国は環境基本法に基づいて、人の健康保護のため維持されることが望ましい基準を「環境基準」として設定している。幹線道路周辺の騒音に関する基準は1998年に改定され、昼間(午前6時~午後10時)の屋外は70デシベル以下、夜間(午後10時~午前6時まで)の屋外は65デシベル以下と定めている。70デシベルは「在来鉄道の車内」程度といわれている。
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人の健康を保護し、また生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい環境上の条件についての基準(環境基本法16条)をいう。この基準を達成するために、個々の排出源に対する排出規制、土地利用及び施設の設置に関する規制、公害防止に関する施設の整備、公害防止計画、環境影響評価(環境アセスメント)など各種の施策が講じられる。環境基準は、こうした環境行政の到達すべき目標であって、それ自体として公害発生源に対して法律的効果をもつものでもないし、また、住民との関係でも、この基準を超えると人の健康に有害になるといった最低限度を示すものでもないし、この限度まではがまんしなければならないという受忍限度の役割を果たすものでもない。ただ、公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることによって、この環境基準を確保する努力義務を政府が負うにとどまる。環境基準の設定は中央環境審議会の審議を経て閣議決定されたのち、環境庁告示によりなされるが、法令の形式はとらない。環境基準は、国民の権利義務に関係なく単に行政の目標に過ぎないためである。
現在までに設定された環境基準は、大気汚染、水質汚濁、騒音、土壌汚染に関するものである。大気汚染については、二酸化窒素、一酸化炭素、浮遊粒子状物質状物質、二酸化硫黄(いおう)、光化学オキシダントに関する基準が1973年(昭和48)に設定された。このうち二酸化窒素に係る環境基準は、1978年に1時間値の1日平均値0.02ppmが、0.04~0.06ppmに緩和された。これについてはいわゆるNOx(窒素酸化物)訴訟が提起されたが、環境基準は国民の権利義務を定めるものではないから行政訴訟の対象にならないとして門前払いとなった。1997年(平成9)にはベンゼン、トリクロロエチレンおよびテトラクロロエチレンによる大気汚染に係る環境基準が設定された。水質汚濁については、人の健康に係るものと生活環境に係るものとに分けて定められている。前者はシアン、トリクロロエチレン、アルキル水鉄など有害物質の基準が全国一律であるが、後者は河川、湖沼、海域について、それぞれ利用目的に応じて、水素イオン濃度(pH)、生物化学的酸素要求量(BOD)ないし化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、溶存酸素量(DO)、大腸菌群数の基準が別々に定められている。窒素、リンの環境基準は富栄養化に対応するために湖沼と一定の海域について設定されている。1997年には地下水の水質汚濁に関する環境基準が設定された。騒音については、地域類型別、時間帯別に基準値が当てはめられており、道路に面する地域については特別の基準が設定されている。航空機騒音と新幹線騒音については特別の基準がある。土壌の環境基準は1991年に設定され、原則として農用地を含むすべての土壌を対象に、カドミウム、シアン、有機リンなど25項目がある。1999年7月に成立したダイオキシン類対策特別措置法により、ダイオキシンについての環境基準が大気、水、土壌について設けられた。
[阿部泰隆]
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人の健康を保護し,生活環境を保全するうえで維持することが望ましい基準。〈環境基本法〉16条で,〈政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする〉と規定されている。政府,自治体などが公害の防止に関する対策を講ずる際の目標となるものであり,人の健康保護に関するもの,生活環境保全に関するものの2種類がある。
騒音に係る環境基準は,生活環境の保全に関して,一般騒音のほか,航空機騒音および新幹線騒音について定められている。また,大気環境基準では,人の健康保護に関して,二酸化硫黄,粒子状物質,一酸化炭素,光化学オキシダントおよび二酸化窒素についてその基準値が定められている。水質環境基準は,人の健康保護に関して,公共用水域のカドミウム,シアン,鉛,クロム(6価),ヒ素,総水銀,アルキル水銀およびPCBなど23項目の物質について定められており,生活環境の保全に関しては,河川,湖沼,海域ごとに,利用目的などに応じて設けられた水域類型について,生物化学的酸素要求量(BOD),化学的酸素要求量(COD),溶存酸素(DO)などの項目について,定められている。
環境基準は,その時点において集積された科学的知見を基礎として,技術的・経済的実行の可能性と,それに伴う費用-便益関係を考慮して,政府の行政判断として決定され,本来,行政の努力目標であって法的拘束力をもたない。ただし地方自治体などが実施するばい煙総量削減計画などでは,大気汚染防止法によって環境基準を確保することが規定されており,法的拘束力を生ずる。環境基準は,それが決められた時点における最善の科学的知識を基礎として決められるものであるが,科学的知見は必ずしも十分でない場合が多く,また,国民の健康の保護をどのような水準で考えるかは,その時代の健康観によっても判断が分かれる。このため,〈環境基本法〉では,基準についてはつねに適切な科学的判断が加えられ必要な改定がなされなければならないと規定している。
執筆者:中島 泰知
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,および騒音にかかわる環境上の項目について,ヒトの健康を保護し,生活環境を保全するうえで維持されることが望ましいとして,政府が環境基本法第16条で定めた基準をいう.大気汚染に関しては,二酸化硫黄,浮遊粒子状物質,一酸化炭素,二酸化炭素,光化学オキシダントなどの9物質について,水質汚濁に関しては,カドミウム,シアン,有機水銀,PCBなどの量が,生活環境の保全に関しては,河川,湖沼,海域の水域ごとに,利用目的に応じて pH,BODまたはCOD,溶存酸素量(DO),大腸菌群数などについて,騒音に関しては,地域や時間ごとに基準値が定められている.公害対策を進めていくうえでの行政上の目標として定められたものであり,直接,工場などのばい煙や廃水,騒音の発生を規制する規制基準とは異なる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(杉本裕明 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…水を利用する際の適合性の判定となる基準。人が水を利用する形態によって水質基準の内容は違ってくるが,日本では,公共水域の水質は環境基本法により定められており,その内容は,人の健康保護に関する環境基準と生活環境の保全に関する環境基準の二通りの規制となっている。公共水域の水質保全があらゆる水利用の共通基盤となることから,このような二通りの規制がとられているのである。…
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