日本大百科全書(ニッポニカ) 「生理的落果」の意味・わかりやすい解説
生理的落果
せいりてきらっか
開花直後の花や果実が風や雹(ひょう)、凍霜害などの物理的障害や病害虫、農薬害、あるいは成熟によっておこる以外の理由で落下することをいう。この落果は果樹の種類によって特定されるが、果梗(かこう)(果物のつく柄(え))基部、同先部のへたとの接点、へたや萼(がく)と果実との接する部位などに形成される離層によっておこる。生理的落果は大別して早期落果と後期落果の2回からなる。
早期落果は、果樹によって異なるが、開花直後から2~3回の波をもって現れる。たとえばリンゴでは、第1回目は開花直後から始まって2~3週間続き、その後数日たって第2回目が始まり、2~4週間続く。アメリカではこの2回目の落果は6月ごろ現れるためにジューン・ドロップJune dropとよばれる。早期落果はモモ、アンズ、ウメ、スモモなどの核果類や、柑橘(かんきつ)類、カキ、クリなどにも多くみられる。この原因としては次のようなことが考えられる。雌しべが不完全あるいは不受精による単為結果などの場合には開花後早々に落果する。また果実の発育途中での落果は、胚(はい)の発育停止、種子数の不足、同化養分の不足や、窒素過多または不足、乾燥などにもよるものと考えられ、ジューン・ドロップの類はこれである。後期落果は収穫前落果ともいい、収穫期の間近にみられ、リンゴ、柑橘類、カキなどに多い。落果は植物ホルモンの量と関係があり、オーキシン、サイトカイニンの含量が低く、エチレンの生成、アブシシン酸の含量が多いときにおきやすい。
生理的落果は一面では果樹自体の自己調節作用ともみることができる。落果が少なすぎると樹体が弱り隔年結果を招き、多すぎると栄養成長が盛んとなり徒長ぎみになる。これを防ぎ目的にかなった収穫を行うためには、摘果または落果の防止を行う。早期落果の防止には、人工授粉による確実な結果結実促進、尿素の葉面散布による窒素の補給、速効性液肥施用、摘果による適正果実数への調整などがあり、後期落果の防止には、リンゴやミカン類では2,4,5-TP(シルベックスsilvex。雑草除去剤、害虫防除剤)、カキやワシントンネーブルではジベレリンなどの散布が行われる。
[飯塚宗夫]
『山崎利彦・福田博之・広瀬和栄・野間豊編著『果樹の生育調節』(1989・博友社)』▽『岡本五郎著『果実の発育とその調節』(1996・養賢堂)』