( 1 )西周によって造られた訳語の一つと思われ、当初は①のように哲学用語として用いられた。
( 2 )哲学以外では、②のように明治一〇年代の終わり頃から文学理論を論ずる場で、「現実」に対する語として盛んに使用されるようになった。特に、明治二四年から翌二五年にかけての坪内逍遙と森鴎外との「没理想論争」は有名である。→没理想
通常は「現実」に対置され、現実には存在しない超越的な規範や価値をさす語として用いられる。理想主義はそうした理想を追求するが、その際何を究極の理想とするかによってさまざまな立場に分かれる。たとえば、個人としての人格の完成を理想とする立場は白樺(しらかば)派風の理想主義であり、社会の完全な調和を理想とする立場は、ヒューマニズムや社会主義のうちにみいだされる。現実を絶対視する現実主義や、絶対的な価値の存在を否定するニヒリズムは、理想を空虚な観念として退ける傾向があるが、しかし、現実にそのままの姿では存在しない理想の実現を求めるのは人間だけに固有の事柄であり、広義での文化の原動力といえる。動物は固定した与えられた現実の機構にだけ従って動くが、人間は自らが構想した非現実的な理想に従って自らの行動を律し、また文化的創造を遂げる。とくに芸術や宗教において、理想の果たす役割は大きい。
[宇都宮芳明]
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…〈理想ideal〉を実現の課題ないし目標とする立場で,現実主義,現在主義に対立する。アイデアリズムともいう。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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