内科学 第10版 「白血球増加症」の解説
白血球増加症(総論(白血球系疾患))
白血球数が10000/μL以上に増加した状態を白血球増加症(leukocytosis)という.白血病などの造血器疾患を除けば多くの白血球増加症は反応性であり,その基礎疾患を鑑別することが重要である(表14-10-3).増加する白血球の種類により,好中球増加症(neutrophilia),好酸球増加症(eosinophilia),好塩基球増加症(basophilia),単球増加症(monocytosis),リンパ球増加症(lymphocytosis)に分類される.
a.好中球増加症(neutrophilia)
概念
末梢血好中球数が7500/μL以上を好中球増加症といい,腫瘍性と反応性に大別される.
病態生理
末梢血における好中球増加の機序として以下のものがあげられる. ①骨髄での好中球産生亢進,②骨髄から末梢への流出の亢進,③辺縁プールから循環プールへの移動の亢進,④末梢血から組織への移行の低下,⑤腫瘍性増殖.
慢性骨髄性白血病などでは骨髄での産生亢進,副腎皮質ステロイドの使用や感染症では末梢血への流出の亢進が考えられる.また,アドレナリン使用時には辺縁プールから循環プールへの移動の亢進が主たる機序であるが,これらの複合的な要因も考えられる.
原因
好中球増加症をきたす原因は多岐にわたる(表14-10-3).一般には急性感染への炎症反応を反映し,左方移動を伴い好中球が増加する.ウイルス感染の場合は好中球増加を伴わない場合もあり,また重篤な細菌性感染症の場合はむしろ好中球が減少することもある.急性炎症や疾患が存在しない場合は,①副腎皮質ステロイド,アドレナリンなどの薬剤の使用,②G-CSF,インターロイキンなどの好中球産生因子をコードする遺伝子を不適切に発現する悪性腫瘍の存在,③骨髄増殖性腫瘍(MPN)などの血液疾患の存在を考える.
鑑別診断
白血球増加症をみた場合,白血球分画を調べ増加している白血球の種類を明らかにする.次に,反応性増加か腫瘍性増加を鑑別することが重要である(図14-10-3).腫瘍性増加の場合は,骨髄検査を行うことで鑑別は容易であることが多い.骨髄増殖性腫瘍では白血球系のみならず,赤血球系,血小板系の異常がみられることが多く,急性白血病や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)では赤血球が減少して貧血を示し,血小板数も減少することが一般的である.また,反応性好中球増加症では好中球アルカリホスファターゼ(NAP)活性が正常ないし増加するのが一般であるが,慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)では低下する.反応性増加を示す原因は,病歴ならびに身体的所見より各種感染症,炎症性疾患,アレルギー性疾患を鑑別する.そのうえで血液生化学検査,血清学的検査,細菌学的検査などで確定診断を行う.また,薬剤に起因する白血球増加症の診断には病歴聴取が最も大切である.腫瘍性増加のなかで造血器腫瘍の診断には末梢血および骨髄塗抹標本における形態学的検査が重要である.さらに,細胞遺伝学的検査,細胞表面マーカーの検索,遺伝子検査などを加えることで確定診断する.造血器腫瘍以外の悪性腫瘍による白血球増加症の診断には,種々の画像検査が重要である.
b.好酸球増加症(eosinophilia)
末梢血好酸球数が500/μL以上を好酸球増加症としている.病態生理,鑑別診断などについては【⇨14-10-7)】を参照.
c.好塩基球増加症(basophilia)
概念
末梢血好塩基球数は20~80/μLであり,それ以上の増加は異常である.
鑑別疾患
反応性の好塩基球増加としては即時型過敏症や感染症で認められる.慢性骨髄性白血病でみられる場合は腫瘍性増殖であり,特に急性転化の指標となる.好塩基球からのヒスタミン分泌により全身の瘙痒感や消化性潰瘍を認めることがある.
d.単球増加症(monocytosis)
概念
末梢血単球の正常値は200~800/μLであり,800/μL以上の場合を単球増加症という.
