な雨の多い気候が存在したのではないかという説もある。このような時期に,せめてバクテリア程度の生命が発生し,生きながらえていないだろうか。
バイキング着陸船は下記の3種の生命検出装置を積んでいた。(1)炭酸同化実験 これは採集した火星の砂の上に質量数14の炭素同位体で目印をした二酸化炭素を入れ,生命があれば炭酸同化作用でこれらのガスを有機物に変えるであろうから,その有機物を検出しようとする。生命として地球型のものを想定しているのだが,水を使っても使わなくても実験できるという利点がある。1回目の実験では多少の反応がでたが,実験を繰り返すと再現性はなかった。(2)ラベル放出実験 同様に質量数14の炭素同位体で目印した栄養液を砂に注ぎ,二酸化炭素になって出るだろう代謝生産物を検出する。砂に栄養液を注入したら,予想を上回る激しい反応が起こり,やがて落ち着いた。この反応は生物学的ともいえぬことはないが,砂の中に光化学反応でできた過酸化物が含まれ,それと水の反応でガスを放出したとも解釈できる。(3)ガス交換実験 砂に栄養液を加え,出てきたガスをガスクロマトグラフで成分分析する。二酸化炭素や酸素が出てきた。土を焼いて殺菌した後同じ手続を繰り返すと,今度は酸素が出なかった。ラベル放出実験と同じように過酸化物を含む土に水を入れたという感じである。
生命検出不成功を最終的に確認したのは,着陸船に同時に積まれていたガスクロマトグラフ質量分析器である。この機器は大気成分分析と同時に砂の中の有機物の量も計測できる。感度は非常によく,メタンのように簡単な分子なら10⁻9,複雑な有機分子なら10⁻6含まれているだけでも検出する。しかし,火星の土の反応はまったく否定的であった。これでバイキング1,2号が着陸したクリュセ,ユートピアの2地点にも生命が存在しないことが確認できた。
火星には1877年A.ホールによって発見されたフォボス,デイモスという二つの衛星がある。それぞれ長径が25kmと13km程度の不規則な形をした火星の月である。フォボスは火星の中心から平均距離9400km(火星表面から5900km)ほどのところを7時間39分の周期で回っている。バイキングがその地表の反射率をいろいろな波長で測ってみたら,炭素質隕石の一種であるマレー隕石に非常に似ていて一様に低かった。この衛星の比重も1.9くらいで,ちょうど炭素質隕石の値と一致している。デイモスは火星からの平均距離が2万3500kmほどのところを30時間18分の周期で公転している。いろいろな意味でフォボスに似ている衛星である。フォボスは公転周期が火星の自転周期の1/3ほどなので,火星の表面からフォボスを見ると西の地平線から昇り,速いスピードで横切って東に沈むが,デイモスは逆の方向を2日近くかかって横切ることになる。これら衛星の成因は,小惑星帯から落下したものを捕獲したと考えられている。
執筆者:清水 幹夫
火星はギリシア神話の軍神アレス(ローマ神話ではマルス)と同一視された。錬金術では鉄のシンボル。占星術では激情とエネルギーに満ちた行動力を意味する惑星である。吉位にあれば大胆で勇敢な性格を,凶位にあれば権勢欲の強い,または官能的で短気な性格を授ける。人体の支配部位は左耳,腎臓,静脈,外陰部で,炎症,高熱,負傷,火傷などを引き起こしやすい体質をつくるとされる。
執筆者:有田 忠郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地球の軌道のすぐ外側を運動している太陽系の惑星。太陽から見て4番目の軌道を公転している。赤く見え、古来、戦争や不幸と結び付けて考えていた民族が多い。火星のヨーロッパ名マルスは軍神をさす。中国では「熒惑(けいわく)」ともよんだ。日本では西南戦争後、西郷隆盛の霊とされ「西郷星」とよばれたこともある。
[村山定男]
火星の太陽からの平均距離は1.5237天文単位(2億2794万キロメートル)、公転周期は1.8809年(地球の日数で687日)である。軌道の離心率は0.09339で、水星に次いで大きく、かなりな楕円(だえん)軌道をもち、太陽からの距離は近日点と遠日点では4200万キロメートル余りの差がある。
[村山定男]
この大きな離心率のために、火星と地球の間の距離は大きく変化する。地球との会合周期は780日である。いいかえれば地球は780日(約2年2か月)ごとに火星に追いついて衝(しょう)となり、そのころ地球と火星が接近する。しかし、火星の軌道の離心率が大きいため、地球と火星の軌道の間隔は衝のおこる方向によってかなり異なる。火星の近日点の方向にあたる8月ごろに衝となれば、地球と火星の間はおよそ5600万キロメートルの「大接近」となる。反対に遠日点の方向にあたる2月ごろに衝となれば、1億キロメートル余りまでしか接近しない。軌道のほぼ同じ位置で衝となるのは、2年2か月ごとの接近を7~8回繰り返して一度であり、大接近は15~17年ごとにおこる。20世紀中の大接近は1909年、1924年、1939年、1956年、1971年、1988年であり、もっとも接近したのは1924年の5578万キロメートルであった。21世紀最初の大接近となる2003年は、地球と火星の距離が5576万キロメートルと過去3000年に例がない大接近であり、次にこれを上まわるのは2287年である。
[村山定男]
