マネー・ロンダリング(資金洗浄)や組織的な犯罪への資金供与を防止する措置を講じるための法律。正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成19年法律第22号)で、「犯収法」「ゲートキーパー法」ともいう。犯罪収益が組織的な犯罪を助長するために使用されるとともに、犯罪収益が移転して事業活動に用いられることで健全な経済活動に重大な悪影響を与えること、犯罪収益の移転がその剥奪(はくだつ)や被害の回復にあてることを困難にすることから、日本では金融活動作業部会(FATF(ファトフ))の勧告に基づき、犯罪収益の移転防止を図るために、2007年(平成19)3月31日に本法が制定された。翌4月1日に一部施行、2008年3月1日に全面施行となり、2013年と2016年には一部改正法が施行された。金融機関等の特定事業者に対して、顧客等の本人確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出などを義務づけている。
[辻本衣佐 2018年3月19日]
日本のマネー・ロンダリング対策は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を機に、「テロ資金供与防止条約」に署名し、これを受けて2003年1月6日に「本人確認法」(正式名称は「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」)が施行されて以降、強化されるようになった。しかし、金融機関等の本人確認が厳格になると、マネー・ロンダリングの形態も、不動産売買を利用したり、弁護士に資金の保管を依頼したりするなど、手口の複雑化・巧妙化がみられるようになった。また、2003年に改訂されたFATFの「40の勧告」(1990年に策定された、マネー・ロンダリング対策の国際基準)が、本人確認等の措置を講ずべき事業者の範囲を、金融機関のみならず非金融業者や職業的専門家にも拡大したことから、本法においても拡大が要請された。
そこで、2004年12月、内閣官房長官を本部長とする国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において、FATFの「40の勧告」の実施検討を盛り込んだ「テロの未然防止に関する行動計画」が策定された。2005年11月には、同推進本部において、警察庁が同勧告を実施するための法律案を作成すること、日本版FIUを金融庁から国家公安委員会・警察庁に移管することが決定された(FIU:Financial Intelligence Unit。金融情報部門や資金情報機関と訳される。各国が設置している、マネー・ロンダリング情報の受理・分析・提供を行う政府機関)。これにより、本人確認法と、組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法の第5章(54条~58条「疑わしい取引の届出」)を一本化して策定された法律案が、2007年2月、第166回国会に提出され、同年3月に犯罪収益移転防止法として成立した。FIUの移管等を内容とする部分については同年4月施行、本人確認等の措置を講ずべきとされる事業者の範囲の拡大等、残余の部分については2008年3月に施行された(全面施行)。
[辻本衣佐 2018年3月19日]
顧客との取引時に、公的証書をもって本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存および疑わしい取引の届出が義務づけられる事業者は、金融機関等、ファイナンス・リース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、司法書士などの法律・会計の専門家(「疑わしい取引の届出」を除く)である。なお、法律・会計の専門家以外の事業者に義務づけられている「疑わしい取引の届出」により得られた情報を集約・整理・分析して捜査機関等に提供する業務は、国家公安委員会および警察庁が担う。
[辻本衣佐 2018年3月19日]
2011年4月には、2008年の第三次FATF対日相互審査での指摘事項に関する議論、国内での振り込め詐欺等の被害状況を踏まえて、一部改正が行われ、2013年4月に施行された。この改正法では、確認事項が必要となる取引や、取引者の個人特定情報のほか、職業・事業内容、取引目的、支配的株主など、特定事業者がとるべき取引時の確認事項が追加された。また、電話転送サービス事業者の特定事業者への追加、取引時確認等を的確に行うための措置の追加、本人特定事項の虚偽の申告や預貯金通帳等の不正譲渡等にかかる罰則も強化された。
[辻本衣佐 2018年3月19日]
2013年のロック・アーン・サミット(イギリスの北アイルランド、ロック・アーンで開催された主要国首脳会議)での「G8(ジーエイト)行動計画原則」を受けて、マネー・ロンダリングとテロ資金対策に法人の透明性の向上は不可欠であるとして、「法人及び法的取極めの悪用を防止するための日本の行動計画」が同年6月に公表された。さらに2014年11月には、対日相互審査や日本に関するFATF声明において指摘された顧客管理に関するFATF勧告の水準を満たすように一部改正が行われ、2016年10月に施行された。この改正法では、疑わしい取引の判断方法の明確化、コルレス契約締結時の厳格な確認、事業者が行う体制整備等の努力義務の拡充等がなされた。なお、本人確認の身分証明書に顔写真のないもの(健康保険証、国民年金手帳など)を使用する場合は証明する書類を2点以上提示することなど手続が厳格化された一方で、公共料金や入学金等の支払いにかかる取引で、マネー・ロンダリングに利用されるおそれがきわめて低いと考えられる取引については、確認の簡素化がなされた。
[辻本衣佐 2018年3月19日]
『香月裕爾編『Q&A 改正犯罪収益移転防止法と金融実務――取引時確認と疑わしい取引の届出』改訂版(2016・経済法令研究会)』▽『中崎隆・小堀靖弘著『詳説 犯罪収益移転防止法・外為法』第2版(2017・中央経済社)』
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