鑑別診断
反応性増加は,結核などの感染症や膠原病などでみられる.多くは急性単球性白血病,慢性骨髄単球性白血病などでみられる腫瘍性増殖である.これらでは幼若な単芽球や前単球が増加する.抗癌薬による治療の際に,骨髄抑制からの回復期にみられることもままある.
e.リンパ球増加症(lymphocytosis)
概念
成人では末梢血リンパ球数4000/μL以上をリンパ球増加症という.
鑑別診断
反応性にリンパ球が増加する場合は感染症,特にウイルス感染症を考える.伝染性単核球症の場合は異型性の強いリンパ球が増加する.百日咳や結核でもみられ,反応性に増加するリンパ球のほとんどはTリンパ球である.腫瘍性増殖としてはリンパ系腫瘍であり,急性リンパ性白血病では幼若なリンパ芽球が増加する.慢性リンパ性白血病では成熟した腫瘍性リンパ球が増加し,成人T細胞性白血病では特徴的な花弁状の核を有する腫瘍性リンパ球を認める.
f.類白血病反応(leukemoid reaction)
定義・概念
末梢血で著しい白血球数の増加または幼若白血球の出現がみられ,白血病に類似しているが白血病以外の基礎疾患で起こったものと定義される.原因となる基礎疾患はさまざまである(表14-10-4).
病態生理
重症感染症ではG-CSF,IL-1,TNFなどのサイトカインが大量に産生され,骨髄球系細胞の造血が刺激されるとともに骨髄に存在する好中球や幼若な白血球が末梢血に流出する.末梢血に杆状核球,後骨髄球,骨髄球などの未熟な白血球が出現している状態を核左方移動とよぶ.
生体に過剰なストレスが加わることで大量の副腎皮質ステロイドが分泌されると,骨髄プールから末梢へ好中球が動員される.癌の骨髄転移では骨髄バリアの破壊,髄外造血の亢進あるいは癌が全身の炎症反応をもたらすことで類白血病反応をきたす.G-CSF産生腫瘍では,腫瘍細胞の産生するG-CSFにより骨髄系細胞の造血が強く刺激され好中球数が著増する.
診断
末梢血で著しい好中球の増加または骨髄芽球,前骨髄球,骨髄球などの未熟な白血球が出現する.原因となる基礎疾患に特徴的なさまざまな臨床的所見が認められるとともに,白血球数は50000/μLをこえることが多い.
癌の骨髄転移では未熟な骨髄球系細胞と赤芽球系細胞が末梢血に出現し(leukoerythroblastosis),播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併することが多い.わが国では胃癌,特にスキルスによる骨髄転移で類白血病反応を示す頻度が高く,骨髄穿刺・生検で癌細胞の集簇像を見いだすことで診断できる.重症感染症では好中球内に中毒顆粒,空胞,Döhle小体などを認め,NAPスコアは正常ないし高値を示す.G-SCF産生腫瘍では成熟好中球が著増するが,未熟な骨髄系細胞の出現はみられない.多くの癌種でG-CSF産生腫瘍の報告があるが,肺癌の頻度が高い.通常血清G-CSF濃度が高値である.慢性好中球性白血病(CNL)はまれな疾患で,WHO分類では骨髄増殖性腫瘍の1つとして分類され,成熟好中球が優位の好中球増加を認めるも,血清G-CSFは低値である.
急性白血病との鑑別が最も重要であるが,急性白血病では芽球と成熟好中球の間の分化段階の細胞が存在しない(白血病裂孔,hiatus leukemics)が,類白血病反応では各分化段階の骨髄系細胞が存在する.さらに,急性白血病では貧血,血小板減少が高度である.慢性骨髄性白血病ではNAPスコアが低値であり,白血球分画では好塩基球や好酸球の増加を認める.
治療・予後
類白血病反応の原因になった原疾患や合併症の治療を行う.予後は原疾患による.特に癌の骨髄転移,重症感染症で類白血病反応を示すときは予後が悪いことがままある.[木崎昌弘]
■文献
Bagby GC Jr: Leukopenia and leukocytosis. In: Cecil Medicine (Goldman L, Ausiello D eds), pp1252-1264, Saunders Elsevier, Philadelphia, 2008.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報