北海道北東端にあり、オホーツク海に北東方向へくさび状に突き出した半島。網走支庁
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
北海道東端にあり、北東に突き出した半島。長さ約65キロメートル、基部の幅約25キロメートル。知床連山からなる分水界の北西側はオホーツク海に面し、オホーツク総合振興局管内の斜里町(しゃりちょう)に、南東側は根室海峡に面し、根室振興局管内の羅臼町(らうすちょう)に属する。新第三紀の堆積(たいせき)岩、火山角礫(かくれき)岩、凝灰岩などを基盤として、その上に千島火山帯を構成する海別岳(うなべつだけ)(1419メートル)、遠音別岳(おんねべつだけ)(1331メートル)、羅臼岳(1661メートル)、硫黄山(いおうざん)(1562メートル)、知床岳(1254メートル)などの火山がのり、分水界を形成している。これらの火山のうち硫黄山は明治以降4回の活動記録をもつ。
両側の海岸線とも火山山麓(さんろく)が海食を受けて断崖(だんがい)が海に迫り、河川の末端が滝となって海に落下する所もあり、海食による奇岩景観が随所にみられる。先端の知床岬付近など新第三紀層の占める部分には海岸段丘が発達し草原景観をつくっている。また羅臼岳山麓には知床五湖などの火山性堰止湖(せきとめこ)もあり、半島北半部は知床国立公園に指定されている。また、世界自然遺産「知床」として登録されており、豊かな自然とともに希少な動植物が生息し、海、山、川を循環する多様な生態系を構成する。半島基部の東岸に位置する羅臼港、西岸のウトロ港は秋のサケ漁の基地としてにぎわい、また両港は知床横断道路で結ばれる。なお、西岸には知床林道(一般車両は規制あり)が半島の中ほどまで通じている。
地名はアイヌ語のシレトコに起源し、その語源はシル(土地)エトク(端)で、岬の意であって、知床岬またはその付近の小岬をさしたものが広域の地名に転化したものとされる。
[岡本次郎]
『後藤昌美写真『知床・残された神の土地』(1990・小学館)』▽『八木健三著『北の自然を守る 知床、千歳川そして幌延』(1995・北海道大学図書刊行会)』▽『窪田正克著『知床』(1995・平凡社)』▽『兼本延夫著『知床半島 最後の秘境――兼本延夫写真集』(1997・求龍堂)』▽『谷口淳一著『日本の山と渓谷1 知床・阿寒』(2000・山と渓谷社)』
北海道北東端にあり,オホーツク海に北東方向へくさび状に突き出した半島。網走支庁斜里(しやり)町と根室支庁羅臼(らうす)町にまたがる。基部の幅約25km,先端の知床岬までの長さ約65km。東岸は根室海峡を隔てて国後(くなしり)島に相対する。新第三紀の堆積岩,火山角レキ岩,凝灰岩などを基盤とし,第四紀に噴出した海別(うなべつ)岳(1419m),遠音別(おんねべつ)岳(1330m),最高峰の羅臼岳(1660m),硫黄山(1562m),知床岳(1254m)などの知床連山と呼ばれる山脈が縦走し,半島の東岸と西岸の分水界をなす。硫黄山は頂部に北側に開いた馬蹄形の爆裂火口(径約1.2km)をもつ活火山で,明治期以降にも4回の噴火を繰り返し,1889年,1936年の噴火の際には北麓に多量の溶融硫黄を流出させた。火山地形が半島の大部分を占めるが,海岸部,とくに新第三紀の地質を占める地域では,標高20~80m,100~180mの2段の海岸段丘が発達する。海岸線は山麓や段丘が海食を受けて発達した断崖,急崖が多く,とくに西岸で著しい。崖を刻む幼年谷には滝がかかり雄大な景観を呈する。
半島は道内の最奥であること,地形が険しいことなどのため国内で最も開発の及ばない地域であり,陸路は東岸で相泊(あいどまり),西岸で岩尾別(いわおべつ)までしかなく,知床岬に至るものはない。宇登呂(うとろ),羅臼の両漁港を基地として秋にサケ漁が行われる。羅臼の北東約15kmの知円別(ちえんべつ)から知床岬付近までの沿岸では,7~8月に点在する番屋に泊まり込んでコンブを採取する。
火山や海食崖の雄大な景観が保たれ,動植物も多いため,1964年知床国立公園となった。各火山の山麓に針葉樹のエゾマツ,トドマツ,広葉樹のミズナラ,ダケカンバの原生林がある。標高500~900m以上はハイマツにおおわれ,シレトコスミレなどの高山植物群落もみられる。海食崖にはウミウ,ウミネコ,イワツバメ,オジロワシなどの鳥類が生息する。おもな観光地として,羅臼岳山麓の溶岩台地上に点在する火山堰止(せきとめ)湖の知床五湖,羅臼岳の登山口にあたる岩尾別温泉(純食塩泉,61℃),羅臼川上流の羅臼温泉(純食塩泉,70~90℃)などがある。1980年には,羅臼より斜里に至る〈知床横断道路〉(国道334号線)が開通し,これにより観光客の数も著しく増加したが,開発による自然破壊も深刻である。2005年世界自然遺産に登録された。
執筆者:大内 定
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