神経症性障害(読み)シンケイショウセイショウガイ(その他表記)(Neurotic Disorders)

デジタル大辞泉 「神経症性障害」の意味・読み・例文・類語

しんけいしょうせい‐しょうがい〔シンケイシヤウセイシヤウガイ〕【神経症性障害】

心理的なストレスによって誘発されるパニック障害不安障害PTSD摂食障害などの総称

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家庭医学館 「神経症性障害」の解説

しんけいしょうせいしょうがい【神経症性障害 (Neurotic Disorders)】

◎国際分類に統一される
 ノイローゼということばに、なじみのある方が多いかと思います。精神医学では、伝統的にこれらの病態を「神経症」と呼んできましたが、近年、国際的に、精神医学的な名称を整理して、共通な名前をつけて分類しようという方向がうまれてきています。これらはその分類では、神経症性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害などの名前が与えられています。そしてそのなかに、細かい分類として、パニック障害(不安神経症)、強迫性障害(きょうはくせいしょうがい)(強迫神経症)、恐怖症(きょうふしょう)などがあげられます。
◎神経症性障害の特徴
●心因性(しんいんせい
 心因性とは、心理的なことが原因であるという意味です。
 からだの病気や身体科の検査結果に反映される病気が精神障害の原因であることを、「体因性(たいいんせい)(外因性(がいいんせい))」と呼びます。また、からだの病気の結果でもなく、検査結果にも反映されないが、精神病の範疇(はんちゅう)に入ると判断されるものを、「内因性(ないいんせい)」の病気と呼びます。
 心因性とは、まず「体因性」の精神障害を疑って診察・検査を行なっても異常がなく、つぎに「内因性」を疑って、精神病理学的に診察を行なっても「内因性」とは考えられない場合にのみ用いられる概念です。
 したがって、「気分が落ち込んで何もする気がない」「いらいらしてしかたがない」などの症状であっても、神経症性障害と決めつけないで、まずからだの病気がないかどうかを診察してもらうことがたいせつです。
「心因性」とは、災害や親しい人物の死去などの急激な精神的衝撃、毎日の生活のなかで環境的に取り除くことのできないような慢性的なストレス、家族関係がぎくしゃくしていることなどによって生じる精神的葛藤(かっとう)、幼児期までさかのぼる環境のなかで徐々に形成された性格の偏(かたよ)りなどを含みます。
発病には性格傾向が影響
 心理的な原因には、その人の性格傾向も含まれています。性格傾向にも大きく分けて2つあります。1つは、「生まれついたもの(生来素質)」です。たとえば、もともと自律神経が過敏であったり、疲れやすい体質であったりすることなどです。もう1つは、幼児期から現在までの成長の間にその人がおかれた環境によって形成される性格の偏りです。たとえば、過度に几帳面(きちょうめん)であったり、完全主義すぎたり、自己顕示欲が強かったり、逆に極端に自信が欠乏していたり、などです。
 これらの神経症性障害になりやすい準備性をもった人がいて、そこに相応する精神的な出来事が加わったときに発症すると考えられています。
 神経症性障害は、同じ環境で、同じ精神的衝撃を受ければ、誰でもがかかるというわけではありません。ある人にとっては、なんら精神的な問題を生じないこともあれば、周囲の人間からみて、大したことのないような出来事にみえても、その人にとってはとても重大な出来事で、その衝撃から神経症性障害が生じることもあるのです。
●機能的(非器質性(ひきしつせい))
 たとえば、不安神経症では、強い不安とともに動悸(どうき)や胸の痛み・不快感などが生じることがあり、身体表現性障害(しんたいひょうげんせいしょうがい)などでは、極端な場合は、脳出血のときと同じような手足の脱力・まひなどの症状がおこることがあります。しかし、神経症性障害によってこれらの症状がおこっているならば、内科的な検査を行なっても異常はみられません。脳の病気によって症状が出現している場合は、器質性と呼びますが、神経症性障害では、これが存在しないため、非器質性の病気、もしくは機能的な病気と呼びます。
 逆に、一見、不安神経症に似た症状が現われても現実に心臓病が存在したり、いわゆる「ヒステリーっぽい」症状にみえても、神経内科の検査で異常が認められるならば、これらは神経症性障害とは呼びません。
●障害は心身両面にわたる
 心理的な事柄が原因とはいっても、精神的な症状しか出現しないかというとそうではありません。動悸やめまい、脱力感やしびれ感、胸部の痛みなどの身体的な症状がともなうことが多くみられます。
●可逆的(かぎゃくてき)
 神経症性障害は、「機能的」な障害であるため、原則的には、うまく治癒(ちゆ)すれば、後になんら後遺症や精神的な欠陥を残しません。しかし、たとえば身体表現性障害で、歩行困難などの症状が出現して、それが長く続いたときには、足の筋肉が衰えてしまうなどの二次的な障害が残ってしまう場合がないわけではありません。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神経症性障害」の意味・わかりやすい解説

神経症性障害
しんけいしょうせいしょうがい

ストレスなど心的要因によって引き起こされる精神および身体の障害の総称。精神科領域で用いられる診断用語で、重度の精神障害ではなく、かつては神経症、俗にノイローゼとよばれていたものが該当し、不安や恐怖、不定愁訴(しゅうそ)といった症状を伴う。ICD-10(国際疾病分類第10版)では神経症にかわる概念としてこの用語が用いられ、「精神および行動の障害」という大分類に含まれる「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」のカテゴリーのなかに収められている。このカテゴリーのなかで神経症性障害に該当するものは、恐怖性不安障害(広場恐怖症、対人や赤面を含む社会恐怖症、高所や閉所あるいは先端などへの恐怖症)、その他の不安障害(パニック発作などを含むパニック(恐慌性)障害、不安神経症を含む全般性不安障害など)、強迫性障害(強迫思考あるいは反復思考、不潔恐怖症などの強迫観念を取りはらおうとする強迫行為ほか)などがあげられる。また、アメリカ精神医学会のDSM(「精神疾患の診断と統計の手引き」)では、かなり以前から神経症という疾患名は用いられておらず、「不安障害」などの表現が使われている。

 「神経症」という用語自体はこのように単独では使われなくなったが、臨床では患者への病状説明(ムンテラ)で用いられている。

[編集部 2016年7月19日]

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