火星の赤道半径は3397キロメートルで、地球の半分余り、月の約2倍である。質量は地球の0.107倍、密度は水の3.93倍である。自転周期は24時間37分余りで、地球よりわずかに長い。自転軸の傾きは25度余りで、地球とよく似ており、四季の変化がある。また表面重力は地球の0.37倍である。
火星の明るさは、大接近のころの極大光度がマイナス2.8等で、木星をしのぎ金星の次に明るく、視直径は25秒余り、70倍の望遠鏡で、ほぼ肉眼で見る満月の大きさに見える。
[村山定男]
望遠鏡で火星の表面を見ると赤橙(せきとう)色の表面に薄暗い模様が見える。火星の表面模様を初めて記録したのはオランダのホイヘンスで、1659年のことであった。その後、望遠鏡の発達とともに詳しい観測が行われるようになり、最初に火星面の地図を描いたのは、1840年、ドイツのベールWilhelm Beer(1797―1850)とメドレルJohann Mädler(1794―1874)であった。1877年の火星大接近のとき、イタリアのミラノの天文台長であったスキャパレリは口径22センチメートルの屈折望遠鏡で火星面模様の詳しい測定を行い、多くの模様にラテン語で、古代の地名や神話にちなんだ名称をつけた。スキャパレリ以前にも一部の模様には人名などがつけられたことがあるが、以後はこのスキャパレリの命名が広く用いられるようになった。
[村山定男]
スキャパレリは、大きな暗い模様には海、すこし小さいものには湖・湾などの名をつけたが、そのほかに多くの線状の模様を観測してカナリ(水路)とよんだ。これがのちに「火星の運河」とよばれて論議の的となったものである。とくにアメリカのローウェルは19世紀末から20世紀の初めにかけて、アリゾナ州のフラッグスタッフに61センチメートルの屈折望遠鏡を備えた私立天文台を建て、火星の観測に熱中した。彼によれば、運河は幾何学的な直線であって網のように火星の全面を覆い、しかもいろいろと不可思議な変化をするところから、とうてい自然現象とは思われず、火星の高等生物が乾いた火星面に灌漑(かんがい)を行うためにつくった運河である、と主張した。
このような運河が実在するか否かについては賛否両論が対立し、長く論議が続いたが、火星表面の温度や大気などについての物理的な観測が始まって、火星面は高等生物が住めるような条件ではないと考えられるようになり、一世を風靡(ふうび)した火星人説も消えていった。望遠鏡観測時代の総決算ともいえるもっとも詳細な火星図は、1930年にフランスのアントニアディEugène Antoniadi(1870―1944)によってつくられた。彼は運河を斑点(はんてん)の連続や明暗の区域の境界などとして描いている。
[村山定男]
火星の表面模様に季節に伴い、あるいは永年的に変化がおこることは広く認められている。なかでも目だつのは、北極・南極に白く見える極冠で、冬季には大きく広がるが、夏の終わりにはほとんど消えてしまう。古くから極地の雲と考えられてきたが、今日では、二酸化炭素が凍ったドライアイスであるという説が有力である。しかし、少なくとも夏の終わりまで残る極冠の中心部は、二酸化炭素の凍結する温度より高温であることから、氷であると考えられている。
このほか、模様の濃さや形が季節変化をするものも多く、一般に夏季には濃さを増し、冬季には薄れる。また長年月の間にしだいに形や面積を変える模様もあり、突然現れる斑点などもある。
[村山定男]
火星表面にはしばしば雲も現れ、とくに夜明け時や夕暮れ時にあたる地方に白雲が輝いて見られることが多い。また、ときには広範囲に黄色の雲が現れる。この黄雲は砂嵐(すなあらし)で、とくに南半球の夏季に大規模なものが現れることが多く、火星全面の暗斑が見えなくなってしまうような場合もある。
[村山定男]
望遠鏡観測の時代からの火星に関する知識をさらに詳しく究め、あるいはまったく新しい知識をもたらしたのが火星探査機である。1965年に初めて火星に接近して観測したアメリカのマリナー4号は、火星表面に多くのクレーターが存在することを発見して学界を驚かせた。その後、1969年にはマリナー6号、7号が観測を行い、さらに1971年のマリナー9号は火星の人工衛星となって、長期にわたり火星面の写真撮影などを行って火星面地形を明らかにした。
火星表面には多くのクレーターのほかに、多くの巨大火山も存在することが判明した。とくにタルシス地方とよばれる地域には巨大な火山が並び立ち、その最大のものは「オリンパスの山」と命名され、高さは周囲の平原から2万6000メートル、山麓(さんろく)の直径は600キロメートルに及ぶ。また火星面には種々の谷が見られ、もっとも著しいものは「マリナーの谷」とよばれる長さ4300キロメートル、最大幅200キロメートルに及ぶ大地溝である。また谷の中には水の侵食によると思われるものも多く、今日では乾燥している火星面にもかつてはかなりの流水があったと考える学者も多い。
[村山定男]
火星表面の状況をもっとも詳細に探査したのは、1976年夏に火星面に軟着陸して観測を行ったアメリカ(NASA(ナサ)=アメリカ航空宇宙局)のバイキング1号、2号で、この探査機によって初めて火星の大気や土壌の性質、生物の有無などが直接に調べられた。その結果によれば、火星の大気圧は6~7ヘクトパスカル、大気の組成は二酸化炭素が95.3%を占め、残りは窒素2.7%、アルゴン1.6%、酸素は0.3%などとなっている。
