狭骨盤(読み)きょうこつばん(英語表記)contracted pelvis

改訂新版 世界大百科事典 「狭骨盤」の意味・わかりやすい解説

狭骨盤 (きょうこつばん)
contracted pelvis

骨産道を形成する小骨盤腔が狭く,成熟児通過が困難または不可能のものをいい,小骨盤腔の諸径線の一部または全部が短い。狭骨盤の分類基準としては,岬角から恥骨結合後面までの最短距離の産科真結合線が用いられる。ブムErnst Bummは,産科真結合線10.5cm以下を4度に分け,9.5cmまでを第1度狭骨盤とし,7.5cm以下の第3度,第4度狭骨盤を帝王切開の必要なものとした。最近,母体のみならず児の予後が重視されるようになったため,産科真結合線9.5cm未満,入口横径10.5cm未満を狭骨盤と定義するようになった。リッツマンKarl K.Litzmannは骨盤の形態を主にした狭骨盤分類を行ったが,現在ではこのような強度の狭骨盤の臨床的意義が少なくなっている。狭骨盤かどうかを診断するには,骨盤外計測,内計測,X線計測および超音波計測が行われる。外計測は,骨盤の外側を計測してその内側の骨産道を推測しようとするもので,正確ではない。しかし計測が簡単であり,母・児になんらの障害を与えることがないので,よく行われる。計測値が平均値より1cm以上短い場合は狭骨盤に注意する。内計測のうち,恥骨結合下縁から仙骨岬角までの距離の対角結合線は岬角を正確には触れにくく,産科真結合線と必ずしも一定の関係にない欠点があり,日本ではあまり用いられない傾向にある。X線計測により,産科真結合線,入口横径,入口・出口および仙骨の形態などの必要な情報が得られる。しかし母・児に対する影響を考慮し,必要やむをえざるときに施行すべきである。狭骨盤のときの障害としては,分娩停止分娩遷延,産道の損傷胎児ジストレス,頭蓋内出血などがある。そのため狭骨盤の場合には腹式帝王切開が行われる。しかし狭骨盤とくに軽度のものでは,軟産道,陣痛,児頭応形機能・回転などによって分娩経過が左右されるので,帝王切開か経腟分娩かの判断は慎重にすべきである。たとえば仙骨に正常な凹湾がなく直線状または突出している場合には,産科真結合線より短い最短前後径が入口以下にあるので,これを重視する必要がある。
骨盤

骨盤と児頭との間に不均衡が存在するために,分娩が停滞し,あるいは母・児に危険が切迫したり,あるいは障害が予想される場合をいう。したがって,狭骨盤であっても児が小さい場合,あるいは逆に骨盤が正常でも児が大きければ,これに該当する。狭骨盤の診断は妊娠末期でなくてもできるが,児頭骨盤不均衡の診断は妊娠末期になって初めて診断される。診断には機能的診断,X線診断および試験分娩がある。機能的診断として児頭が浮動して固定しない場合や,仰臥位において触診により児頭前面が恥骨結合より高い場合は不均衡の疑いがある。また最短前後径と児頭大横径を比べて大横径が短くない場合は帝王切開となり,大横径が短いほど帝王切開が少なくなり,2.5cm以上短い場合は経腟分娩となる。またX線入口面像において骨盤入口面と児頭像とを比べる入口面法などがある。また分娩開始後の厳重な監視(内診,X線側面像)により診断される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「狭骨盤」の意味・わかりやすい解説

