近代以前の日本の病名で,当時の医学水準でははっきり診別できないまま,疼痛をともなう内科疾患が,一つの症候群のように一括されて呼ばれていた俗称の一つ。単に〈疝〉とも,また〈あたはら〉ともいわれ,平安時代の《医心方》には,〈疝ハ痛ナリ,或ハ小腹痛ミテ大小便ヲ得ズ,或ハ手足厥冷シテ臍ヲ繞(めぐ)リテ痛ミテ白汗出デ,或ハ冷気逆上シテ心腹ヲ槍(つ)キ,心痛又ハ撃急シテ腸痛セシム〉とある。江戸時代の《譚海》には,大便のとき出てくる白い細長い虫が〈せんきの虫〉である,と述べられているが,これによると疝気には寄生虫病があった。また〈せんき腰いたみ〉という表現もよくあり,腰痛を示す内臓諸器官のさまざまの疾患も含まれていた。疝気には,今日の医学でいうところの疝痛を主症とする疾患,たとえば寄生虫病,腹部・下腹部の内臓諸器官の潰瘍や胆石症,ヘルニア,睾丸炎などの泌尿性器系の疾患,それに婦人病などが含まれ,とくにその疼痛は寒冷によって症状が悪化すると考えられていた。
執筆者:立川 昭二
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…当時は野菜や食器・手などを十分に洗浄するような衛生観念もなく,また漬物を多食していたことも災いした。 江戸時代には寄生虫病は〈あだはら〉とも呼ばれ,疝気(せんき)という内科疾患には寄生虫病が多かった。江戸末期の《新撰病双紙》には,蟯虫病に悩む娘と,生のマスを食べてコウセツレットウジョウチュウ(広節裂頭条虫)が肛門から出ている男の姿が描かれている。…
※「疝気」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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