デジタル大辞泉
「確信犯」の意味・読み・例文・類語
かくしん‐はん【確信犯】
1 道徳的、宗教的または政治的信念に基づき、本人が悪いことでないと確信してなされる犯罪。思想犯・政治犯・国事犯など。
2 《1から転じて》悪いことだとわかっていながら行われた犯罪や行為。また、その行為を行った人。「違法コピーを行っている大多数の利用者が確信犯だといえる」
[補説]「時間を聞きちがえて遅れたと言っているが、あれは確信犯だよね」などのように、犯罪ほど重大な行為でない場合にも用いる。2の意はもともと誤用とされていたが、文化庁が発表した「国語に関する世論調査」で、「政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」と、「悪いことであると分かっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人」の、どちらの意味だと思うかを尋ねたところ、次のような結果が出た。
| 平成14年度調査 | 平成27年度調査 |
政治的・宗教的等の信念に基づいて正しいと信じてなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 | 16.4パーセント | 17.0パーセント |
悪いことであると分かっていながらなされる行為・犯罪又はその行為を行う人 | 57.6パーセント | 69.4パーセント |
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かくしん‐はん【確信犯】
- 〘 名詞 〙
- ① 法律で、政治的、道義的、思想的、宗教的な確信に基づく義務感または使命感によって行なわれる犯行。政治犯、思想犯などと呼ばれるものがこれに当たる。
- [初出の実例]「戦前」(出典:<出典>)
- ② 俗に、トラブルなどをひきおこす結果になるとわかっていて、何事かを行なうこと。また、その人。
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確信犯 (かくしんはん)
自己の道徳的,政治的あるいは宗教的信念に基づいて,ある行為を義務と考えたことを決定的な動機とする犯罪,あるいは犯罪者をいう。ドイツの法哲学者・刑法学者G.ラートブルフが提唱した概念であるが,その理論的説明はさまざまである。一般には,確信犯は理想主義的な価値観に基づいて現実社会の変革を目ざす者である。その例としては,政治犯や近世ヨーロッパの宗教犯などがある。確信犯は,既存の社会,法秩序は道徳的,政治的あるいは宗教的な根本理念に反した不当なものと考え,既存の秩序の正当性を否認する。とくに確信的な政治犯の場合には,たとえ国家権力によっていかなる制裁が加えられようとも,その理念の実現のためには生命を惜しまないことさえある。これに対して既存の秩序の維持と安定を図る国家権力にとっては,確信犯は秩序の破壊者以外の何物でもなく,極端な場合にはその制裁は残虐を極めることもある。しかし,相対主義的な価値観をとる民主主義的な法体制のもとでは,確信犯は通常の犯罪人とほぼ同様の制裁を受ける。ラートブルフは,確信犯は一般の犯罪者と動機の崇高さの点で異なるとして,確信犯に対しては非破廉恥刑,すなわち名誉拘禁の性格をもつ監禁刑を科すべしとした。この主張は1953年のドイツ刑法改正などで取り入れられたことがある。日本では,確信犯に対しては,それが政治犯などの非破廉恥犯であれば,原則として禁錮刑が科せられると解されている。しかし,確信犯にもさまざまな類型がありえ,それが通常の犯罪人とどこまで異なるか,という点については問題も多い。また,確信犯に対してはどのような制裁を科してもその確信を曲げさせることはできない場合も多い。確信犯が制裁によって〈転向〉することも多々あるが,確信犯の信条はその内心の奥深く根づいているものであり,容易には矯正されえない。それゆえ,確信犯に対する刑罰の性格については,刑罰の目的は応報ではなく,人間性の矯正にあるとする,いわゆる教育刑論は成り立たない,とされることが多い。
→政治犯
執筆者:長谷川 晃
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確信犯
かくしんはん
道徳上、宗教上、政治上の確信に基づき、自ら行為をすべき義務ありとの信念により行われる犯罪。このような確信犯の概念はドイツの法哲学者ラートブルフGustav Radbruch(1878―1949)の提唱により、ドイツや日本でも広く採用されている。とくに、自らの政治的確信に基づき、あえて禁令を犯す政治犯が確信犯の中心的な問題となる。政治犯を含む確信犯を刑法上どのように扱うべきかという問題をめぐって、従来から、確信犯に対しては、通常の犯罪者と区別して「名誉拘禁」の特典を認めるべきであるとか、日本のように懲役と禁錮とを区別する場合には、確信犯は非破廉恥な犯罪であるから、禁錮刑を科すべきである、といった考え方が主張されている。また、確信犯のうち、とくに政治犯については、国際法上、逃亡犯罪人の引渡しに関し、国際慣行として「政治犯人不引渡しの原則」が認められている。このように、確信犯か否かにより法律上の取扱いが異なる以上、確信犯の概念は、ラートブルフのように行為者の確信や信念といった主観的動機のみを基本とするのではなく、法的または社会的な観点から客観的に把握すべきであるという批判も強い。
[名和鐵郎]
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確信犯【かくしんはん】
道徳的・宗教的または政治的義務の確信を決定的な動機としてなされる犯罪。社会変動期に特に顕著に出現する。政治犯,国事犯とその実質を同じくする。確信犯人はその世界観が是認されない限り,自己の行為の違法性を意識していないから,既成の法秩序の内部では救済しにくい。法と道徳の境界線上にある難問であり,ラートブルフは,確信犯人に対しては,懲役刑ではなく名誉拘禁をもって臨むべきことを提唱し,ドイツ刑法にある時期採用された。→抵抗権/悪法論
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確信犯
かくしんはん
Überzeugungstat; Gewissenstat
宗教的教義や政治的信念,道徳的確信に基づいて行われる犯罪であり,社会の変動期に政治犯罪として表われることが多い。確信犯人は,自己の行動が現行の法秩序に違反するという自覚はもちながら,より高い次元の法の理念を実現しようとする点で,犯罪動機を抑止する反対動機の形成が期待できないところに特徴がある。したがって,刑罰の威嚇力や行刑による改善効果が疑問視され,一般の犯罪者とは違った特別処遇の必要性が説かれてきている。
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世界大百科事典(旧版)内の確信犯の言及
【政治犯】より
…すなわち彼らはみずからの思想ないし政治的確信に基づき,その使命感から行動を起こす。それゆえ,彼らは思想犯人または確信犯人とも呼ばれる。確信犯人は一般犯罪人と異なり破廉恥な性格を認定しがたいため,責任非難の根拠や教育可能性が問題とされ,しばしば行刑上の特別な処遇が論議の的となっている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」