デジタル大辞泉
「禿」の意味・読み・例文・類語
かぶろ【×禿】
1 頭に髪がないこと。はげ頭。また、はげ山にもいう。かむろ。
「この頭―ならん沙門には」〈今昔・二・四一〉
2 髪を短く切りそろえて垂らした子供の髪形。また、その髪形の子供。かむろ。
「―におはしましし折は」〈栄花・峰の月〉
3 江戸時代、上級の遊女に仕えて見習いをした、6、7歳から13、4歳くらいまでの少女。かむろ。
「高雄といふ女郎は…―を引き連れ」〈浮・禁短気・四〉
はげ【×禿】
1 毛髪が抜け落ちている部分。また、抜け落ちている状態。
2 山などに樹木のなくなっている状態。「禿山」
[類語]禿頭・禿頭
とく【禿】[漢字項目]
[音]トク(呉)(漢) [訓]はげ はげる ちびる かむろ かぶろ
1 はげ。はげる。「禿頭/愚禿」
2 すり切れる。ちびる。「禿筆」
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かぶろ【禿】
- 〘 名詞 〙
- ① ( 形動 ) 頭に毛髪がないこと。また、そのさま。はげ頭。かむろ。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
- [初出の実例]「我、今よりは奴婢(ぬび)に食を与へて、此の頭禿(かぶろ)ならむ沙門には不加施ず」(出典:今昔物語集(1120頃か)二)
- ② ( 形動 ) 山に樹木のないこと。また、動物の頭に角(つの)のないこと。その他、筆の毛のすり切れたさまや、樹木の葉の少ないさまなどにもいう。かむろ。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
- [初出の実例]「かふろな羊とは角のないを云て候ぞ」(出典:京大二十冊本毛詩抄(1535頃)一四)
- ③ 子供の髪型。髪の末を切りそろえ、結ばないで垂らしておく、おかっぱのような髪型。また、その子供。きりかぶろ。かむろ。
- [初出の実例]「天皇、岐嶷(カフロ)にましますより総角に至るまで、仁恵(うつくしび)ましまして倹下(へりくだ)りたまへり」(出典:日本書紀(720)允恭即位前(図書寮本訓))
- ④ 遊女に使われる少女。太夫(たゆう)、天神など上位の遊女に仕えて、その見習いをする六、七歳から一三、四歳ぐらいまでの少女。かぶろっこ。かむろ。
- [初出の実例]「禿(カブロ)、遣手(やりて)も空(そら)知らぬ風情なり」(出典:仮名草子・浮世物語(1665頃)一)
- ⑤ 武具。指物の名。棹の先端に(ヤク)の毛をまとめて短く下げたもの。はえはらい。
- ⑥ 植物「おきなぐさ(翁草)」の異名。〔物類称呼(1775)〕
禿の語誌
( 1 )元来は①の意味だったが、それに擬することで②や③の用法が生じた。
( 2 )③は、数え年三歳の若宮の「目ざしなる御髪を、せちにかきやりつつ、遊びむつれ給にぞ」のメザシの例などから推すと、そもそもは、幼児が髪を生やし始める髪置き後あまり時を経ず、十分に髪が密集していない、「目ざし」程度の状態を①に見なし、そしてその髪型の幼児をも指したものであろう。
( 3 )その後③の用法は、「童」を仲介としてワラハとカブロの連想関係が強まり、次第に広く子供の短めの垂髪およびその髪型の子供を指すようになった。
かむろ【禿】
- 〘 名詞 〙 ( 「かぶろ(禿)」の変化した語 )
- ① =かぶろ(禿)①②
- ② =かぶろ(禿)③
- [初出の実例]「うたれたりといふならば、かむろの母がなげくべべし」(出典:幸若・敦盛(室町末‐近世初))
- ③ =かぶろ(禿)④
- [初出の実例]「七つ八つの時より苦界十年と定め十一二より禿(カムロ)に仕立てられ」(出典:浮世草子・世間母親容気(1752)一)
とく【禿】
- 〘 名詞 〙 仏語。頭髪を剃った様子。また、形は僧であって、半僧半俗の生活をしている人をいう。禿居士。
- [初出の実例]「私自落レ髪猥著二法服一。如レ此之輩積レ年漸多。天下人民、三分之二、皆是禿首者也。此皆家蓄二妻子一口啖二腥膻一。形似二沙門一心如二屠児一」(出典:本朝文粋(1060頃)二・意見十二箇条〈三善清行〉)
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普及版 字通
