あらゆる経済活動の基礎をなす財の生産は,労働する主体である人間と客体である労働条件(自然)との間の物質代謝の過程である。この生産過程において主体的な要因をなす人間の労働力に対し,機械や原料などの客体的な諸要素はすべて生産手段として一括される。
これらの生産手段は,労働によって変形されて人間の使用に適合した形を与えられる素材としての労働対象と,労働がそれをつかって労働対象に合目的的に働きかける労働手段,そしてそれらのいずれにも入らない燃料や電力などの補助材料に分類される。そのうち労働対象には,採取される魚介類や鉱物などのように天然に存在する〈資源〉と,すでに労働によって加工された素材としての〈原料〉とがある。また労働手段は,一般には道具や機械などに代表されるが,広く土地や道路などの労働の遂行に必要な諸条件も含めて考えなければならない。
生産手段は,財の生産のために生産過程で消費されるものとして,消費者の個人的な生活のために消費される消費手段(生活資料)と区別される。それゆえ何が生産手段であり何が消費手段であるかは,財の素材的な性質による区分ではなく,それらがどのように消費されるかにもとづく区分ということになる。同じ使用価値をもつ財でも,生活のために個人的に消費されれば消費手段であり,生産過程で生産的に消費されるかぎりでは生産手段ということになる。たとえば石油は,工場で化学製品の原料となる場合には生産手段であるが,家庭で暖房用に消費される場合には消費手段なのである。
ところで,こうした生産手段がどのような所有関係のもとにおかれているかによって,地域的あるいは歴史的に異なるそれぞれの社会に特有な,財の生産と分配の様式(生産様式)が規定される。資本主義社会においては生産手段は資本という形態を与えられ,市場で商品として購入された労働力と結合されることによって,資本家に利潤をもたらす。
執筆者:小池田 冨男
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人間の生活に必要な財貨の生産に役だち、生産的消費の対象となるものをいう。消費資料が人間の個人的消費の対象となるのに対して、生産手段は生産過程で生産的に消費される。生産手段は労働力とともに労働過程にとって不可欠な要素となる。ところで、生産手段と消費資料とを区別するものは財貨の性質ではなく、財貨が消費される仕方である。生産手段は労働対象と労働手段とからなるものであって、労働対象は労働主体が労働する対象であり、土地・森林・自然的資源などまだ人間の労働によって加工されていないものだけでなく、すでに労働によって加工された原材料を含む。労働手段はこの労働対象に対して行われる人間労働を媒介するものであり、労働の伝達体として役だつ。この労働手段のうち道具や機械などは生産の筋骨体系とよばれ、管・籠(かご)・桶(おけ)など労働対象の容器となる生産の脈管系統と区別される。また、生産に使われる工場、倉庫、道路、運河なども労働手段のうちに含まれる。生産手段のうち労働手段は労働対象とは違って生産過程で積極的な役割を果たすところから、近年生産手段とは別に生産用具と名づけられ、それと労働力が生産力の構成要素であるといわれている。階級社会において階級を区別するものは生産手段の所有関係である。資本主義社会で生産手段を所有するのは地主・資本家階級であり、労働者階級は労働力を所有するが生産手段を所有しない。
[藤田勝次郎]
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…Wと価値の大きいW′とをつなぐ途中の〈…〉がすべてPつまり生産過程だという意味である。WからW′へのあいだに生産が行われるのであるから,W′は生産物でありWはそれを生産できるような特別な商品でなくてはならず,それは生産手段と労働力であることが必要である。こうして初めのG―Wが可能なためには生産手段が売りに出ているばかりでなく,労働力の売手が不可欠なことが明らかになる。…
…すなわち,それは使用権,処分権,契約権を内容とする,財貨に対する排他的,絶対的権利として社会的に承認されるのだが,それはほとんどあらゆる財貨が市場的交換の対象となる,つまり商品となるという経済的関係のいわば法的表現なのである。 ところで一般に,私有財産の対象たる財貨は生活手段(消費に供する財)と生産手段(機械,道具,土地など生産に供する財)からなるが,財産制度の歴史的形態という観点から重要なのは,生産手段の所有形態である。というのは,生産手段は人間労働がそれに作用して社会的生産物を形成する要因であり,それゆえ生産手段がどのように支配されるかによって,生産的労働の形態(生産関係あるいは分業形態)が決定されるだけでなく,同時に生産の大きさ(生産力)も決定されてくるからである。…
※「生産手段」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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