改訂新版 世界大百科事典 「発酵槽」の意味・わかりやすい解説
発酵槽 (はっこうそう)
fermenter
微生物を培養し,菌体や代謝産物を生産するための装置。代表的なものはたて型円筒通気かくはん槽で,容量は数十lから400kl程度の大型のものまであり,材質は普通鋼やオーステナイト系ステンレス鋼などが用いられる。実験室的な小規模のものをジャーファーメンターとよぶ。内部には通気用スパージャー(単一孔型,リング型,放射状型など),じゃま板,かくはん翼(櫂(かい)型,プロペラ型,タービン型など)や冷却用コイル,微生物接種口,サンプリング口,培養液の送入口,排出口などが備えられているほか,温度,pH,溶存酸素などの測定・自動制御装置,消泡装置を備えているものが多い。付属設備として培地調製槽,空気圧搾機,除菌ろ過機があり,大型の場合は1段小型の種菌培養槽が付属しているのが普通である。
まず加圧水蒸気によって装置全体の予備殺菌を行った後,原料を投入して蒸気を直接吹き込むか,コイルによる間接加熱によって培地を蒸煮殺菌する。槽が大型の場合は原料を別の殺菌装置で蒸煮殺菌する。冷却後,種菌を接種して温度,pHを制御しつつ,適当な通気,かくはんを行い,発酵が終われば次の生産物回収工程に送られる。一般に発酵工業では,雑菌の汚染を防ぐことが重要で,装置および培地の殺菌,通気空気の除菌,装置継手類,シールの完備,無菌的操作に十分注意する必要がある。酸素供給,消泡,動力消費の効率化のため各種の発酵槽が考案されており,槽内に円筒ドラフトを設け,特殊なディスクかくはん翼を用い,高い酸素供給能と消泡効果をもつワルドホフ型発酵槽と,パイプ中に空気を吹き込んで培養液とともに上昇せしめ,酸素供給と培養液の循環を効率よく行うエアリフト型発酵槽がある。設備の効率を高めるため,発酵槽に培地を一定量連続的に供給しつつ培養液を取り出し,槽内を定常状態に保つことによって連続培養を行うことができる。収率を高めるため槽を直列にいくつかつなげる必要があるが,塔を多孔板で仕切り,培養液と空気を下部から導入して仕切板を通過させながら上部へ導き,全体として多槽式連続培養を行う段塔型発酵槽も考案されている。
執筆者:蓑田 泰治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報