「禿」の読み・字形・画数・意味
禿
7画
[字音] トク
[字訓] はげ・はげる
[説文解字]
[字形] 象形
禾の実がおちたあとの形。花のある形は秀、実のある形は穆(ぼく)。穆の卜文・金文の字形から実を外すと、禿の形となる。字の本義は、禾の実のおちたもの、核のあるものならば殼(殻)(かく)となる。殼は穀実を殴(う)ちおとす形。字の本義は禾の実なきものであるが、人に及ぼして禿髪の意とする。〔説文〕八下に、字を禾と人との会意とし、「髮無きなり。人に從ひ、上は禾粟(くわぞく)の形に象り、其の聲を取る」とするが、人に従うものは年の初形である。〔説文〕の解は形声義ともに合わず、また〔王育説〕として、文字の創作者と伝えられる倉頡(そうけつ)が「出でて禿人の禾中に伏するを見、因りて以て字を制(つく)る」とする説を引くが、俗説にすぎない。禾の虚(きよたい)(実のぬけがら)を禿といい、人に及ぼして禿髪の意とし、また他に及ぼして禿筆・禿山・禿樹のようにいう。〔説文通訓定声〕に、州語で禿頂を秀頂ということを例として、秀・禿の字義の近いことを注意しているが、禿が秀の虚であることに説き及んでいない。
[訓義]
1. 禾の虚、禾の実のおちたあと、から。
2. はげ、はげる、髪がぬける、毛がぬける。
3. すりきれる、おちつくす、てかてかになる。
4. 無帽。
5. 国語で、かぶろ、かむろ、童髪。
[古辞書の訓]
〔新字鏡〕禿 髮无(な)し。加夫呂奈利(かぶろなり) 〔名義抄〕禿 カブロナリ・カタクナシ・ヲツ〔字鏡〕禿 カフロ・マロナリ・キヒ・カヒロク・カタクナシ
[部首]
〔説文〕〔玉〕に禿を部首として、(たい)をその部に属する。字はまたに作り、秀穂の落することをいう。のち人に及ぼして、顔容の衰えることをという。
[語系]
禿thuk、秀siuは声近く、秀のおちたものを禿という。(・)duiも禿に従ってその声義をえている字である。
[熟語]
禿穎▶・禿翁▶・禿豁▶・禿巾▶・禿▶・禿毫▶・禿山▶・禿厮▶・禿者▶・禿樹▶・禿袖▶・禿人▶・禿瘡▶・禿▶・禿頂▶・禿丁▶・禿奴▶・禿髪▶・禿筆▶・禿鋒▶・禿友▶・禿露▶・禿顱▶
[下接語]
頑禿・愚禿・酒禿・頂禿・頭禿・髪禿・半禿・斑禿・筆禿・病禿・鬢禿・毛禿・老禿
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禿 (はげ)
もともと毛のある部位,ことに頭部の毛髪が欠如しているか,まばらとなった状態をいう。医学用語の脱毛症alopeciaは,日本語の意味からすれば,いったん生えた毛髪の脱落ということになるが,先天的な毛髪の欠落にも用いられることがあるので,ほぼそれと同義語と解釈してよい。元来,毛には成長期,退縮期,休止期と周期(毛周期)があり,毛は最終的には自然に脱落するものである。正常な場合,この脱落による欠損は,新しい毛の再生により充てんされる。この過程はモザイク状に起こり,外見上,毛髪の欠落としては認められない。後天的に生ずる脱毛症は,一定範囲の毛髪がいっせいに脱落することにより生ずる。その原因には種々のものがあるが,多くは毛周期と関係が深い。円形脱毛症では,毛根部に強い障害が起こり,成長期,休止期のいずれからも脱毛が起こる。壮年期脱毛症は,毛周期の短縮と終毛(硬毛)から軟毛への転換による。休止期脱毛状態は,各種ストレスにより急激に成長期から休止期となり脱落する。機械的脱毛症の多くは休止期毛の増加による脱毛である。なお先天性脱毛症(先天性無毛症と先天性乏毛症)は,毛器官の形成ないし発育障害により生ずると考えられる。
→脱毛症 →無毛症
執筆者:石橋 康正
禿 (かむろ)
江戸時代の遊郭における少女の職名。〈かぶろ〉のなまりで,〈子ども〉とも呼ばれた。もともとは,髪を結わずに前髪を眉の上で切りそろえた髪形の名称であり,その髪形をした少女をもいった。遊郭のかむろが,初期にこの髪形をしたことは《松浦屛風》などの風俗画に描かれている。後には結髪して髷をつけたが,名称はそのまま残った。かむろの名は3字名を普通とし,ときに2字名を使うが(例 みどり,こう),4字名は用いなかった。多くは7~8歳で身売されて遊郭に入り,13~14歳になるまで上級妓に専従した。この上級妓が生活費の大部分を負担する例が多かった。この期間に,見習として郭内の習慣を覚え,容姿・才能により上級妓の候補とみなされたものには,音曲・教養を修練させた。13歳ごろに新造に昇格したが,かむろの修業を経た新造をかむろ立ちといい,行儀・技芸に習熟したものとして評価された。明治以後は年齢規制などのためかむろは置かれなくなった。
