田中義一首相が対満蒙政策について天皇に上奏したものと喧伝された文書。1929年12月中国南京で発行されていた《時事月報》に,東京で入手し中国文に訳したという〈田中義一上日皇之奏章〉と題する文書が掲載された。これは1927年の東方会議の決定にもとづいて,満蒙の征服・経営の方策を,内外蒙古への軍人スパイの派遣,鉱山の獲得,朝鮮人の移住,鉄道の建設,満蒙特産品の専売など,全21項目にわたって具体的に述べ,27年7月25日付で田中首相から上奏したものとされていた。この文書は内容上の誤りが数多くあり,形式上も上奏文に反していて,今日では文書自体は偽書と認定されている。しかし発表当時は日本の中国侵略の企図を暴露するものとして中国に衝撃を与え,国際的にも疑惑の的となり,またその後の実際の日本の行動がこの文書とあまりにも合致していたため,極東国際軍事裁判でも問題となった。
執筆者:江口 圭一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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