狭骨盤
きょうこつばん

分娩(ぶんべん)時に胎児が通過する骨産道が狭く、通常の大きさの胎児が通過できないことが多いものをいう。分娩の3要素である産道、胎児、陣痛は互いに関連があり、骨産道が狭いと児頭の回旋がうまく行われなかったり、陣痛も強くなりすぎたり微弱になったりする。骨盤骨折などが原因で、変形のために骨盤腔(くう)が一部狭くなっているものを除けば、骨盤腔が全体的に小さいものが多い。骨産道の上縁に相当する骨盤入口部の縦径である恥骨結合後面と仙骨上縁(岬角(こうかく))を結ぶ最短距離(産科的結合線)が9.5センチメートル未満か、横径の最大距離が10.5センチメートル未満の場合を絶対的狭骨盤といい、40~73%が帝王切開となる。この縦径が9.5~10.5センチメートルあるいは横径が10.5~11.5センチメートルの場合は比較的狭骨盤といい、約24%が帝王切開となる。一般に、身長の低い女性は骨盤腔も小さい。骨盤腔の広さを知るためには、X線撮影による骨盤計測が用いられることが多い。最近では、骨盤の大きさだけでなく、児頭の大きさも超音波断層法によって計測できるようになったので、児頭と骨盤腔の相対的な大きさを問題とする児頭骨盤不均衡という考え方がなされることが多い。児頭骨盤不均衡の有無は、骨盤計測と児頭計測のほか、分娩の進行ぐあいを観察する試験分娩によって判定されることが多い。

[新井正夫]


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家庭医学館 「狭骨盤」の解説

きょうこつばん【狭骨盤 Contracted Pelvis】

[どんな病気か]
 お母さんの身長が低い(一般には145cm以下)場合や、予定日近くなっても胎児(たいじ)が骨盤の中に降りてこない場合、陣痛(じんつう)があるのにお産が進まない場合などに、骨盤の大きさや形をみるためにX線写真を撮ることがあります。このX線写真の結果、正常な人と比べて骨盤が狭い場合を狭骨盤といいます。骨盤の狭さの程度により、狭骨盤と比較的狭骨盤(ひかくてききょうこつばん)に分類されます(図「狭骨盤の定義」)。
[治療]
 比較的狭骨盤の場合、経腟分娩(けいちつぶんべん)(正常にお産すること)が可能なこともありますが、一般的には、いつでも帝王切開(ていおうせっかい)(「特殊な分娩」の帝王切開術)ができる準備をしながら、お産に臨むことが多いものです。胎児の大きさやむき(さかごなど)によっては、お産が進まない可能性が高いので、そのときは帝王切開を行ないます。狭骨盤の場合は、帝王切開を行ないます。

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百科事典マイペディア 「狭骨盤」の意味・わかりやすい解説

狭骨盤【きょうこつばん】

小骨盤入口の径線の一部あるいは全部が正常値より短く,普通大の成熟児の分娩(ぶんべん)に支障をきたすもの。一般に真結合線は約11cmであるが,それ以下の場合をいい,程度によって4度に分ける。第1度は9cm以上,第2度は7cm以上9cm未満,第3度は5cm以上7cm未満,第4度は5cm未満。障害としては早期破水陣痛微弱,子宮破裂など。第3〜4度は帝王切開を要する。→骨盤

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「狭骨盤」の意味・わかりやすい解説

狭骨盤
きょうこつばん
contracted pelvis

骨産道の一部または全部の経線が平均値より短い場合をいう。大部分は原因不明で,佝僂病や幼時からの跛行でも起ることがある。胎児が小さければ自然分娩が可能であるが,通常は児頭が産道を通過できないため,帝王切開手術を行う。骨盤の大きさは普通でも,胎児が大きすぎれば同じ結果となるので,最近は,児頭骨盤不適合と呼ぶことが多い。

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世界大百科事典(旧版)内の狭骨盤の言及

【出産】より

…したがって仙骨が正常の凹湾でなく直線的あるいは膨隆する場合には分娩の障害になることがある。産科真結合線は岬角から恥骨結合後面に至る最短距離で平均11.5cmあり,これが9.5cm未満を狭骨盤,9.5cm以上10.5cm未満を比較的狭骨盤という。この産科真結合線は骨産道の最短前後径であるが,仙骨が直線あるいは膨隆する場合には闊部に最短前後径があって,闊部で容易に行われるはずの児頭回旋が行われなくなる。…

※「狭骨盤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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