家庭医学館 「甲状腺がん」の解説
こうじょうせんがん【甲状腺がん Thyroid Cancer】
[どんな病気か]
甲状腺(こうじょうせん)には腺(せん)がん(乳頭腺(にゅうとうせん)がんと濾胞腺(ろほうせん)がん)、未分化(みぶんか)がん、髄様(ずいよう)がん、悪性(あくせい)リンパ腫(しゅ)(「悪性リンパ腫」)といったがんが発生します。このなかでは、発育の遅い腺がん、なかでも乳頭腺がんが圧倒的に多く、濾胞腺がんを含めると、甲状腺のがんの90%は腺がんです。
甲状腺のがんは、ほかの部位のがんと比べて、若い人に多くみられるのが特徴です。
腺がんは40歳代にもっとも多くみられ、ついで30歳代、20歳代の順になっています。10歳代に発生することもあります。
男女比は、1対5~7で、圧倒的に女性に多い病気です。ただし、悪性度の高い未分化がんだけは、50歳以上の人に多くみられ、男女ほぼ同数です。
[症状]
まったく症状の現われないこともありますが、くびの圧迫感があったり、声がかれるなどの症状が、かなりの患者さんにみられます。
未分化がんの場合は、呼吸困難、ものを飲み込みにくい、体重が減る、疲れやすいなどの症状もおこってきます。
[検査と診断]
通常、甲状腺のはたらきは正常で、血液中の甲状腺ホルモンの量を調べても異常はみられません。
そのほかの血液検査でも、異常を示すことはほとんどありません。しかし、未分化がんの場合には、白血球(はっけっきゅう)数の増加と血液沈降速度(けつえきちんこうそくど)(赤血球(せっけっきゅう)沈降速度)の増加がみられます。
●画像診断
比較的やわらかい組織も写す頸部(けいぶ)の軟(なん)X線撮影(せんさつえい)、超音波検査、放射性同位元素を使った甲状腺のシンチスキャン、CTスキャン、水分などのかすかな磁力を利用して画像をえるMRI検査などの方法があります。
これらの検査では、腫瘤(しゅりゅう)があることはわかっても、良性か悪性かの診断はできません。
ただし、乳頭腺がんの場合は、頸部軟X線撮影によって、砂粒腫小体(さりゅうしゅしょうたい)と呼ばれる、石灰が甲状腺組織に沈着した特有の陰影がみられ、診断がつきます。
●血中腫瘍(けっちゅうしゅよう)マーカー(「腫瘍マーカー」)
体内に腫瘍ができると、血液中にある種の物質が増えることがあり、このような物質を腫瘍(しゅよう)マーカーと呼び、腫瘍をみわける手がかりにしています。
たとえば、甲状腺髄様(ずいよう)がんでは、血液中にカルシトニンや、CEAという物質が増加します。
また、甲状腺腺がん、とくに濾胞腺がんができると、血中にサイログロブリンが増えます。しかし、サイログロブリンは、良性腫瘍(りょうせいしゅよう)である甲状腺腺腫やバセドウ病などでも増加します。
このように、腫瘍マーカーだけからでは、がんと診断を確定することができません。
しかし、治療後の経過をみたり、がんの再発や転移の有無を確認するには役立ちます。
●甲状腺針生検(こうじょうせんはりせいけん)
甲状腺のがんの診断を確定するために、針を刺して腫瘍の組織や細胞をとり、顕微鏡で調べるという、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)がよく行なわれます。
◎手術で治ることが多い
[治療]
悪性腫瘍(あくせいしゅよう)では、一刻も早く診断を確定し、手術など、適切な治療を開始することがたいせつです。
●手術療法
腺(せん)がん、髄様(ずいよう)がん、悪性(あくせい)リンパ腫(しゅ)などでは、手術をして、腫瘍ができている甲状腺を全部摘出します。
手術は、全身麻酔のもとに行なわれ、3~4週間の入院が必要です。
●そのほかの治療法
腺がんでは、放射性ヨード(131I)療法が行なわれます。ヨードは甲状腺がんの部分に取り込まれ、放射線を出して細胞を破壊するため、効果が期待できるのです。
そのため、とくに腺がんで転移のみられる場合、甲状腺をすべて摘出した後に、放射性ヨードの内服を行ない、甲状腺由来のがん細胞が破壊されることを期待します。その後、甲状腺ホルモン(T4)剤の内服を続けます。
未分化がんでは、放射線療法や、抗がん剤による薬物(化学)療法が中心になります。
悪性リンパ腫では、手術療法のほかに、放射線療法が行なわれることもあります。
●治療を受けるときの注意
がんでは、早期診断、早期治療が必須です。少しでも甲状腺がんが疑われるときには、内分泌(ないぶんぴつ)、とくに甲状腺の専門医を受診してください。
放射性ヨード療法を受ける場合は、治療の2週間前から、ヨードを含む食品の摂取を厳重に制限する必要があります。海藻など、ヨードを含む食物や薬剤は、絶対にとらないようにしてください。
また、放射性ヨード療法では、放射線が胎児(たいじ)に影響をあたえる可能性があるので、妊娠は絶対に避けてください。
甲状腺をすべて摘出すると、甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)(「甲状腺機能低下症とは」)になります。このため、甲状腺ホルモン剤を、毎日欠かさず生涯にわたって、服用し続けなければなりません。
その後の経過が良好でも、年に2~3回は、定期的に診察を受けましょう。
[予防]
甲状腺のがんの約90%を占める腺がんは、発育がきわめて遅いものです。そのため、一刻も早く手術して摘出すれば、ほぼ完全に治ります。
このように、甲状腺がんは、がんといっても、後の経過がよい病気です。
ただ、未分化がんだけは、治療をしても大半は6か月以内に死亡するという、非常に悪性の病気です。