イネ,コムギ,トウモロコシなど種実を収穫することを目的として栽培される一年草または二年草の作物,およびその種実の総称。その種実はカロリーが高く,主食あるいはその代用となりうる。穀物はまた貯蔵性がよく,物理的衝撃にも強い。このため,長距離の運搬が可能で,消費される場所から離れた土地でも栽培できる。また,農作業用の機械を導入して大規模に栽培することも容易で,生産費を比較的安くすることができる。
穀物のうち,主食とするものを主穀,その他のものを雑穀と呼ぶことがある。また穀物はイネ科に属する禾穀(かこく)類を主体とするが,そのほかにマメ科の菽穀(しゆくこく)類などが含められる。禾穀類には,イネ,コムギ,オオムギ,ライムギ,エンバク,トウモロコシ,モロコシ,アワ,ヒエ,キビなど,菽穀類にはダイズ,アズキ,リョクトウ,インゲンマメ,ラッカセイ,エンドウなどがある。また,それ以外の穀物には,タデ科のソバ,アカザ科のキノア,ヒユ科のセンニンコクなどがある。古くから〈五穀豊穣〉などと呼びならわされている〈五穀〉は,イネ,ムギ,アワ,マメにヒエまたはキビを加えていう場合が多い。
穀物は食用,加工用,飼料用などに供される。中心的な用途は,文化やその発展と大きな関連があり,古代ではほとんどが食用として利用され,しかも主食あるいはその代用とされていた。最近では,工業原料としての利用割合も高く,また先進国の肉食化が進むのに伴って,飼料用としての需要が伸びている。食用とする方法には大きく2種類ある。一つは粒のまま,あるいは粗く砕いて,焼いたり蒸したり煮たりして,飯や粥として食べる方法であり,もう一つは粉にひいてから,練ってめん類やだんごとしたり,練ったものを発酵させてから,焼いてパン,蒸してまんじゅうとして食べる方法である。加工用としての利用はデンプンを採り出し,さらにそれを糊(のり)に加工したり,発酵させてアルコールや酢をつくる原料とする。また,油を搾り採る。飼料用としては粒のまま,あるいは砕いたりつぶしたりして家畜に与える。最近では何種類もの穀物やビタミン,ミネラルなどを混ぜ合わせ,配合飼料として与えることが多い。
一定の穀物と文化との結びつきは深い。現在の主要な穀物産地はその原産地から離れた国々にまで広まっており,文化と穀物との新しい関係も生まれているが,多くの場合は長い歴史によって作り上げられ,文化の隅々にまで行き渡った深い関係がある。古代の文明はそれぞれの地域に合った穀物を選び出し発達させ,その基盤の上に多くの文化を生み出した。メソポタミアやエジプトの文明,またそれらに続くギリシア,ローマの文明はコムギ,オオムギなどの禾穀類とエンドウ,ソラマメなどの菽穀類をエネルギー源とし,中国の黄河の文明も伝播(でんぱ)したムギ類を中心にダイズ,アワ,キビなどの穀物を基盤として人口の集中を可能とした。一方,インド,華南,そして日本の文明は,イネを基盤に成立し,日本では華北のムギ類,ダイズなどをも併せてその文化を発達させた。新大陸では中・南アメリカの文明が,トウモロコシとインゲンマメ,ライマメなどの穀物に,ジャガイモやサツマイモなどのイモ類を併合した基盤の上に成り立っていた。
執筆者:星川 清親
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子実を収穫するために栽培される一年生または二年生草本作物、およびその子実(穀実)の総称。穀物は主食あるいはその代用とされ、主食とするものを主穀、そのほかのものを雑穀とよぶ。最近は食用のほかに、デンプンや油をとったり、アルコール原料など加工原料としての用途も増え、また家畜などの飼料としての用途も多い。穀実の特徴は貯蔵性に優れ、物理的衝撃に強く、長距離の輸送が容易なことである。また穀物は農業機械による大規模栽培に適し、そのため生産費を安く大量生産できるなどの特長もある。
イネ科の穀物を禾穀(かこく)類とよび、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ、モロコシ、アワ、ヒエ、キビ、テフその他が含まれる。マメ科の穀物は菽穀(しゅくこく)類とよび、ダイズ、アズキ、リョクトウ、インゲンマメ、ササゲ、ラッカセイ、エンドウその他がある。そのほかタデ科のソバ、アカザ科のキノア、ヒユ科のセンニンコクなどがある。
[星川清親]
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…東洋の主穀,つまり五穀(米,麦,アワ,ヒエ,豆)のうちでは豆(ダイズ)以外はみなイネ科の作物(禾穀(かこく)類)であるが,そのうち最も重要な米に対して,それに次ぐものが麦とされた。しかし穀物のうちでもアワ,キビ,ヒエなど小粒の穀物群は麦とは区別される。作物学上は,コムギとオオムギを主とし,これにライムギ,エンバクなど類似の用途や特性をもつ穀類を加えて,一括して麦類として取り扱う。…
… そのような長い人類と植物との関係のなかから選択された,食用となっている栽培植物には,その利用型(方法),利用部位や成分,それに植物の生活形といった面で密接な相関が認められる。主食として,植物が貯蔵しているデンプンを利用するものとしては,種子(穀物)と地下貯蔵器官(いも類)とがある。前者はイネ科の一年草や二年草で,開花結実すれば養分を種子に転流しつくして枯死する生活形のものばかりである。…
※「穀物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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