水蒸気はきわめて乏しく、液体の水に換算すると2~30マイクロメートルの厚さにしかならない。また火星の地下には凍土状となってかなりの水が存在すると考えられているし、火星面の岩石中からも水分が存在したことを示すと考えられるデータが検出された。なお、バイキング着陸地点での気温は零下30~零下80℃であった。
バイキング以後も何度か火星探査は試みられた。アメリカは1996年、マーズ・パスファインダーを打ち上げ、同機は翌年、火星に着陸、ローバー(探査車)による地表観測などを行った。2003年にはマーズ・エクスプロレーション・ローバー2機(「スピリット」と「オポチュニティ」)を打ち上げ、2機とも翌2004年1月に火星に着陸、探査活動を開始した。
NASAは同年3月、ローバーによる地質調査で、火星表面に一定期間、水が液体状で存在していたことを確認したと発表した。それまでも火星での水の存在を示唆(しさ)する観測データはあったが、地質調査で直接確認されたのはこれが初めてであった。火星に生命体が存在することを示すデータはこれまでのところ得られていないが、水の存在は生命に不可欠なため、この発見はその可能性を高めるものとしても注目された。
[村山定男]
火星は二つの小さな衛星をもち、内側のフォボスは火星の表面からわずか6000キロメートルのところを0.319日(7時間39分)で公転している。これは火星の自転周期よりはるかに短いので、火星世界から見ると、西から出て東に没するように見える。外側のデイモスはフォボスの2倍余りの距離のところを1.262日(1日6時間18分)の周期で公転している。そのため東から昇るが西に没するまでに38時間を要する。フォボス、デイモスともに探査機の写真によって詳しく調べられた。二つの衛星は多くのクレーターに覆われた不規則な形をしているが、だいたいにおいてフォボスは長径が26キロメートル、デイモスは16キロメートルの回転楕円(だえん)体であることが判明した。この二つの小衛星は、太陽光の反射光の性質などがある種の小惑星に似ており、火星の引力にとらえられた小惑星である可能性が大きい。
[村山定男]
『P・ムーア、C・クロス著、斉田博訳『火星』(1975・誠文堂新光社)』▽『宮本正太郎著『火星――赤い惑星の正体』(1978・東海大学出版会)』▽『P・レイバーン著、小池惇平監修『火星 解き明かされる赤い惑星の謎』(1997・日経ナショナルジオグラフィック社)』▽『NASA協力、小尾信弥訳『火星 探査衛星写真』(2003・朝倉書店)』▽『小森長生著『火星の驚異 赤い惑星の謎にせまる』(平凡社新書)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(土佐誠 東北大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 占い学校 アカデメイア・カレッジ占い用語集について 情報
…さそり座のα星。ギリシアの軍神アレスArēs(ローマではマルスMars)が火星と結びつき,この星の色が赤いことや,火星がこの付近にやってくることから,ant‐Arēs(火星に対するもの)という名がついたのであろう。中国名は火(か),大火(たいか),火星などという。…
…
【他の惑星の風】
人工衛星の打上げが盛んになり,地球以外の惑星の大気のようすもしだいに解明されてきた。
[火星]
火星は地球に比較して大気振動の大きい惑星である。地球上でも月の引力や太陽の放射熱によって起こされる大気潮汐があるが,火星ではダストによる熱潮汐が日々の天気を支配しているからである。…
…火星の古代中国名。五星の一つ。…
… スキャパレリは望遠鏡による惑星面観測の大家としても著名である。77年に口径22cmの屈折望遠鏡で火星面を観測し,火星の地形を海や大陸に分類して火星図を作ったが,その際,火星面上を縦横に走る“カナル(運河)”が大きな話題となり,火星人のロマンにまで発展した。そのほかに水星面の斑点の観測から水星の自転周期を公転周期と同じ88日と発表した。…
…上空ほど気温は低く,100km上空では-60℃くらいである。火星の大気は二酸化炭素95.3%,窒素2.7%,アルゴン1.6%,酸素0.3%などから構成され,気温は約-100℃,気圧は約0.006気圧である。水分や二酸化炭素の大半は表面の土に吸収されている。…
※「火星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
外国人や外国の思想・文物・生活様式などを嫌ってしりぞけようとする考え方や立場。[類語]排他的・閉鎖的・人種主義・レイシズム・自己中・排斥・不寛容・村八分・擯斥ひんせき・疎外・爪弾き・指弾・排撃・仲間外...
4/12 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
4/12 デジタル大辞泉を更新
4/12 デジタル大辞泉プラスを更新
3/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
2/13 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新