盆に家々に迎えた先祖を送り帰す行事の一種。あるいは水死者や無縁仏(むえんぼとけ)に対する供養行事。盆の終わりに、麦藁(むぎわら)や板で舟をつくり、供え物などをいっぱい乗せて川や海に流す地方が多い。その精霊船に線香を立てたり、佐渡(さど)市などでは大きな麦藁舟に付き添って若者たちが沖へ出、点火して燃え盛るのを見て泳ぎ帰る例などがある。初盆の家では飾りたてた精霊船を流し、初盆以外の家では桟俵(さんだわら)にろうそくを立てたのを流したりした。一方、水死者や無縁仏の供養は盆に限ったものではなかったが、互いに影響しあうようになった。菅江真澄(すがえますみ)の『来目路(くめじ)の橋』によると、近世末にいまの長野県大町市では、水死者の亡魂を祭るために盆の16日に藁束に火をつけて川に流す行事があった。夏の水辺行事ということから納涼・観光行事になったものも多く、また第二次世界大戦の終戦記念日(8月15日)との関係から戦没者の慰霊のために行うものもある。
[井之口章次]
精霊(しようりよう)送りの一種。盆の15日か16日に,小さな灯籠に火を点じて河川や海に流す習俗。精霊が灯籠にのって川を下り,海のかなたのあの世へかえっていくという信仰に基づいている。河川とくに河口や,湖,海に臨んだ地方に多くみられる。盆の供えものを精霊舟にのせ,灯火をつけて川や海に流し,精霊を送る精霊流しの変化したものともみられるが,灯籠流しはとくに川施餓鬼(かわせがき)と関係があり,もともと水難など横死者の霊に対して,大寺院の主催で行われる例が多かった。今も京都の嵯峨では盆の16日に,嵐山の渡月橋の川下に大覚寺の施餓鬼棚が設けられ,夕方に施餓鬼法が修せられ,そののち灯籠流しが行われる。豪華な灯籠をつくるところもあるが,精霊送りの美観を灯火の多さに求めているため,簡単な構造のものが多い。最近は観光行事化している。長崎市の灯籠流しは風流(ふりゆう)化した精霊舟を多数海に流すので知られている。
→施餓鬼
執筆者:伊藤 唯真
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…こうして六朝の終りには,中元はすでに道教・仏教共通の祭日となり,家々では墓参に出かけ,各寺院では,供養を受けに訪れる諸霊の乗る法船を作り,夜それを焼いた。南宋以降,放河灯(灯籠流し)も行われ,元・明以後,荷葉灯や蓮花灯が作られて,子どもたちは夜,それに火をともして町をねり歩いた。現在,灯籠流しだけは一種の観光行事として行われるときがある。…
※「灯籠流し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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