改訂新版 世界大百科事典 「石炭ガス化」の意味・わかりやすい解説
石炭ガス化 (せきたんガスか)
gasification of coal
石炭を原料として燃料ガスあるいは化学工業用の合成ガス(一酸化炭素と水素を主成分とする混合ガス)あるいは水素を生産することができる。石炭をガス化するためには,(1)熱分解(乾留),(2)部分酸化,(3)水素化分解などの原理を用いるが,そのいずれを採用するかは,目的とするガスの種類による。石炭ガス化技術はすでに工業的な実績をもつものも多いが,1970年ころから,その技術開発が再開された。
石炭の熱分解
石炭の高温乾留は1000~1250℃で行われるが,この方法によって得られるガスは主として水素とメタンである。またこの場合の主目的はコークスの製造であるから,ガスの生産量はコークス需要によって決まる。
石炭の部分酸化
石炭の部分酸化反応は酸素(または空気)および水蒸気を用いて行われる。石炭の一部が燃焼することによって生ずる高温により,石炭の構造の一部分は熱分解してガス化するが,同時に生じたチャー(固形炭素)が次のような反応によってガス化する。
C+O2⇄CO2 ……(1)
C+1/2O2⇄CO ……(2)
C+CO2⇄2CO ……(3)
CO+1/2O2⇄CO2 ……(4)
C+H2O⇄CO+H2 ……(5)
CO+H2O⇄CO2+H2 ……(6)
C+2H2⇄CH4 ……(7)
H2+1/2O2⇄H2O ……(8)
反応(1)(2)(4)(6)(7)(8)はいずれも発熱反応であるのに対し,反応(3)(5)は吸熱反応であり,全体の熱収支はこれらの反応によって決まる。石炭の部分酸化反応を工業的に実施するためには次のような反応器形式がある。
(1)移動層型反応器 5~6cm径の塊炭を上部から供給し,炉の底部から水蒸気と酸素を供給する方式で,ルルギ炉の例がある。炉は25~35気圧の加圧下で操業され,600~800℃でガス化反応が行われる。石炭の灰分は炉底から抜き出される。灰分の溶融を避けるため比較的低い温度と高い水蒸気/酸素比が必要である。粘結炭の処理が困難であり,ガス中に残存するタールや油分の精製,分離が必要である。なお,この炉を高温で操業し,石炭の灰分を溶融状態で取り出す改良法も開発途上にある。
(2)気流層型反応器 200メッシュ程度に微粉砕した石炭を水蒸気,酸素とともに炉内に噴射してガス化を行うもので,コッパース=トチェク炉の例がある。常圧下に1400℃くらいの高温で操業される。原料として使える石炭の範囲が広い(灰分含有量,灰分融点,粘結性,熱膨張性など)利点があるが,熱効率や反応器材質上の問題がある。この方法を加圧方式に改良する試みが行われている。
(3)流動層型反応器 5mm径前後の石炭粒子を常圧下,約1000℃でガス化する方式で,ウィンクラー炉の例がある。温度制御が良好であり,生成ガス中にタールなど不純物が少ない利点があるが,歴青炭,無煙炭は原料として使いにくく,炭素効率(ガス化収率)が低い欠点がある。また大型化に技術的困難がありそうである。
石炭の水素化分解
石炭の水素化分解によるガス化は,ハイガス法,ハイドレーン法などがアメリカで研究されたが,まだ実用化の見通しは得られていない。
サンシャイン計画におけるガス化研究
日本では通産省のサンシャイン計画の一環として,高カロリーガスの生産を目標とするハイブリッド法および低カロリーガスの生産を目的とする流動層ガス化技術がそれぞれパイロットプラント研究の段階にある。前者は石炭粉末を重質油によってスラリー化し,酸素と水蒸気でガス化する方法である。重質油の分解によって生ずる炭化水素によって生成ガスは大きな発熱量をもち,都市ガスなどパイプラインガスとしての適性が高い。後者は複合サイクル発電用のガスの生産を目ざしている(なお,1993年度よりサンシャイン計画,ムーンライト計画,地球環境に関する技術開発制度を統合したニューサンシャイン計画が発足した)。
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報