有性生殖をする生物に備わっている生殖のための器官。生殖器、性器などともいう。ヒトを含む動物の生殖器官には、配偶子(生殖要素)である卵(卵子)や精子をつくる生殖腺(せん)、配偶子を体外に運ぶ生殖輸管(生殖管)とその付属腺(付属生殖腺)および外部生殖器(交接器)が含まれる。また、植物においては、花、配偶子嚢(のう)などが生殖器官である。
[木村武二]
ヒトの生殖器官は一般に「性器」とよばれることが多いので、その形態的な詳細については別項「性器」を参照されたい。本項ではヒトの生殖器官について、その機能のうちもっとも重要なホルモンとの関係を中心に論述する。
男性の生殖器官は、精巣(睾丸(こうがん))、副睾丸(精巣上体)、輸精管(精管)、貯精嚢(精嚢)、前立腺などの内部生殖器(内性器)と、陰嚢、陰茎の外部生殖器(外性器)からなる。男性ホルモンは、それらのうち精巣内にある精細管(精子はここで産生される)の周囲を埋める間細胞(間質細胞、ライディッヒ細胞)から分泌される。その分泌は、下垂体の生殖腺刺激ホルモンに依存し、精子形成は男性ホルモンおよび生殖腺刺激ホルモンに依存するので、生殖腺刺激ホルモンの分泌が不足すると男性の性機能は支障をきたす。生殖腺刺激ホルモンは春機発動期(思春期)にその分泌が活発になり、性成熟がおこる。
一方、女性の生殖器官は、卵巣、輸卵管(卵管)、子宮、腟(ちつ)などの内部生殖器と、陰核、陰唇(小陰唇と大陰唇)、および腟前庭などの外部生殖器に分けられる。このうち、とくにホルモンとの結び付きがよく知られているのは卵巣と子宮である。卵巣内の卵胞は、卵細胞を小さな細胞が取り囲んだもので、発達すると胞状になり卵胞液を蓄えるようになる。このような卵胞をグラーフ卵胞という。卵胞は生殖腺刺激ホルモンに刺激されて発達し、ある程度に達すると女性ホルモンの一つである発情ホルモン(エストロゲン、卵胞ホルモンともいう)を分泌する。発情ホルモンは他の女性生殖器官を発達させるとともに、生殖腺刺激ホルモンの大量分泌を誘発し、それが引き金となって卵胞は破れ、卵細胞は卵巣の外へ出される。これが排卵とよばれる現象である。排卵後の卵胞は変化して黄体をつくり、黄体ホルモンを分泌するようになる。黄体ホルモンは、先に発情ホルモンによって刺激されていた生殖器官をさらに発達させる。とくに子宮の内壁は黄体ホルモンによって著しく肥厚するが、黄体が退化すると内壁は脱落し出血がおこる。これが月経である。月経周期は生殖腺刺激ホルモンと卵巣の変化、それに伴う女性ホルモン分泌の周期的変化の反映であり、排卵を境にして前後に、卵胞の発達する期間と黄体の活動する期間が、それぞれ2週間ほどあるため、通常約28日ごとに月経がおこる。
子宮以外の生殖輸管、および外部生殖器はいずれも女性ホルモンによって発達し、維持されているので、女性ホルモンの欠損は性機能に重大な支障をきたす。また女性ホルモンの分泌や卵胞の発達、排卵、黄体形成などはいずれも下垂体の生殖腺刺激ホルモンに支配されているため、このホルモンの分泌の変調も月経不順や無排卵症などを引き起こす。
また生殖器官は、男女いずれの場合も外界と連絡しているため、細菌などの感染を受けやすく、とくに交接による伝染がおこりうることに注意する必要がある。生殖器官の発達をホルモンが支配していることと関連して、子宮や前立腺の良性、悪性の腫瘍(しゅよう)の原因にもホルモンが関係していると思われる例は多く、ホルモンと発癌(はつがん)の関係が種々論じられている。
男女の生殖器官には、成体では明瞭(めいりょう)な差があるが、発生の初期には差がなく、生殖腺も最初は同じ部域から発生し、遺伝的に決定した性によって精巣、卵巣のいずれに分化するかが決定する。またその他の内部生殖器についても、最初はミュラー管、ウォルフ管の両方が存在し、前者が子宮に、また後者が輸精管に分化する能力をもっているが、どちらが残るかは生殖腺がどちらになるかで定まることが知られている。これらのことを総合すると、個体は初め男女どちらにも分化しうる形をとるが、遺伝的な影響とホルモンの影響とによってどちらかの性に分化するように方向づけられると考えるべきである。
[木村武二]
脊椎(せきつい)動物の生殖器官は、卵生、胎生の違いなどもあって形や機能に差はあるが、基本的にはヒトの生殖器官と同様で、雌性および雄性生殖器官が区別される。また、ホルモンの関与の仕方にもヒトと共通な部分が多い。ただし、月経周期はヒト以外ではサルにのみみられ、他の哺乳(ほにゅう)類ではこれとは異なる形の周期(発情周期といい、月経周期をも含めて性周期と総称する)が存在する。しかし性周期が雌固有のものであり、生殖腺刺激ホルモンの分泌の周期性によるものである点はヒトと共通である。性周期が雌に存在し雄に存在しないのは、発生の、ある特定の期間に性ホルモンの分泌があるかないかで決定されることが確認されている。すなわち、雄ではその期間に性ホルモン分泌があるため性周期がなくなるのである。
なお、無脊椎動物の生殖器官は、脊椎動物とは発生的にも形態的にも甚だしく異なっているものが多い。また、生殖様式の違いによって、グループごとに特有な生殖器官を有することが多く、脊椎動物ほどはまとめて論述しがたいといえよう。
[木村武二]
動物に比べて、植物の生殖器官はそれほどはっきりしていない。胞子や配偶子を生殖細胞としてまとめるならば、シダの胞子嚢や、種子植物の花は生殖細胞を含む生殖器官と考えられるが、別の見方をすれば、花は生殖のためのシュート(植物の成長単位)とも考えられる。元来、植物では個体という概念が動物に比べて明確でないので、生殖器官についても動物と同列に論ずることはむずかしく、またとくにその必要もないとも考えられる。
[木村武二]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…生殖器(生殖器官)reproductive organのことで,有性生殖を行うための器官であるが,ヒトでは性器という場合が多い。以下,ヒトの性器について述べる。…
…なお,有性生殖を行うものに雌雄同体の種類と異体の種類とがあるが,後者の種類の中には自然条件で性転換を行う種類もある。【石居 進】
[生殖器官reproductive organs]
狭義には有性生殖を行うための器官。植物の場合,胞子囊と配偶子囊,それを中心とする器官を総称する。…
※「生殖器官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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