産褥熱(読み)サンジョクネツ(その他表記)Puerperal Fever

デジタル大辞泉 「産褥熱」の意味・読み・例文・類語

さんじょく‐ねつ【産×褥熱】

産褥期に起こる発熱性の感染症分娩ぶんべんの際に生じた傷に細菌感染して起こる。

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精選版 日本国語大辞典 「産褥熱」の意味・読み・例文・類語

さんじょく‐ねつ【産褥熱】

  1. 〘 名詞 〙 分娩中または産褥中に、分娩時にできた性器の傷から細菌が侵入して高熱を出す病気。性器のごく一部分の炎症や潰瘍で終わる軽いものから、膿毒症敗血症を起こす重症のものまである。
    1. [初出の実例]「とめは初産の時、産蓐熱(サンジョクネツ)で死んだ」(出典:ながし(1913)〈森鴎外〉)

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家庭医学館 「産褥熱」の解説

さんじょくねつ【産褥熱 Puerperal Fever】

[どんな病気か]
 子宮内の胎盤(たいばん)の剥離面(はくりめん)をはじめ、分娩(ぶんべん)によって生じた傷に細菌が感染し、産後24時間以降から10日以内に、38℃以上の熱が2日以上続いた場合をいいます。現在では、分娩管理や抗生剤の進歩により、著しく少なくなりました。
[症状]
 もっとも多い子宮内感染(産褥子宮内膜炎(ないまくえん))の場合では、産後3~4日ごろに、発熱、下腹部痛、子宮の圧痛をきたし、悪露(おろ)(産褥期の注意すべき症状と対策の「産褥期のからだの変化」)に悪臭があり、子宮復古不全(しきゅうふっこふぜん)がみられます。さらに重症になると、敗血症(はいけつしょう)(「敗血症」)のような生命にかかわる状態となります。
[検査と診断]
 血液検査が行なわれますが、産褥4日目ごろまでは、分娩の生理的影響を受けるので、判定が困難です。また、悪露、膿(うみ)、血液について、細菌の培養検査が行なわれます。
 産褥熱は、その症状から診断は比較的容易ですが、乳腺炎(にゅうせんえん)(「急性うっ滞性乳腺炎」)、腎盂炎(じんうえん)(「腎盂腎炎(腎盂炎)」)、手術による傷あとの感染などと鑑別する必要があります。
[治療]
 全身、あるいは局所を安静にして、抗生剤や消炎剤を使用します。悪露がたまっている場合は、子宮の出口を拡張させ、子宮収縮剤を使います。子宮内に胎盤などが残っている場合には、十分な抗生剤を使用したうえで、子宮内掻爬(そうは)(子宮内容物の除去手術)が行なわれます。

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百科事典マイペディア 「産褥熱」の意味・わかりやすい解説

産褥熱【さんじょくねつ】

出産後,胎盤が剥離(はくり)した後の子宮壁,産道などの傷面からの細菌感染による創傷熱。主としてグラム陰性杆(かん)菌により,その他グラム陽性球菌,嫌気(けんき)性菌などによる。ふつう出産後3〜4日目から38℃以上の発熱が続き,腹膜炎,敗血症などを起こすこともある。出産後の性器は細菌の侵入が容易なので,消毒を厳重にして感染を予防する必要がある。最近は抗生物質の発達により悪質なものは減少した。→産褥
→関連項目ゼンメルワイス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「産褥熱」の意味・わかりやすい解説

産褥熱
さんじょくねつ
puerperal fever

出産によって生じた,産道や子宮腔内の創傷が細菌に感染して引き起こされる発熱。直接の感染症と,間接の産褥創傷中毒症との2型,あるいはその混合型がある。 1847年~49年ハンガリーの産科医イグナス・P.ゼンメルバイスが,臨床観察から産褥熱が接触感染で起こることを推定,医師や助産師に塩化カルシウム液で手指消毒を行なわせることによって発病率 (死亡率) を 10分の1に減らした。それまでは,産婦の少なくとも3%以上は産褥熱で死亡していた。その後,消毒の普及,20世紀初頭の病原体の確認,次いでサルファ剤や抗生物質の出現によって現在ではまれな病気となっている。

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世界大百科事典(旧版)内の産褥熱の言及

【産褥】より

…この体温上昇は,分泌物などが血中に吸収される際の一種の吸収熱と考えられる。38℃以上の発熱はすべて病的なものとみなすべきで,産褥熱(分娩時にできた創傷から細菌が侵入して起こる熱性疾患)に注意する。また尿路系や乳腺の感染症に留意する。…

【ゼンメルワイス】より

…ハンガリーの医師。ブダに生まれ,ウィーン大学を1844年に卒業,同年から5年間同大学産科学教室助手として勤務したが,その間47年に産褥(さんじよく)熱を予防するには塩化石灰水で手を洗う方法がきわめて有効であるという説を発表した。彼の着眼点は,それから20年後の67年に初めて石炭酸包帯法と噴霧法とを外科手術に応用して,のちに消毒法の生みの親として知られるようになったリスターのそれとまったく同じであったのだが,当時の学界では,それがもつ意味を理解できたものはほんの数人で,ついに公認されなかった。…

※「産褥熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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