琉球美術(読み)りゅうきゅうびじゅつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「琉球美術」の意味・わかりやすい解説

琉球美術
りゅうきゅうびじゅつ

今日の沖縄本島を中心とした琉球諸島で発達してきた美術。沖縄は近世には琉球ともよばれ、古代からさまざまな形で独自の優れた文化を形成している。しかし、その地理的条件から、日本はもとより、中国、朝鮮、南海諸島の影響を受けて、本土とは異なる文化相をもち、美術面でも独自の発展を遂げた。

 古代の氏族制が12世紀ごろ崩壊したあと、15世紀には三山(さんざん)の小国家を統一して第一尚(しょう)王朝が出現。これが交易で栄えた琉球王国の幕開きとなり、16世紀初頭には琉球文化の黄金時代を現出し、美術工芸の開花をみるに至る。琉球の明るい自然と風土は、染織、陶器漆器などの工芸品に多くの優れた作品を生んだほか、とりわけ石造建築や彫刻を伴う建造物に数々の名作をみた。これらはいずれもおおらかで温かいなかに、明るくたくましい民俗性を打ち出している。

[永井信一]

建築

石材が豊富なため、10~11世紀には特色ある石積みの城が各地で建造されたが、15世紀以降の尚王朝時代の建造物に優品が多く、様式も唐様(からよう)、天竺(てんじく)様、和(わ)様とさまざまで、ことに城や石橋に造形的な特色がある。しかし、第二次世界大戦でそのほとんどが破壊された。代表的なものに、首里城内守礼門(しゅれいもん)、歓会(かんかい)門、瑞泉(ずいせん)門、白銀門、正殿(せいでん)、首里円覚(えんかく)寺内の総門、那覇の沖宮(おきのみや)などがあった。

[永井信一]

彫刻

建築と並んで古くから石造彫刻が盛んで、建造物にも多く施された。15世紀前期の世持橋(よもちばし)高欄羽目(はめ)をはじめ、後期の玉陵(たまおどし)石獅子、高欄羽目、首里城歓会門と瑞泉門の石獅子のほか、尚一門の石棺群の彫刻は中国風を呈して、まさに石造美術の粋(すい)をなした。しかし、いずれも戦禍にあい、現存するものはきわめて少ない。

[永井信一]

陶器

浦添城趾(うらぞえじょうし)出土の高麗瓦(こうらいがわら)(13世紀初期)が最古とされる。15世紀中ごろに中国の瓦工が真玉橋邑(まだんばしむら)に瓦窯を築いたと記録にあるが、それまでは南方系の素焼が大半を占めた。16世紀初頭に入ると、喜名や知花(ちばな)の窯が王府により那覇の壺屋(つぼや)に集められ、17世紀初期に薩摩(さつま)から高麗人陶工を招いて朝鮮の陶法を習得した。続いて中国の赤絵の技法を取り入れるなど、南方系、中国系、朝鮮系、日本系と多様な焼物が壺屋で制作され、今日の壺屋焼の基となった。

[永井信一]

漆器

起源は明らかでないが、17世紀初頭に貝摺奉行(かいずりぶぎょう)所設置の記録があり、それ以前から制作されていたと推測される。16世紀末には螺鈿(らでん)、沈金(ちんきん)に佳品が多いが、技法はおもに日本から伝わり、ろくろ技術も日本の漆工が伝えたとされる。1715年(尚敬王3)には堆錦(ついきん)の技法が考案されたが、文様・意匠に地方色がある。

[永井信一]

染織

沖縄の代表的工芸として知られる紅型(びんがた)は、近世初頭に南方の更紗(さらさ)や日本の友禅(ゆうぜん)染めの影響を受けて発達したものといわれ、その前身は中国伝来の浦添型とされる。琉球王朝の高級衣料とされ、独特の模様と色調で知られる。慶長(けいちょう)の役(1597)以降のさまざまな歴史的背景のなかで、紅型が爛熟(らんじゅく)期を迎え華麗さを増すのは尚敬王時代(18世紀前半)である。今日、沖縄民芸を代表するものとして高く評価され、その伝統技術が伝承されている。

 織物では、古くからイトバショウやチョマの繊維で布地が織られた。木綿や絹は上流階級に用いられ、絹は14世紀末に中国から、木綿は17世紀初頭に薩摩から伝えられた。いずれも草木染めで、古くは地機(じばた)で織られた。各地域ごとに特色があり、首里の色絣(いろがすり)と紋織類、喜如嘉(きじょうか)の芭蕉布(ばしょうふ)、読谷(よみたん)村の読谷山花織(ゆんたんざはなおり)、久米(くめ)島の紬(つむぎ)、宮古(みやこ)や八重山(やえやま)の上布(じょうふ)などが著名である。

[永井信一]

『鎌倉芳太郎著『沖縄文化の遺宝』(1982・岩波書店)』『田辺泰・巌谷不二雄著『琉球建築』改訂版(1972・座右宝刊行会)』『京都国立近代美術館編『沖縄の工芸』(1975・講談社)』『今泉篤男・河北倫明監修『沖縄の工芸 伝統と現代』(1984・平凡社)』『鎌倉芳太郎著『琉球の織物』(1963・京都書院)』


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