眼球の内外につく筋肉で,眼球の動きを支配する外眼筋と,瞳孔運動と調節を営む内眼筋に大別される。
長さ40~60mm,幅約10mmの小さな横紋筋で,外直筋(外側直筋ともいう),内直筋(内側直筋ともいう),上直筋,下直筋の四つの直筋と,下斜筋,上斜筋の二つの斜筋からなる。これらの筋肉は三つの神経に支配されており,外直筋は外転神経,内直筋から下斜筋までは動眼神経,上斜筋は滑車神経の支配を受けている。また上斜筋は腱が軟骨性の滑車trochleaによって支持されている。眼球はこれら六つの筋肉の働きで,水平,垂直,斜め方向へと動く。そこで,これらの動きに対応して,外直筋と内直筋は〈水平筋〉,それ以外の四つの筋肉は〈垂直筋〉と総称される。外眼筋の作用は,眼球の位置や動かす方向によって異なり,たとえば垂直筋の場合,垂直運動では直筋のほうが,回旋運動では斜筋のほうが作用が大きい。
眼は対象物を見るために,両眼が一方に動く共同運動と,双方の眼の動きが異なる非共同運動を行う。これらの運動を実現するために,外眼筋は骨格筋とは異なり,一眼または両眼の特定の筋群が共同して働く。たとえば共同運動で右を見るときは,右眼の外直筋と左眼の内直筋が共同して働く。このような1組の筋肉を共同筋という。これに対し,運動方向と逆の作用をもつ筋群(上記の場合は右眼の内直筋と左眼の外直筋)を拮抗筋という。眼球の非共同運動には輻輳(ふくそう)convergence(収斂(しゆうれん)ともいう)と開散divergence(発散ともいう)の2型がある。輻輳は眼前の一点に視線を集中させる機能で,ふつう両眼の内直筋の収縮によって行われる。一方,輻湊していた両眼の視線を左右に分散する機能が開散で,逆に両眼の外直筋の作用による。
→眼球運動
瞳孔筋と毛様体筋がある。瞳孔筋は瞳孔括約筋と瞳孔散大筋からなり,ともに瞳孔運動(ひとみの大きさを変化させる運動。これによって眼内に入る光量を加減する)を行う。毛様体筋はミュラー筋とブリュッケ筋からなり,調節(水晶体の厚さを変えて焦点距離を変え,網膜に像を結ばせる)を営む。これらのうち,瞳孔括約筋とミュラー筋は動眼神経に,他は交感神経に支配されている。なお,これらの内眼筋,外眼筋のほか,上まぶたを引き上げる上眼瞼挙筋も眼筋に含まれる。
眼筋が麻痺すると,両眼の共同運動や輻湊がスムーズに行えなくなり,一つのものが二つに見える複視diplopiaが起こる。眼筋麻痺には先天性のものと後天性のものがあるが,先天性の場合,複視に気づくことはまれで,ふつうはそれまで異常がなかった眼に,後天的に眼筋麻痺が起こって気づく。麻痺が起こって間もないときは,両眼を開いていると〈めまい〉がして歩きにくくなる。眼筋麻痺は,外傷,腫瘍,炎症,出血,糖尿病,筋無力症など,眼の病気,脳や神経,全身の病気など,いろいろな原因で起こる。脳や全身に異常があるときには,その原因となる病気の治療をし,炎症や筋無力症では薬による治療をする。それでも治らないときには外眼筋の手術をして,ものが一つに見えるようにし,同時に見かけもよくするようにする。
→目/眼
執筆者:岩重 博康
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
眼球の運動に関係する筋で、大別すると外眼筋と内眼筋とに分類できる。外眼筋は眼球の外部壁と眼窩(がんか)後部の視神経孔の周辺の骨壁とに付着し、眼球を意志に従っていろいろの方向に動かす筋で、随意筋(横紋筋)である。外眼筋には4個の直筋と2個の斜筋とがある。すなわち、上直筋、下直筋、内側直筋、外側直筋と、上斜筋、下斜筋である。筋の名称は眼球に付着している部位をさしており、各筋は前方へと走って眼球に付着する。上斜筋は眼窩の内側を走り、前方で眼窩縁近くの線維軟骨性の輪、つまり滑車を通り抜けて90度以上大きく屈曲し、眼球の上外側部につく。この筋で眼球は内旋(内方回転)と同時に外転と下転の運動を行う。下斜筋は眼窩の前内側縁につき、眼窩底を外側に向かって走り、眼球外側面に付着する。この筋で眼球は外旋(外方回転)と同時に外転と上転の運動を行う。
内眼筋は虹彩(こうさい)と毛様体とにある筋で、不随意筋である。虹彩には瞳孔(どうこう)の大きさを調節する2種類の筋があり、瞳孔括約筋が収縮すれば瞳孔が縮小し、瞳孔散大筋が収縮すると瞳孔は散大する。毛様体筋が収縮すると、通常は引っ張られている毛様体小帯が緩み、その結果、水晶体が凸状となる。眼筋を支配する神経は、上直筋、下直筋、内側直筋、下斜筋が動眼神経、上斜筋が滑車神経、外側直筋が外転神経である。内眼筋は自律神経の支配を受ける。
[嶋井和世]
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…表情筋のおもなものとしては,目の周りをとりまいて輪状に走る眼輪筋や,口の周りを走る口輪筋があり,その収縮によって目や口を閉じる。また口角には多くの筋肉が放射状に集まり,これらの収縮によって口を開ける(目を開ける,すなわち上眼瞼を挙上するのは外眼筋の働きで,表情筋ではない)。口角からほおの皮膚にのびる小さい筋肉は笑筋で,その収縮によってほおの皮膚を引いて,いわゆる〈えくぼ〉をつくる(しかし,えくぼの成因に関しては,そのほかの要素も関係している)。…
※「眼筋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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