高徳の僧または慈悲深い人を指す場合と,生けるがごとき仏像を指す場合とがある。高徳の僧の場合は持戒堅固であることが生仏の第一条件で,〈せぬは仏,かくすは上人〉などともいわれた。笠置山の貞慶(じようけい)(解脱上人)や栂尾山の高弁(明恵(みようえ)上人)などは,その持戒堅固のゆえに生仏といわれた高僧である。また修験の験力がすぐれているために生仏といわれた僧もあり,一乗寺僧正増誉(ぞうよ)(聖護院開山)と三室戸(みむろと)僧正隆明(りゆうみよう)は験力がすぐれ,〈此二人おのおのたふとくて,いきぼとけなり〉(《宇治拾遺物語》巻五)といわれた。しかしそうかといって完全無欠な人格であったというわけではない。慈悲深い人,柔和で怒らぬ人もよく生仏のような人といわれるが,遊女を生仏とする思想もある。《撰集抄》巻五の性空(しようくう)上人と室(むろ)の遊女の物語がそれで,遊女は生身(しようじん)の普賢菩薩であったという。仏像に対しても人肌の観音とか生身の大日といって,生仏とすることがある。
執筆者:五来 重
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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