執筆者:原島 陽一
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禿
かむろ
かぶろともいう。廓(くるわ)ことば。遊里で一人前の遊女になるための修業をしている6、7歳から13、14歳までの少女たちのこと。これを過ぎると吉原では振袖新造(ふりそでしんぞう)から番頭新造となり、さらに太夫(たゆう)となった。禿は髪を額のところで切り、残りを肩のあたりまで垂らして切りそろえたので切り禿ともいう。江戸末期の禿の服装は、桃色縮緬(ちりめん)か絖(ぬめ)の無地の表着に花魁(おいらん)の定紋を5か所つけ、帯はビロード、袖は広袖。浮世絵では花かんざしの華麗な服装で描かれている。太夫の道中では、女郎の格によりお伴(とも)の禿も3人、2人、1人の区別があった。桃山時代以来、一般婦女にも切り禿の髪がみられる。
[遠藤 武]
『西山松之助編『遊女』新装版(1994・東京堂出版)』
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
禿【かむろ】
〈かぶろ〉とも。童女の髪を結わずに短く切りそろえ,かぶせたように見える髪形(切禿)。のち遊廓(ゆうかく)の妓楼で使われる少女をいい,禿の修業を終えてのち遊女となった(禿だち)。
→関連項目揚屋|花魁
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禿
かむろ
「かぶろ」ともいう。 (1) 前髪の末を切りそろえ,後髪も結わずにそろえて垂らす髪型。 (2) 江戸時代,吉原などの遊所で,大夫,天神など上級の遊女に仕え将来遊女となるための修業をしていた少女。この禿を経ない遊女を「つき出し」といった。『江戸花街沿革誌』に「七八歳乃至十二三歳の少女後来遊女となるべき者にして遊女に事へ見習するを禿といふ。…禿の称号は吉原のみ用ひ,岡場所などにては豆どん,小職などと云ひ慣はしたり」とある。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
禿
(通称)
かむろ
歌舞伎・浄瑠璃の外題。- 元の外題
- 羽突かむろ
- 初演
- 天明5.2(江戸・桐座(2代目菊之丞十三回忌追善興行))
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
禿 (カブロ)
植物。キンポウゲ科の多年草,園芸植物,薬用植物。オキナグサの別称
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の禿の言及
【新造】より
…遊女を舟に見立てたものというが,語源は不明。《あづま物語》(1643)は新しく出た太夫を新造とよんでいるが,後にはかむろ(禿)あがりの,姉女郎の部屋に同居中のものを新造といった。吉原ではかむろが14歳ぐらいになると新造として披露した。…
【毛】より
…やがて萎縮した毛球の細胞の一部から分裂能が再び出現する時期が訪れると,新生細胞群が皮膚深層に移動し,新しい毛球が形成されて,そこから伸び出る毛が旧毛を押し出す(旧毛の脱落)。周期に差はあっても,このような毛の交換はすべての毛でみられるものであるが,いわゆる“はげ”は頭毛の交換がやむために起こる。 毛は皮膚表面に対してつねに斜め方向(直立した人体では上から下への向き)に植立するが,これを皮膚表面に直角方向に起こすのが立毛筋の作用である。…
【脱毛症】より
…いわゆる〈はげ(禿)〉のことで,正常に存在すべき有毛部,ことに髪のある頭部や顔面に,毛髪が欠如し,あるいはその太さや数が減少して,まばらとなった状態をいう。禿髪(とくはつ)症,禿頭病ともいわれる。…
※「禿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」